第97話 『ハンドレッドブラフ 003』
「サニーサイドアップをください、それとホットミルクを」
「かしこまりました」
ウェイトレスさんは、注文を聞くと踵を返し、厨房の方へと向かって行った。
現在、ダイニングにてレヴィアさんと遅めの朝食中だ。遅めな理由は、主に枕にある。
時間が遅い事もあり、お客さんは殆ど居なく、半ば貸切のような状態であった。
そんな事もあってか、レヴィアさんはとても落ち着いた表情で尋ねてきた。
「アロンさん、勝てそうですか?」
「ポーカーというのは運では、決まらないんですよ」
「そうなんですか?」
「カードの強さも勿論大切ですが、それ以上に相手との駆け引きが大事なんですよ」
「なんだか難しいですね……」
俺だって勝ち目のない勝負を挑むわけではない。今回のポーカーのルールは『テキサスホールデム』だ。
このルールなら、絶対に勝てる必勝の手が必ずどこかでくる。
そこで、上手く勝負をかければ勝てる可能性はある。
小春ちゃんは負けない。それは即ち、負けた事がないということだ。1回でも勝てば、そのまま崩れるなんて事は大いにありえる。ポーカーは駆け引きのゲームだ。
カードが強いだけでは、勝敗は決まらない。そこに、俺の勝機はあるはずだ。
運ばれてきた目玉焼きを食べながら、窓の外に目を向ける。天候は良く快晴だ。
「小春ちゃんは夜にポーカーをしに来るそうですよ」
「……となると、まだまだ時間はありますね」
「この辺りは観光地だそうですよ」
「なら、楽しまないと失礼ですよね♪」
「気が合いますね」
しばらくはのんびりとした時間を過ごせそうだ。魔王様にバレなければ。きっと俺たちが遊んでいると知ったら、「わたしも行くわよ!」とでも言ってきそうだ。
*
「観光地って、やっぱりすごいですね♪」
「オフィス勤務ばかりだと、煮詰まっちゃいますもんね」
コーヒーを片手に、嬉しそうに今日撮った写真をスマホで俺に見せるレヴィアさん。
現在、カフェにてコーヒーブレイク中だ。
ポケットから振動を感じ、俺もスマホを取り出す。マリアがメッセージを送って来たようだ。
マリア@宇宙No.1
『暇ですわ』
既読『仕事中だ』
マリア@宇宙No.1
『あーそーんーでっ』
既読『仕事中だ』
どうやら、暇だからメールしてきただけのようだ。いや、まてよ…………マリアは確か、すごく稼いでいたはずだ。ダメ元で資金の融資をお願いしてみよう。
既読『なぁ』
マリア@宇宙No.1
『なんですの?』
既読『言いにくい話なんだが……』
マリア@宇宙No.1
『なんですの?』
既読『お金を貸して欲しいんだ』
返信が来ない。やはり、イメージは悪いのだろう。スマホを置き、コーヒーを一口飲む。
すると数秒後、画面にマリアのメッセージが表示されたので、急いでスマホを手に取った。
マリア@宇宙No.1
『何に使いますの?』
「ギャンブルに使う」なんて、言えない。そもそも使う目的も、小春ちゃん絡みだ。
2人は仲が良いからな。小春ちゃんの件は黙っておくべきだ。適当な理由をでっち上げて、察してもらおう。出来れば普段俺が絶対に言わないような事が望ましい。
既読『"ブロンドの彼女"がいるだろ?』
マリア@宇宙No.1
『一緒に仕事中ですわよね』
既読『その彼女が、どーしてもドレスが欲しいって言うんだ』
マリア@宇宙No.1
『嘘ですわね』
既読『バレたか』
バレバレの嘘は、案の定見破られてしまった。しかし、マリアは意外と感が鋭い所がある。こちらの「言えない」という事情を察してくれるといいのだが……
それにしても、女の子にお金を借りてギャンブルだなんて、自分でも笑ってしまうくらいの悪い男だ。しかし、状況が状況なので致し方あるまい。
画面からはマリアの新しいメッセージが表示されており、そのメッセージを確認して、状況を察してくれたのを理解した。
マリア@宇宙No.1
『いくら必要ですの?』
既読『出来るだけ多く』
マリア@宇宙No.1
『今出せる金額は、1200万G程度ですわ』
既読『すまない、助かる』
マリア@宇宙No.1
『ただし、条件がありますわ』
既読『聞こう』
マリア@宇宙No.1
『ブロンドの可愛い彼女に、ちゃんとドレスを買ってあげてくださいな』
既読『……了解』
スマホをしまうと、レヴィアさんがこちらをムッとした目で見ていた。
画面を覗かれたわけではなさそうだが、何かが気に食わなかったようだ。
「どうしたんですか?」
「今は、"一応"デート中ですよね?」
一応の部分をやたらと強調してくるレヴィアさん。俺とレヴィことレヴィアさんは、恋人という設定で潜入しており、側からみればこれはデートとなるのだろう。なので俺は「まぁ、そうなりますね」と素直に同意した。
「では、彼女を他所にスマホを触るのは良くないと思うんですっ」
「レヴィだって、スマホを見ていたじゃないですか」
「わたしはアロンさんと、"一緒"に見ていましたっ」
「…………すいません、気を付けますね」
少し怒り気味のレヴィアさん。女性の機嫌を直すには、ありきたりだがやはりプレゼントとなるだろう。
本当にドレスを買う羽目になりそうだ。