表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/160

第107話『魔女っ子スリープ』


「カズキくん、ちょっとカズキくんっ、聞いてるの?」


 魔王様に呼ばれ、眠い目を擦りながら「聞いてますよー」と気怠い返事を返す。

 現在魔王城オフィスにて、デスクワーク中なのだが、ちょっと眠い。

 お昼下がりのこの時間、お腹は満たされ、ぽかぽかとした陽気に当てられついウトウトしたら最後、待っているのは「減給」だ。

 とにかく、眠気を覚ます必要がある。


「魔王様、コーヒーを淹れてきます」


「わたしの分もよろしくね」


 俺は「りょーかい」と空返事を返してから席を立つ。

 今日はレヴィアさんが居ない。出張中だそうだ。

 なので、俺は朝からコーヒーを飲んでいない。もしかしたらそれがこの眠気の原因なのかもしれない。

 おまけに小春ちゃんも居ない。こちらは会議中だそうだ。マリアは…………寝てんだろ。


 俺はドリップマシーンの前に立ち、戸棚から魔王様のカップと、自分のカップを取り出す。

 しかし、魔王様にアイスなのか、ホットなのかを聞いていない事を思い出した。

 少し離れたデスクに座る魔王様に、声を張り上げて質問をする。


「魔王様ー!」


「何かしらー?」


「ホットですかー? アイスですかー?」


「どっちでもいいわよー!」


 それが1番困るのだが…………。

 そういえばレヴィアさんがコーヒーを淹れてくれる時は、俺に何も聞いて来ない。

 なのに、アイスだったり、ホットだったり、カフェオレだったり、カフェモカだったりする。

 日によっては濃かったり、砂糖が入っていたりもする。

 そしてそのコーヒーは、丁度俺の飲みたかったものだったりもするのだ。

 もしかしたら、レヴィアさんはテレパシーが使えるのかもしれない。

 残念な事に俺はテレパシーが使えないので、自身のカップにはホットコーヒーを、そして魔王様のカップにはアイスコーヒーを淹れた。

 こうすれば、魔王様が急に意見を変えて、「やっぱりホットね」とか、「アイスコーヒーがいいわ」と言っても対応する事が出来る。

 ホットと言ったならば俺のカップを、そしてアイスならば、魔王様のカップを差し出せばいい。

 我ながらいい案を思いついたものだ。


 俺はスティックタイプの砂糖を3つほど持ち、コーヒーをこぼさないようにデスクへと戻る。


「魔王様、アイスとホットがあります」


「じゃあ、ホットで」


 俺はホットの方のカップと、お砂糖を3つ差し出した。魔王様は超甘党なのだ。

 魔王様はそのお砂糖を見るとちょーっと、顔をしかめるが素直に受け取ってくれた。


「3つじゃ少な…………ううん、充分よ、ありがとう」


「カップは俺のですが、我慢してくださいね」


「別に構わないわよ」


 魔王様はそういうと、お砂糖を1つずつコーヒーに入れてから、俺の方に向き直ると、指を「くるくる」とさせた。


「なんですか?」


「マドラーは無いのかしら、店員さん」


「俺は店員さんじゃないですよ」


 俺は引き返してマドラーを取りに行こうとするが、マドラーの入っている戸棚が1人でに開いた。

 そしてマドラーが1本ふわりと浮かび、魔王様の手元に着地した。


「…………便利ですね」


「昔、あっちゃんに魔女みたいって言われたことがあるわ」


「実際魔女じゃないですか」


「失礼ね、どう考えても魔法少女って感じでしょ」


「…………そうですね!」


「何よ、今の微妙な間は」


 魔王様が眉をひそめる。仕方ない、話を逸らすとするか。


「魔王様は他にも沢山魔法が使えますよね」


「基本なんでも出来るわよ。試しにやってあげるわ」


「えっ、いや、待ってく––––」


 魔王様は俺が止めるのも聞かずに魔法の詠唱を始める。


「テクマクマヤコン、テクマクマヤ––––」


「ちょっと待てぇぇえええい!!」


「何よ、急にそんな大声を出して…………詠唱の邪魔をしないでちょうだい」


「そんな詠唱いつもしてなかったですよねぇ!?」


「そうね」


「じゃあ、なんで急にやり始めたんですか!?」


 魔王様は「そうねぇ」と首を傾げる。そしておもむろに口を開いた。


「雰囲気かしら」


「アバウト!」


「他にもラミパス、ラミパスとかあるわよ」


「そうですか……」


 俺は溜息をつきながら、コーヒーをすする。脳内ではきゃる〜んな衣装を見に纏った「魔女っ子ま〜ちゃん」が、絶賛変身シーンのイメージ映像を再生し始めた。

 …………いかん、本当に眠さで頭がおかしくなっているようだ。

 コーヒーをぐいっと飲み干してから、少しでも眠たさを紛らわす為に、パソコンの画面を注視する。

 しかし、無駄な足掻きのようで、まぶたとまぶたが、くっ付いてしまいそうになる。

 必死に目をパチクリして耐えていると、机の上に置いてあった魔王様のスマホが振動し始めた。

 魔王様はめんどくさそうにそれを取ると、俺に「あっちゃんから」と着信画面を見せてから、電話に出た。


「おかけになった電話は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていない為、かかりません」


 そんなのに引っかかるわけ無いだろう。案の定、神様は引っかからなかったようで、魔王様は「何か用なの〜?」とコレまた面倒くさそうに対応を始めた。


「あぁ、うん。その件なら片付いているわよ。あっ、それよりね! カズキくん、テクマクマヤコン知らないの!」


 あっ、これ知ってるぞ。話がズレにズレて、3時間くらい長電話をするやつだ。

 ………………なら居眠りしても平気なのでは?


 俺は魔王様にアイコンタクトを取ってから、席を外す。

 目指すは、オフィス内にある畳スペースだ。

 この畳スペースは、少し前までコタツが置かれていた場所だ。そして今はコタツではなくて、ちゃぶ台が置かれている。

 ここでよくマリアが座布団を枕がわりに、お昼寝をしていたりする。全く羨ましい。

 そして、小春ちゃんなんかも、こちらの方が居心地がいいのか、座布団の上にちょこんと座り、お茶をすすっていたりもする。

 俺は座布団を数枚並べ、簡易ベッドを作り、魔王様を盗み見る。

 神様との電話に夢中なようであり、こちらの事など気にはしていないようであった。

 俺は身体を横にして、睡魔に身を任せる。なんて、幸せなんだ––––



 *




「カーズーキくんっ、起きなさい」


 肩を優しく揺さぶられ、目をゆっくりと開く。

 すると魔王様の空色の瞳が飛び込んできた。ぼんやりとした視界の中で、俺は現状をこれまたゆっくりと把握して、飛び起きた。


「違うんですよ、魔王様」


「はいはい、眠かったのね」


「いや、だから、違うんですよ」


「何が違うのかしら?」


 魔王様は「クスクス」と笑いを堪えるように微笑み、飛び起きた俺の肩口から滑り落ちた、カーディガンを拾い上げる。

 怒ってはいないのだろうか…………俺は恐る、恐る尋ねる。


「…………あの、怒ってないんですか?」


「眠かったんでしょ? 別にお昼寝くらいしても、わたしは怒らないわよ」


 魔王様はあっけらかんと答えた。スマホで時計を確認すると、就業時間となっている。

 しかし、時計の下に異常な数の「イイネされました!」通知が来ていた。

 嫌な予感がして、俺は自身の「異世界グラム」のアカウントを確認した。

 すると、そこには寝ている俺の画像が投稿されていた。しかも、額にマジックで「宵闇」と書かれている。

 犯人は…………考えるまでもない。


「魔王様! 何やってるんですか!」


「ま〜ちゃんは、知らないもーんっ」


「人のスマホで勝手に投稿しないでくださいよ!」


「ま〜ちゃん、何もやってないもーんっ」


 シラを切る魔王様を叱るに叱れない。居眠りしてしまった罪悪感もあるが、この程度の可愛い悪戯ならば、と許してしまう俺なのであった。

 全く「魔女っ子ま〜ちゃん」ではなく「悪戯っ子ま〜ちゃん」ではないか。



セーブしますか? ▼


▶︎はい

 いいえ


▷はい

 いいえ


セーブがかんりょうしました! ▼

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ