第105話『可愛いダンシング』
「カズキくん、今日ラジオの日だから」
昼食を取っていると、魔王様が正面の席に座りながら話かけてきた。
ラジオ放送はもう慣れたものであり、俺のポジションはツッコミだ。
最初は不満を持ってはいたが、これが慣れてくると結構楽しかったりもする。
しかし、今日はちょっと違うらしい。
「今日はいつもと違うメンバーでやるわ」
「誰が出るんですか?」
「わたしとカズキくん、それからあっちゃんと、プラム」
「4人ですか?」
魔王様はすこーしムッとした表情をしてから「それと」と話を続ける。
「イシぽよ」
「よーし、頑張っちゃうぞー!」
張り切る俺に対して、魔王様は溜息をつくと何かの飲み物を俺に差し出した。
「何ですか、これ?」
「イシぽよも毎日飲んで––––」
「いただきます」
俺は魔王様の言葉を最後まで聞かずに"ソレ"を飲み干した。
*
––––ON AIR––––
神様「どもどもっ、あっちゃんだよ〜!」
イシス「こんにちはっ、イシぽよですっ」
プラム「みんなぁ〜! プラムだよぉ〜!」
魔王「魔王のま〜ちゃんでーす」
イシス「あら、ま〜ちゃん、元気がありませんわね」
魔王「いつもこんなものよ。ほら、そこの黒いのも挨拶して」
宵闇「………………」
魔王「何よ、その目は……」
宵闇「………………我は」
イシス「………………」
宵闇「宵闇の」
神様「……ふぁ〜」
宵闇「………………」
魔王「………………」
宵闇「魔王」
イシス「………………」
宵闇「刻の––––」
魔王「尺使い過ぎよ!」
プラム「宵闇の魔王様ぁ…………ステキっ♡」
イシス「あらあら、梅ちゃ––––」
プラム「あたいをその名で呼ぶっ!………………こほんっ、プラムだよっ♡」
神様「忙しいねぇ」
魔王「そうよ、いいじゃない、可愛いわよ」
プラム「えっ、でもっ……」
イシス「カズくんもそう思いますわよねー?」
宵闇「………………ふむ」
魔王「………………」
神様「………………」
プラム「ドキドキ……」
イシス「………………」
宵闇「……めんこいな」
プラム「きゃー! プラム、可愛いって! 可愛いって言われちゃった! 」
魔王「だから、尺使い過ぎなのよ! 何なのよ、あの間は!?」
神様「……めんこいな」
イシス「結構似ていますわね♪」
神様「……めんこいな」
魔王「続けて言うのはやめなさい」
神様「カズぽよくんは、センスの塊だねぇ」
プラム「プラムもう、宵闇の魔王様のモノになるぅ〜♡」
魔王「そんなことしたら、あなたファンが離れるわよ」
神様「ここで、プラムファン一同からのメッセージが」
魔王「唐突ね」
イシス「あっ、では、わたしが読みますわね。えっと……『宵闇の魔王になら任せられる』だ、そうですわ」
プラム「プラム…………プラムは幸せになりますっ」
魔王「本人の意見も聞いたらどうかしら?」
宵闇「………………」
魔王「ちょっと」
宵闇「…………先日、静かなる水面の小々波に、波紋を広げし、少女を見た」
魔王「ちょっと、通訳呼んできて」
イシス「略『この前、俺っち、海に行ったんだけどぉ、その時、泳いでる女の人がいてさぁ』」
魔王「イシぽよ分かるの!?」
神様「大体合ってるね、うん」
魔王「あっちゃんも分かるの!?」
プラム「宵闇の魔王様…………はやくプラムを食べてぇ……♡」
魔王「こっちはほっときましょう……。それで、どうしたの?」
宵闇「……我が領土にてその少女は、雫となりて、美しき人魚の舞い散るとき、我が心は、純白の彼方へと飛び立った」
魔王「はい、イシぽよ、通訳!」
イシス「略『この前、俺っちの島に、レヴィアさんと行ったんだけど、泳いでる姿、まじぱなかった、まじで』」
プラム「レヴィと行ったの!?」
魔王「ちょっと、そんなの聞いてないわよ!?」
神様「だれもイシぽよの訳し方に、突っ込まないよね」
イシス「あ、ちなみに、わたしも一緒に行きましたわ」
プラム「ぐぬぬぬぬぬっ」
魔王「……で、でもっ、ま〜ちゃんが1番最初に連れてってもらったんだもんっ」
神様「はいはい、ま〜ちゃんがいつも1番だもんねー、えらいねー」
イシス「ま〜ちゃんえらい、えらい♪」
魔王「なーんか、バカにされてる気がするわね」
プラム「大丈夫、プラムとっても可愛い…………1番可愛い」
神様「こっちは、自己暗示をしているねぇ」
イシス「何もしなくても、十分に可愛いと思いますわ」
プラム「ふ、ふんっ、ライバルの施しなんて受けないもんっ」
魔王「そっ、そうよ、そうよ! イシぽよなんて、ちょっと綺麗なだけじゃない!」
神様「ま〜ちゃんも加勢してるし」
魔王「ところで……」
イシス「なんでしょうか?」
魔王「彼は天井を見て、何をしているのかしら?」
宵闇「………………」
イシス「お腹が減ったのでは、ないでしょうか」
神様「チョコとか食べるかな……」
宵闇「いただこう」
魔王「食べるの!?」
宵闇「この辺で、小話でもひとつ」
魔王「小話するの!? そもそも出来るの!?」
宵闇「レモンのいれもん」
魔王「ダジャレ!?」
プラム「宵闇の魔王様…………なんて知的なジョーク、ステキっ♡」
神様「あはっははははっ! カズぽよくん、レモンのいれもんって! レモンのいれ……いれもんって!!」
イシス「レモンのいれもん」
魔王「あなたまで、言わなくてもいいわよ!」
イシス「次はお便りのコーナーですわ」
魔王「展開早すぎるわよ!」
神様「本日募集した題材は『宵闇の魔王に質問したいこと!』」
魔王「タイムリーね」
イシス「では早速1枚目……えっと、魔王城近隣の街にお住まいの村娘さんからですわ。『宵闇の魔王様の好きな食べ物は何ですか?』」
魔王「ほら、答えなさい」
宵闇「漆黒の甘美」
魔王「チョコって言いなさい、チョコって」
神様「それは分かるのね」
プラム「プラム、チョコになりたぁい……」
イシス「それでは次は…………あっ、これは、レヴィアの字ね」
魔王「可愛い字だから、分かっちゃうのよねぇ」
神様「丸くてコロコロとしてるねぇ」
プラム「プラムも可愛いもんっ」
イシス「はいはい、可愛い、可愛い」
神様「世界一可愛いねぇ」
魔王「わたしの次くらいね」
イシス「ま〜ちゃんは負けず嫌いですわね」
神様「本当にねぇ〜」
魔王「ま〜ちゃん1番じゃなきゃ、嫌だもんっ」
神様「カズぽよくん、ま〜ちゃんはどう?」
宵闇「……ふむ」
魔王「ちょっと! 何聞いてるのよ」
イシス「まぁまぁ……」
宵闇「………………」
魔王「ほら、これ1時間くらいかかるわよ」
神様「あーし結構期待してる」
イシス「あら、わたしもよ」
宵闇「……めごいな」
神様「ぷっ……」
イシス「…………ふふふっ」
プラム「ねえっ! めごいってなんなの!? ちょっと、プラムにも教えてよっ!?」
神様「めごいな」
イシス「似てる、似てる♪」
魔王「いっ、いちいち真似しなくていいわよっ」
神様「あ〜っ! ま〜ちゃん照れてる〜!」
イシス「ま〜ちゃん、可愛い♪」
魔王「照れてないっ、はやく次の質問を読みなさいよ!」
プラム「ねっ、ねぇ! だからめごいって何なの!?」
イシス「それでは、先程の質問を読みますわね」
プラム「プラムを無視しないでよぉ!」
イシス「魔王城お住まいのレヴィアさんからの質問です。『宵闇の魔王様の髪型は、ご自身でセットされているのですか?』」
神様「あ、それ、あーしがやってる」
魔王「通りでイケてると思ったわ」
宵闇「………………」
魔王「そこ、急に立たない」
宵闇「I can Give You GATSBY〜♪」
魔王「そこ、急に歌いながら踊り出さない」
宵闇「GATSBY〜♪ GATSBY〜♪」
プラム「…………上手い、しかも重心がブレてないし、何よりステップが軽い」
神様「好きにやっちゃってー」
イシス「なんですの、それ?」
神様「ん〜? なんでもないよー」
魔王「そこの黒いの。いい加減、踊るのやめなさい」
プラム「あ、あのっ、よ、宵闇の魔王様!」
宵闇「……なんだ」
プラム「プラムに、その、プラムに…………ダンスを教えてくださいっ!」
魔王「教えるの!? そもそも、教わるの!?」
プラム「プラムね、見た目も、歌も、ダンスも……それから見た目も、すごい自信あったんだけど……」
神様「あーしは突っ込まないからね」
プラム「まだまだなの……プラムはアイドルとして、まだまだなの!」
イシス「アイドル魂というものなのでしょうか……」
プラム「だからね、プラムを宵闇の魔王様に相応しいアイドルになるように、鍛えてほしいのっ!」
魔王「ほら、何とか言いなさい」
宵闇「……灼熱の炎に向かいし魂」
魔王「はい、イシぽよ」
イシス「略『俺っちと、あの太陽に向かって、走っぺさ』」
プラム「はいっ、プラムは、プラムはどこまでも付いていきますっ」
宵闇「刻の狭間は待ってはくれない」
プラム「宵闇の魔王様ぁ〜♡」
神様「………………」
魔王「………………」
イシス「………………」
神様「…………行っちゃたし」
魔王「行っちゃったわね」
イシス「行っちゃいましたわね」
神様「お茶でもいくっ?」
魔王「いいわよ」
イシス「わたしも構いませんわ」
魔王「じゃあ、あっちゃん締めて」
神様「レモンのいれもん!」
魔王「イシぽよ、お願い」
イシス「ふふっ、また次回、お会いいたしましょう♪」
*
後日テレビ画面に映るプラムさんは、キレッキレのダンスを披露していた。
なんでも、新しいダンスコーチとやらの教えが良かったらしい。
それと俺の腰がやたらと痛いのは、何故なのだろうか?
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