第108話『透明ドラゴンズ』
「出店の案がある人〜?」
魔王様の問いに俺とマリアは勢い良く挙手をした。
現在魔王城オフィスにて、会議中である。議題は、今度魔王城行われる予定となっている、フェスの出店についてだ。
魔王様は俺とマリアを見ると溜息をつく。
「そこの、ラーメンツインドラゴンズは自粛しててね」
「変な名前で一括りにしないでくださいよ! 俺たちには『カズマリ』と言う、店舗名があるんです!」
マリアも「そうですわ!」と身を乗り出す。魔王様はそれを見てまたまた「はぁ……」と溜息をついた。
「それ、一回限りの登場だと思っていたわ」
「魔王様、当時のわたくし達とは、違いますのよ」
マリアがこちらを伺いながら、同意を求める。
「その通りです、魔王様。俺たちは何故前回の出店で売れなかったかを、検証したんですよ」
「それは味が濃す………………どう変わったのかしら?」
「まず、油に問題があると結論付けました」
「やっと気が付いたのね」
「以前の俺たちのラーメンは、油の膜が出来るようなラーメンでした」
「その通りよ、あんなのは大衆受けしないわ」
魔王様も概ね同意見のようであった。ここで、レヴィアさんがコーヒーを淹れてくれたため一旦話が中断する。
俺は淹れたてのコーヒーを、少し口に含んでから「なので……」とさらに話を進める。
「油を増やそうと思います」
「そうそう、油を減らし………………増やすの!?」
「さらに以前は箸が刺さる程度のドロドロスープでしたが、今度は刺さりもしないですよ!」
「悪化してるじゃない!」
「爆売れ間違い無し!」
「そんなわけ無いでしょう! とにかく、カズキくんは運営に回ってちょうだい」
「嫌です」
「そう、なら減給ね」
減給を出されると俺は弱い。とても、とても弱い。マリアに「すまん」と謝り、渋々魔王様に従うことにした。
さて、俺が運営に回った所で話が元に戻る。
魔王様はもう一度「意見がある人はいるかしら?」とオフィスを見渡す。
すると「はいはーいですわ!」とラーメンを却下されたばかりのマリアが勢いよく挙手をした。
しかし、魔王様が牽制する。
「ラーメンはダメよ?」
「分かってますわよ」
「じゃあ、いいわよ」
マリアは「こほん」と軽く咳払いをしてから、話し始めた。
「フェスの内容を生配信しますわ」
「いいわね、採用」
「採用速すぎ!」
俺のツッコミはスルーされ、あっさりとマリアの案は通った。
だが、マリアの案は理にかなっている。
全ての人が出店、並びにフェスに来れるわけではない。
しかしこれならば、家に居てもその雰囲気や、なんのなくの会場の空気を感じる事が出来るだろう。
マリアにしては中々やりおる。
マリアの案が通った所で、今度はレヴィアさんが可愛らしく手を挙げた。俺はレヴィアさんを指差して宣言する。
「採用」
「えっ、あ、あの…………」
「カズキくんにその決定権はないわ」
動揺するレヴィアさんを他所に、魔王様に遮られてしまった。
少しおふざけが過ぎたようだ。魔王様は「それで……」とレヴィアさんに話をするように促す。
レヴィアさんは1度デスクを離れると、何やらペットボトルに入った透明な液体を持ってきた。
レヴィアさんはそのペットボトルを魔王様に手渡しながら、 質問する。
「これ、なんだと思いますか?」
「お水かしら?」
「これ、コーヒーなんです」
「なんですって!?」
魔王様が驚きの声を上げた。レヴィアさんは魔王様からペットボトルを受け取り、その中身をグラスに注ぐ。そして、それを俺たちに配布した。
透明な液体。見た目はまんまお水である。
グラスに顔を近づけて匂いを嗅いでみる。なんか、コーヒーっぽい。
意を決して、その透明な液体を飲んでみた。
「…………コーヒーだ!」
「コーヒーね」
「コーヒーやなぁ」
「コーヒーですわ!」
他の3人も同意見なようであった。味は砂糖が少量入ったコーヒーといった感じで、悪くはない。
まさか、レヴィアさんが近年の透明な飲み物ブームに乗ってくるとは、予想外であった。
「これ、小春さんに、言われて試しに作ってみたんです♪」
「ふふふっ、あんじょうに出来とるよ〜」
なーるほど。レヴィアさんにしては、かなり捻った案だと思ったが、小春ちゃんの入れ知恵だったようだ。
もちろんこの案も採用となり、そして最後に小春ちゃんが、いつも通りちょこんと手を挙げた。
魔王様は小春ちゃんを指差す。
「はい、採用」
「魔王はん、速すぎるんとちゃいます〜?」
「こはるんの案は大体しっかりしているじゃない、聞かなくても採用よ」
「ふふふっ、おおきに〜」
とは言ってはいるものの、説明はするそうで、俺たちに資料を配る小春ちゃん。俺は興味げにその資料を眺めた。
【つけ麺】
「なんか、普通ね」
魔王様が代表して意見を述べる。俺もそう思う。やり手の小春ちゃんにしてはあまりにも普通過ぎる。
小春ちゃんは、資料を片手に詳細の説明を始めた。
「まず、つけ麺のツケダレは、カズキはんに作って貰おうと思いやす」
「俺か? もちろんいいぞ」
魔王様が「ちょっと……」と小春ちゃんに何かを言おうするが、静止して話を続ける。
「つけ麺のスープは、少し濃い目の方が良いと思いやす」
魔王様はハッとした表情をした後に、俺の顔をマジマジと見つめる。
「なんですか、魔王様」
「カズキくん、スープ作ってあげなさい」
「いいんですか!?」
「いつも通り作るのよ……あっ、箸が刺さる程度でね」
魔王様の了承も得られた所で、俺は小春ちゃんに話しかける。
「つけ麺だから、少し濃い目につくろうか?」
「いつも通りでかまへんよ〜」
俺は「了解」と返事を返す。なんにせよ、ラーメンを作れる事になった。小春ちゃんに感謝である。
当日が楽しみだ。
*
後日、小春ちゃんプロデュースのつけ麺はバカ売れした。
なんでも、濃いめのツケダレがとても美味しく、好評だったとか、なんとか。
やっと俺のラーメンの時代が来たようだ。やったぜ!
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