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第96話『ハンドレッドブラフ 002』


「すごいですね、カズ…………アロンさん」


「そうですね、レヴィ」


 苦笑いをしながら、レヴィアさんを見つめる。レヴィアさんは恥ずかしそうに「カズキさんはアロンさん、魔王様はMさん」と呪文の様に繰り返していた。

 現在、ホテルカジノに入った所だ。カジノ内部では、ルーレット、スロット、トランプ、ダイスなど、多くの人がゲームに興じていた。

 さらには至るところに、監視カメラが設置されていた。イカサマ対策とかだろうか……。

 カウンターで魔王様から預かった軍資金をコインに変えてから、辺りを再び見渡す。魔王様の報告通り、特にこれと言った異常は見受けられない。

 たが、レヴィアさんはちょっとウキウキとしていた。


「わたし、こういう所始めてです!」


「あんまり、はしゃぎ過ぎないでくださいよ」


「分かってますよっ」


(心配だ)




 *






「また当たっちゃいました♪」


「…………すごいですね」


「これ、Gだといくら位になるのでしょうか?」


「0を2つ付けると、分かりやすいですよ」


「う〜ん、よく分かりません」


「例えば7コインの場合ですと、7に0を2つ付けて……」


「えっと、007ですか?」


「前じゃなくて、後ろに付けてください」


「あっ…………そうですねっ、となると、700Gですか?」


「正解です」


 嬉しそうに喜ぶレヴィアさん。

 コインは最初に貰った額のなんと100倍程度まで増えていた。その額8万コイン。G換算だと、800万Gである。島が2つも買えてしまう。

 このコインは全てレヴィアさんが、スロットで当てたものである。

 ビギナーズラックと言うやつなのだろうか…………

 そんな事を考えていると、辺りで大きな歓声が上がった。

 その歓声が気になり、目を向けるとそこにはポーカーのテーブルがあった。

 俺はレヴィアさんに断りを入れ、急いでポーカーのテーブルに向かう。

 例の大勝ちしている人物がいる可能性がある。俺は慎重に歩みを進め、ポーカーの卓に近付いた。

 すると、近付くにつれ羽織のいい和服と、長い亜麻色の髪が見えてきた。

 俺が名前を呼ぶと、いつもの人懐っこい笑顔ではなく、疑問の表情を浮かべた。


「…………どちらさまどす〜?」


「あっ……えっと、カズキだけど」


 小春ちゃんは「カズキはん?」と首を傾げていた。

 俺は魔王様に認識をズラす魔法をかけられている事、並びに今回なぜここにいるかを簡潔に小春ちゃんに説明した。


「あぁ、なるほどなぁ〜」


「良かった、小春ちゃんに会えて…………このカジノで起きている問題の原因となっている人物を一緒に探し––––」


「それ、多分うちどす〜」


「へっ? 意味が分からないのだが……」


 小春ちゃんは意味深く微笑むと、ポーカーをし始めた。

 そして、カードが行き渡ると、ゲームが始める。

 小春ちゃんが現在プレイしているポーカーは、「テキサスホールデム」と呼ばれるもので、通常のポーカーとは違い、配れるカードは2枚だけである。おまけにその配られた2枚のカードは、チェンジする事は出来ない。

 じゃあ、どうやって役を作るのかと言うと、配られた2枚のカードと、テーブルの上に公開された5枚のカードで役を作る。

 公開された5枚のカードは全プレイヤー共通で使える物であり、その5枚と自身の2枚で最も強い役を作ったプレイヤーが勝つ。

 ゲームは既に掛け金…………ベットは、済んでおり、後はプレイヤーがカードをオープンするだけである。

 テーブルには共通のカードとして【♠︎6 ♡7 ♣︎A ♠︎2 ♠︎A】がオープンされていた。

 既に、Aのツーペアが出来ており、2か、6か、7を1枚でも持っていればツーペア、2枚持っていればフルハウスが出来る。

 俺は小春ちゃんの手が気になり、こっそりと伺う。

 小春ちゃんは俺の視線に気が付いたのか、チラリとカードをめくり、俺にだけ見えるようにカードを見せてくれた。

 その2枚のカードは【♡Aと♢A】であった。盤上で出来る最高の役『Aの4カード』である。負けはあり得ない。

 全プレイヤーのカードがオープンされ、案の定小春ちゃんが勝利した。

 そして、再び歓声が上がる。その歓声で先程の歓声も小春ちゃんが勝利したのだと理解することが出来た。

 その後にもう1ゲーム、小春ちゃんが勝利した。その後も、その後も、その後も小春ちゃんは勝ち続けた。裏から見ていたが、イカサマの類は一切見受けられはい。正真正銘本物の強さである。

 そして、俺は状況を理解した。


 転売しているのは小春ちゃんだ。


 このゲームのレートは通常のレートとは違い、高レートとなっていた。1万コイン程度が簡単にプレイヤー間を行き来しているのである。

 そして、今回のポーカーで小春ちゃんは10万コイン程度儲けていた。

 完全に金持ちの遊びである。おそらく、そのコインを使い、レアアイテムと交換をして、それを転売しているのだろう。

 ならば、話は早い。


「小春ちゃん、その、カジノで遊ぶのやめて貰ってもいいかな?」


 物分かりのいい小春ちゃんの事だ。きっと、同意してくれる筈だ。

 だが、返答は正反対のものであった。


「ふふふっ、嫌どす〜」




 *




「どうなってるんですか! なんで小春ちゃんが!」


『いいから、落ち着いて? ねっ?』


 場所はホテルのベッドルーム。電話口では魔王様が、なだめるように俺に落ち着くように諭していた。

 あの後小春ちゃんは何も言わずに、ホテルの自室へと戻ってしまった。なんの説明も無しに…………納得がいかない。


「おかしいですよ、こんなの!」


『まぁ、気持ちは分かるわ』


「魔王様から何とか言ってくださいよ!」


『違うわよ、わたしはMよ』


「……そういえば、そうでした」


『はい、じゃあ、「何とか言ってください」からやり直しね』


 不満を感じるが、素直に従う事にした。魔王様は俺を落ち着かせるために、ワザとふざけているのだろう。


「……Mから、何とか言ってくださいよ」


『無駄よ』


「……どうして無駄なんですか?」


『だって、彼女は何もルールを破っていないもの。ただ、稼いでるだけ』


「それは…………そうですが」


『とにかく、頭を冷やしなさい』


「分かりました……」


『まだ、何かあるの?』


「…………そういえば、ホテルの至る所にカメラが設置されてましたよ」


『あぁ、それはプロモーションの一貫よ。ホテルの様子や、カジノの様子を撮影してるの』


「なるほど、それで……」


『はいっ、じゃあ、もう休みなさい』


「まだ、風呂にも入ってませんよ……」


『あっ、いつもの枕じゃないと眠れないって言うなら帰って来ても––––』


「おやすみなさい!」


『はーい、おやすみ♪』


 通話終了のボタンをタップして、スマホをポケットにしまう。

 ホテルの部屋は事前に予約していた部屋で、このホテルで1番高いランクの部屋となっていた。カーテンなんかは自動で開く。魔王様、太っ腹である。

 潜入調査の都合上、俺とレヴィアさんは同室の部屋に泊まっていた。

 しかし、ベッドルームは2つあり、シャワールームも2つある。ほぼ別室と言ってもいい。

 ベッドルームから出て、リビングルームへと向かう。

 リビングルームもかなり広く、車がUターン出来る程の広さだ。

 冷蔵庫から水を取り、一気に飲み干す。その後頭を抱えながらソファーに腰を下ろした。

 背後でドアの開く音が聞こえ、振り向くと、パジャマ姿のレヴィアさんが「とてとて」と歩み寄ってきた。

 お風呂上がりなのか、ほっぺたがほんのりと赤い。


「アロンさん、Mさんは何て言っていましたか?」


「とにかく落ち着けと」


「そうですか……」


 レヴィアさんはそう言うと、ちょこんと俺の隣に腰掛ける。

 小春ちゃんが暗躍している人物と分かった以上、もはやコードネームや偽名などは意味のないものとなっていたが、レヴィアさんがせっかく覚えたものを無下にするのもどうかと思い、苦笑する。


「あっ……その顔、バカにしてる顔ですっ」


「してない、してない」


「絶対してますっ」


 ぷりぷりと怒った顔を見せるレヴィアさん。しかし、そんな怒り顔もそんなに怖くなく、むしろ可愛いレヴィアさん。

 こんなに可愛いと、幸運の女神も思わず微笑みたくなるのだろうか。

 そんな彼女を眺めながら、ある事を思い付き、魔王様に再びコールする。魔王様は1コールで電話に出てくれた。


『なぁに、眠れないの?』


「……明日、小春ちゃんと勝負します。資金を巻き上げば、転売は出来なくなるはずです」


『…………やめておきなさい』


「勝ちます」


『無理よ、こはるんが強運なのはあなたも知っているでしょ』


「勝ちます」


『………………いいわ、だだし、わたし側、つまり魔王城側から金銭の融資は出来ないわよ。今はお金を動かせない時期なの』


「分かってます、自前の金額に、さきほどレヴィが大勝ちした金額を乗せて––––」


 レヴィアさんの方をチラッと見ると、こくりっと頷いてくれた。


「––––勝負します」


『分かったわ、出来るだけ手助けはしてあげる』


「お願いします」


『それじゃあ、ちゃんと寝るのよ』


「分かってますよ」


『そう、じゃあ、おやすみ』


「おやすみなさい」


 通話終了のボタンをタップし、電話を切る。画面には『残りの電池は20%です』と表示されていた。

 先程充電をしたが、2回電話をかけただけでこれだ。もしかしたら『iBou typeK』より、バッテリーの持ちが悪いかもしれない。

 俺はスマホに充電器を差し込みながら、「替え時かな……」と呟く。


「アロンさんは大分同じものを使用されてますよね」


「そういうレヴィは、この前最新の機種にしたとか」


「はいっ、防水なのでお風呂でも動画が見れちゃいます♪」


「そいつは羨ましい。俺のはお風呂で動画を見たらきっと……」


「きっと?」


「画面が真っ暗になる」


 レヴィアさんは「何ですかそれ〜」とクスクスと笑った。釣られて俺も思わず微笑んだ。この仕事が終わったら、魔王様に新しいスマホをねだってみよう。出来れば防水がいいね。


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