第103話『鰹節テイン』
「最近うちの黒いのが怪しいと思わない?」
こんにちはっ、レヴィアです♪
えとっ、現在魔王城オフィスにて、食後の休憩中ですっ。
魔王様がなにやら興味深げな話をしております。ですが、意図がよく分かりません。みなさんもわたしと同じ考えのようでして、マリアさんが代表して、質問をいたします。
「黒いのって…………なんですの?」
魔王様は「カズキくんのことよ」と眉を細めました。現在このオフィスには、わたしと、魔王様、それにマリアさんに、小春さんしかおらず、カズキさんは不在です。
カズキさんは、なにやらお昼休憩の後「用があるから」と、どこかへ行ってしまわれました。
魔王様は「誰か何か知らない?」とわたし達を見回します。
すると、小春さんがおもむろに挙式をいたしました。
「カズキはん、最近『かつおぶし』にハマってるらしいんよ……」
「おかかのおにぎり好きだものね」
「この間もな、食堂で仰山かつおぶしを貰っていたの見たんよ」
「まるで猫ね」
「ふふふっ、そなら魔王はんが飼ってあげたらどうどす〜?」
「言うこと聞かない所とかソックリだわ」
魔王様はコーヒーを口にしながら、ペンを走らせます。どうやら、メモを取っているようです。
次にマリアさんが、頬杖をつきながら「そういえば……」と話を切り出しました。
「先日、ボールを持っているのを見かけましたわ」
マリアさんは手で小さく「これくらいの」と円を描きます。大体、手の平サイズくらいなようです。
「キャッチボールでもしているのかしら」
「それが、1人で投げているそうですわよ」
「実は野球選手になりたかったりして……」
「野球のルールはあまり詳しくないそうですわよ。それに下投げですの」
「アンダースローってやつね」
「しかも、思いっきり投げるのではなくて、軽く投げているとか……」
「さらに謎が深まったわね」
魔王様は再びメモを取り「ボール」と記入いたします。
そのあとにわたしの方に向き直り、「レヴィアは何かない?」と尋ねてまいりました。
「そうですね…………あ、最近スマホを新しくしたじゃないですか」
「結構喜んでたわね」
「それで、カメラを使って色々撮っているそうですよ」
「かなり綺麗に取れるものね」
「一度中庭の方でスマホを片手に、しゃがんで写真を撮っているのを、見かけた事がありますよ♪」
「何を撮っていたのか見えたかしら?」
「すいません、そこまでは……」
魔王様は「そう……」と、肩を落とします。そして、再びメモに「写真」と記入いたしました。
その後に少し考える仕草をしてから「実は……」と、話し始めました。
「中庭で独り言を言っているのを目撃した人が居るわ」
「何か悩みでもあるのでしょうか」
魔王様は「それがね」と前置きをしてから話を続けます。
「すっごいニコニコしながら、言ってるんだって」
マリアさんが「不気味ですわね」と、呟きます。
「カズキはんは時々、自分の冗談でわろうてることがあるさかい。もしかしたら、おもろい冗談でも思い付いたんかもしれへんなぁ〜」
小春さんも自身の意見を述べます。
魔王様も「たまに、すごい面白いこと言うものね」と同意しました。
その後に「独り言」と記入したメモを真剣な表情で眺めます。
わたしも魔王様の隣に移動し、肩口からそのメモを覗き込みました。
【かつおぶし、ボール、写真、独り言】
「脈絡性がないですね……」
「そうね」
「あっ、でも中庭が関係しているのかも知れませんよっ」
「行ってみる?」
魔王様はそう言うと、手を差し出して来ました。
わたしと、小春ちゃん、それにマリアさんは渋々その手を掴みました。
まおうは いどうまほうを となえた! ▼
*
「あっ、居ますね」
中庭ではカズキさんがニッコニコな表情で、ボールをアンダースローで投げていました。
魔王様は素早くわたし達に身を隠すように言うと、『きえさりそう』を口に含み、姿を消しました。
どうやら、透明になった状態でカズキさんに近付く模様です。準備が良いことはこの際黙っておきましょう。
そして、数秒後、魔王様はカズキさんの隣に現れ、なにやら話し出しました。カズキさんはというと、ビックリはされたようですが表情は相変わらずニッコニコです。
わたし達が固唾を飲んで見守っておりますと、魔王様がこちらに向かって手招きをいたしました。
わたし達は思わず顔を見合わせます。
「どうしますの?」
「来いって言ってはるんとちゃいます〜?」
「……行きましょうか」
マリアさんと小春さんは、それぞれ「そうですわね」「せやな」と同意し、3人で仲良く、カズキさんと、魔王様の元に向かいました。
近付くにつれ、今回の謎となっている原因が見えてまいりました。それは……
「可愛い、子猫ちゃんですね♪」
カズキさんは「ですよね!」とニッコニコの笑顔で、小さな黒猫を抱きしめておりました。
子猫はカズキさんにとても懐いているご様子で、気持ち良さそうに抱かれております。
子猫はわたしが見つめますと、まんまるの金色の瞳をこちらに向け、大きく欠伸をいたしました。とっても可愛いです♪
なるほど、かつおぶしは猫ちゃんにあげるもので、ボールは一緒に遊んでいて、写真は猫ちゃんの写真を撮っていて、最後に独り言は猫ちゃんとお喋りをしていたんですね。
こうして、今回の謎は解明されました♪
……が、まだ話は終わりません。
「絶対飼いますからね」
「ダメよ」
カズキさんと魔王様は猫ちゃんを飼うかどうかで、言い争いを始めてしまいました。
別に飼ってもいいとは思うのですけれど……。魔王城はペットOKですし、わたしもイルカさんを育てています。あっ、最近フラフープをびゅーんって潜れるようになったんですよ♪
…………じゃなくて、お二人の口論は続きます。
「どうしてですか!」
「いい、まずちゃんと、ご飯をあげられるの?」
「あげますよ!」
「トイレとかも、ちゃんと自分でやるのよ」
「やりますよ!」
「わたしはやってあげないわよ?」
「自分でやりますよ!」
なんだか魔王様がカズキさんのお母さんみたいです。
そして魔王様は、子猫をチラッと見てから「そうっ」と優しく微笑みました。
「それで、名前はどうするの? 女の子よね」
「飼ってもいいんですか!?」
「ちゃんと、1人でお世話するのよ?」
「よかったな、"レーバテイン"!」
「はい、待った」
「なんですか、魔王様?」
「…………今なんて言ったかしら?」
「よかったなって……」
「そのあとよ」
「レーバテイン」
「念のために聞くけど、それは何なの?」
「このにゃんこの名前です」
魔王様は溜息をつきながら、こちらを伺います。
どうやら、カズキさんのネーミングセンスは、宵闇っているようでしたっ。
「よかったな、テイン!」
「あっ、その呼び名ならアリかも」
セーブしますか? ▼
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▷はい
いいえ
セーブがかんりょうしました! ▼
〜登場にゃんこ〜
【レーバテイン】
カズキが拾った子猫。黒い毛並みに、まんまるの金色の瞳。女の子。愛称は「テイン」
かつおぶしと、カズキと、ボールが大好き!!