第101話『最新スマート』
「カズキくん、新しいスマホよ」
元気100倍! カズキンマン! 魔王様が俺のデスクに、新品のスマホをスッと置いた。
現在魔王城オフィスにて、デスクワーク中である。
「防水ですか?」
「もちろん、それにいくつかの機能も付いているわ」
「例えば何ですか?」
「時間が…………ぷっ、分かるわ」
「何笑ってるんですか!!」
同様にマリアも「にへら」と元気な笑みを浮かべる。
「何笑ってるんだよ」
「ハンドレッドブラフ! キリッ」
「やめろ、ばか!」
「ハンドレッドブラフ! キリッ」
「もう本当にやめてよ!」
先日撮影された映画は光の速さで編集され、公開された。
おかげで俺のあだ名は、当分「ハンドレッドブラフ! キリッ」になりそうな雰囲気だ。
マリアは俺をからかうのに飽きたのか、今度は隣に座る小春ちゃんに同様の事をやり始めた。いつもの人懐っこい笑顔でそれに付き合う小春ちゃん。もうほっとこ。
「あの、アロンさんっ…………じゃなくて、カズキさんっ」
レヴィアさんに至っては、未だに粘着力の強そうな名前で呼ばれていた。俺は苦笑いをしながら、要件を伺う。
「なんでしょう、"レヴィ"さん?」
「あ……また、バカにしてますねっ」
「してない、してない」
「そんな人にはもう、コーヒーを淹れてあげませんっ」
「それは弱ったなぁ」
「…………うっそでーす♪」
「そこの2人、ちょっと仲が良すぎるんじゃないかしら?」
魔王様が頬杖をつきながら、こちらを伺う。
「元から、こんな感じでしたよ」
「まぁ、いいわ。それより、契約プランはどうするの?」
俺が「契約プラン?」と首を傾げると、魔王様は先程渡したばかりのスマホを指差した。
「知らないの? 今なら、『宵闇マグカップ』が貰えるのよ」
「いりませんよ、そんなの!」
「お客様はお仕事でのご利用がメインとの事なので、こちらの『パケットし放題』のプランなどはいかがでしょうか?」
「急に変な小芝居始めないでくださいよ!」
「まぁ、わたしが勝手にやっておいたから大丈夫よ」
「むしろ心配だわ!」
「まずは『魔王通話無料』ね」
「なんですかそれ?」
「わたしとの電話が24時間いつでもタダよ」
「そのまんまの意味!」
ここで、俺の新しいスマホが振動する。画面を見ると魔王様からの着信だ。無言で通話ボタンをタップする。
『カズキくんだけの特別プランよ』
「それ、電話で言うことですかね!?」
『この電話もタダよ』
俺は無言で通話終了ボタンをタップする。確かに魔王様には仕事の件を含めて、よく電話はするので、案外このサービスは有難い。
俺はスマホの電源を落とし、机に置く。すると魔王様がそれを拾い上げて、またまた説明を始めた。
「指紋認証でロックを解除出来るわ」
「ハイテクですね」
魔王様は「ほらっ」と自身の指を当て、指紋認証を解除してみせた。
「ちょっと待ってください」
「何かしら?」
「どうして、魔王様の指でも解除出来るんですか!」
「わたしちょっと、ゲリラダンジョン周ってくるわ」
「マリアみたいな言い訳しないでくださいよ!」
しかし、魔王様はそそくさと自身のスマホを取り出し、本当にゲリラダンジョンを周り始めた。そもそも、スマホゲームをやる人だったのか。
しかし、その疑問はゲーム中の呟きで解決した。
「スクショ、スクショ、異世界映えしそう……」
ゲーム画面が異世界映えするかは謎だ。きっと魔王様の界隈では、するのだろう。
新しいスマホを再び手に取り、何となく眺める。
内部データは、バックアップしていたものをそのまま移し替えおり、ほとんどそのままの状態であった。待ち受け画面が魔王様に変更されている以外は。
その様子を見ながら、マリアに解放された小春ちゃんが話しかけてきた。
「カズキはん、新しいスマホはどうどす〜?」
「前に使っていたやつの最新機種だし、あんまり変わらないよ。少し速くなったくらいかも」
「カメラも高性能で一眼レフみたいに撮れるわよ」
ゲームを終えたであろう魔王様が、口を挟んできた。この後に言いそうな事も用意に想像が付く。そしてそれを小春ちゃんが代弁してくれた。
「そらぁ、異世界映えもして、イイネも仰山貰えるやろなぁ〜」
「そういうわけよ、ちょっとカズキくんのスマホ貸しなさい」
俺は「いやですよ」と断ったが、魔王様にスマホをひょいと取り上げられてしまった。
なるほど、自信の指でロックが解除出来るようにしたのは、俺のスマホで自撮りをしたかったからだな。
「魔王様も新しいのにすればいいじゃないですか」
「カズキくんのは試供品、いわゆる見本なの。これから順次リリースされる予定よ」
「…………これ、誰が作ったんですか?」
「ヒントをあげるわ」
「どうぞ」
「匂いをかいでみなさい」
魔王様から差し出されたスマホに鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。ヒノキのいい香りがした。この事について考えるのはもうやめよう。
魔王様はそんな俺を他所に、自撮りを始めていた。
「魔王様、スマホ返してくださいよー」
「ちょっと待って、今、この位置、この角度、このタイミングで……」
「魔王様、スマホー」
「話しかけないでちょうだい」
俺は「やれやれ」と溜息をついてから、仕事をしようとパソコンに目を移す。
モニターの奥ではマリアと小春ちゃんが、三文芝居を始めていた。マリアが俺のモノマネが妙に上手いのが癪に触る。
「このゲームで冷汗でもかいてもうたん?」
「あぁ、だから冷水のシャワーを浴びてきた」
「えっ、ダメですよ、冷たいシャワーなんて体を冷やしてしまいますよっ」
レヴィアさんが俺に注意をしてきた。俺は川に落ちた事を「冷水のシャワーを浴びた」と比喩した事を彼女に伝えた。
「アロンさんは、変な言い回しをしますよね」
「そんな粘着力がありそうな人は知りません」
「あっ、今のはワザとです♪」
「レヴィアさんまでからかってきた!?」
「良かったわね、大人気で」
魔王様が俺にスマホを渡しながら、素っ気ない対応をする。
俺はスマホを受け取り、画面を見ると待ち受け画像が変わっていた。
魔王様がまーた勝手に変えたのだろう。
小春ちゃんと遊び終わったマリアが、暇なのか、席を立ち、俺の肩に顎を乗せながらスマホを覗き込む。
「ズッキーったら、まーたまた、魔王様を待ち受けにしていますの?」
「違う、勝手にやられたんだ」
「その割には、いつもそのままですわよね」
「変えても、どうせすぐに変えられちゃうし」
「ある意味、待ち受け画像も最新ですわね」
俺は「確かにな」と笑う。最新機種には新しい機能が沢山付いている。
そしてその1つには、魔王様の最新画像が、つねに画像フォルダーに保存されるという、なんとも奇妙な機能であった。
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