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第104話『水着エスケープ』

「暑いと思うから、暑いのよ」


 魔王様が精神論みたいな事を言っている。

 現在、魔王城オフィスにてデスクワーク中である。

 しかし、魔王様を始め、レヴィアさん、マリア、小春ちゃんは、室内だというのに水着を着用していた。


 そしてその理由は…………


「魔王様、どうしてエアコンを直してくれないんですか?」


「ほら、暑いと汗をかくじゃない?」


「そうですね」


「痩せるわ」


「魔王様のダイエットに、社員を付き合わせないでくださいよ!」


 魔王様はこうみえても最高の上司だと思っていた。わがままは言うし、子供っぽい所もあるけど、それでも尊敬出来る人物だと思っていた。

 しかし、これはナンセンスだ。自分勝手にも程がある。


 その証拠に、レヴィアさんの谷間には汗が溜まっており、マリアの長い髪は二の腕に絡みつき、小春ちゃんは涼しい顔をしていた。なんで?


「あの、小春はん?」


「ん〜? どないしはりました〜?」


「その、暑くないんですか?」


「暑いと思いはるから、暑いんとちゃいます?」


「小春ちゃんまで、精神論!?」


「そういうズッキーこそ、そんなローブを着ていて暑くありませんの?」


 小春ちゃんと話していると、ピンク色のワンピース水着を着用しているマリアが、下敷で脇の下を仰ぎながら、口を挟んできた。

 俺は自身ローブを引っ張る。


「このローブな」


「確か、魔法攻撃を全て弾くやつですわよね」


「そうだ。あとは雨とか風とか、まぁ、基本大体弾くぞ」


「便利ですわねー」


「熱量とかも弾くぞ」


「なっ、そ、それって……」


「悪いが俺は快適だ」


「一方通行ですの!?」


「アクセラレータだ」


「カズキくん、仕事」


 魔王様に注意をされてしまった。しかし、他の人達(小春ちゃんを除いて)は仕事どころではないだろう。

 現に魔王様も先程から、大きな胸を片手で持ち上げ、胸の下にしたる汗をハンカチで拭き取っていた。


「あの、魔王様……」


「あと1時間の辛抱よ、ま〜ちゃん」


「それ、自分に言い聞かせてますよね!?」


「痩せた自分をイメージするのよ」


「それ絶対、自分に言ってますよねぇ!?」


 魔王様はペットボトルのお水を一気に半分ほど飲み干してから「ちなみに……」と話を続ける。


「マリアとわたし以外は快適なのよ」


「はい?」


 首を傾げる俺に対し、魔王様は俺のローブを指差した。


「ほら、カズキくんは"ソレ"着てるでしょ」


「着てますね」


「こはるんは、暑いの平気でしょ」


「ま、まぁ、そういう人もいますよね」


 現に小春ちゃんは先程から、涼しい表情でキーボードを叩いていた。マリアに似たデザインの水着は、結構似合っていた。

 俺はそんな小春ちゃんを眺めながら「じゃあ、レヴィアさんは?」と、今度はレヴィアさんの方に向き直る。

 すると、レヴィアさん自ら答えてくれた。


「あ、触ってみます?」


なんと レヴィアは じしんの むねを ゆびさしている! ▼


 レヴィアさんの指差した先には、純白の水着に包まれた谷間がこれでもかと、自己主張をしていた。

 健康的に引き締まったウエストに、魔王様ほどでははいが、たわわに実ったバスト。

 そしてその谷間に輝く汗は、まるで宝石の如く彩られており、とても、えっと、その、健康的だ。


「触るって、その、えっと……」


「はい、どーぞ♪」


 レヴィアさんに手を掴まれてしまった。そしてその手はひんやりと冷たく…………冷たく、あれ?


「レヴィアさんの手、冷たいです」


「わたしは、水の魔法が得意なので、こうやって冷たいお水で、身体を冷やしているんです♪」


 胸の谷間に溜まっている水滴は汗ではなく、冷たいお水だったというわけか。

 つまり、実質暑いのは……


「あーつーいーでーすーわ!」


 マリアだけだ。机に「うだーっ」と突っ伏しているマリアに声をかける。


「マリアは大体この時間は寝てるんだから、自業自得だろ」


「そうね。わたしの作戦でも、マリアは寝ている予定だったわ」


 可哀想なマリア。魔王様のプランでも寝ている予定だったマリア。

 エアコンが壊れているのは、この魔王城オフィスだけであり、自室に戻れば涼しいのに何故か戻らないマリア。何か理由があるのだろうか?


「マリアよ」


「なんですのー?」


「部屋に戻ればいいじゃないか」


 マリアは意外な表情を浮かべた。まさか、コイツ…………。


「名案ですわ!」


「気が付いてなかったのかよ!?」


「失礼いたしますわ!」


マリアは にげだした! ▼


 マリアは俺の話も聞かずに、オフィスの扉を開くと一目散に、自室に向かって走りだした。

 俺はやれやれと首を振りながら、先程から汗をしたらせ、モニタを睨む魔王様を眺める。

 水色の涼しげな水着でレヴィアさんを大きく上回るバストを覆い、前髪も上げて、おでこを出し、涼しげな出で立ちとなっていた。


「魔王様、その水着新しいやつですか?」


「そ……そうよっ、よく気が付いたわねっ」


「異世界グラムでも見た事が無かったので、もしかしたらと……」


「ちょっと待って」


「なんですか、魔王様」


「カズキくんは、わたしの異世界グラム全部見てるの?」


「そりゃ、見てますよ」


「じゃあ、どうしてイイネしてくれないのよ!」


「えっ、いや、それはその…………なんていうか………………してるじゃないですか」


「たまにじゃない!」


「それは、だって……ほら」


「ハッキリしなさい!」


 何故だろうか、俺の着ているローブは熱量を弾く。つまり、俺は暑さを感じない。しかし、頬を伝うこの汗は一体なんなのだろうか?

 魔王様は「カーズーキくぅん?」と熱気を放ちながら、俺に詰め寄る。


「違うんですよ、ほら、なんか、ほら、あるじゃないですか」


「何があるって言うのよ」


 さらに詰め寄る魔王様。俺は逃げるようにそっぽを向いた。


「カズキはん、堪忍したらどうどす〜?」


「カズキさん、イイネしてあげたらいいじゃないですか」


 小春ちゃんとレヴィアさんも魔王様に加勢してきた。

 俺がイイネをしない理由。それは……


「だって、魔王様、1日10回くらい更新するじゃないですか」


「それが何よ」


「全部は無理ですよ」


「……こらぁ、魔王はんが悪いと思いやす」


「……魔王様、さすがに10回は多過ぎると思いますよ」


 今度は俺に味方してくれた、レヴィアさんと小春ちゃん。

 魔王様はいつもではないが、多い日には10回以上は投稿するのだ。

 流石に全てにイイネをつけるのは手間なのだ。

 魔王様「そう」と数回頷くと、俺から離れる。しかし、その表情はまだ怖いままだ。


「じゃあ、イシぽよのは投稿された瞬間に全てイイネしてるけど、それは何故なのかしら?」


カズキは にげだした! ▼


「あっ、こら、待ちなさいっ」


 オフィス内を逃げる俺に対し、逃げ道を塞ぎながら追いかける魔王様。走るたびに大きな胸が弾んでいるが、いつものことなので気にしない。

 暑い日に水着姿で追いかけっこだなんてのは、一種の風物詩なのかもしれない。


 場所がオフィスではなくて、ビーチならば。



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