第92話『来ましタワー』
「オールイン、チョコレート10個」
「そなら、うちはコールどす〜」
「カズキくん、こはるんには勝てないわよ、やめておきなさい」
魔王様に止められるが、俺のカードはA×3と、K×2のフルハウス。負けるわけがない。
現在魔王城オフィスにて小春ちゃんと、チップの代わりにチョコを賭けて、ポーカー中だ。
俺はどうだと言わんばかりに、自身の手札をテーブルにオープンする。
「1番強い、フルハウスだ」
その役を見た小春ちゃんは、いつもの人懐っこい笑顔を浮かべながら、自身の手札をオープンした。
【♠︎3 ♠︎4 ♠︎5 ♠︎6 ♠︎7】
「ばかなぁ––––––––––––!?」
「ふふふっ、またまた、うちの勝ちどす〜」
小春ちゃんはニコニコとしながら勝ちを宣言した。魔王様はというと「だから言ったのに……」と呆れた表情をしていた。
「魔王様、小春ちゃん強過ぎですよ!」
「この魔王城で、こはるんに勝てる人は居ないわ」
「そないな事あらへんよ〜、たまたまどす〜」
謙遜する小春ちゃん。しかし、おそらくそれは事実なのだろう。
「小春ちゃんくらい強かったら、もう相手がいないんじゃない?」
「カジノになら、居るかもね」
その問いに、魔王様が答える。小春ちゃんも興味があるようで魔王様を見ていた。
俺はカジノには行った事がないので、どんな所か質問をしようとしたが、魔王様が「こはるん、時間大丈夫?」と時計を見ながら尋ねたので、2人の会話を見守る事にした。
「そやった、そやった、うちはしばらく留守にするさかい、よろしゅう頼んますえ〜」
「分かったわ」
手を振りながらオフィスを後にする小春ちゃんを見送りながら、魔王様に尋ねる。
「小春ちゃん、出張ですか?」
「えぇ、最近大きな宿屋が出来たでしょ?」
「観光地にある、大きなホテルですよね」
「そうよ、そこでお仕事があるのよ」
「なるほど」
「はい、じゃあ、カズキくんも仕事、仕事」
「今日は確か、神龍様の所に行く日でしたよね」
魔王様は「そうだったわね」といくつかの資料を見ながら返答する。
神龍様はエクストラダンジョン、すなわち隠しダンジョンのボスを務めているお方で、魔王様を倒すと、挑戦出来るようになる。そして、勝つと百合漫画が貰えるのだ。
「魔王様、なぜ百合漫画なんですか?」
「さぁ? 神龍の趣味じゃないのかしら?」
「それで、誰が神龍様の所へ行くんですか?」
「レヴィアは居ないし、こはるんも居ないし、わたしはここを離れられないし……」
「行ってきます」
「あら、随分と物分かりがいいわね」
「行って、ハンバーガーを渡してくるだけですよね?」
神龍様はハンバーガーが好物なのだ。なので、こうして時々ハンバーガーを差し入れに行くのだ。簡単な仕事である。と、思っていたら魔王様は途切れ途切れに話し始めた。
「最近ね」
「はい」
「神龍のね」
「はい」
「ダンジョンをね」
「はい」
「リューアルしたの」
「ほうほう」
「だからね」
「嫌です」
「まだ何も言ってないじゃない!」
「どうせ、『新しくなったダンジョンを試しに攻略してきてちょうだい』って、無茶振りするつもりなんでしょ!?」
「一字一句間違わずに正解よ」
「嫌ですよ、絶対やりませんからね!」
「神龍に勝つとね……」
「勝つと?」
「3つのお願い事を叶えて貰えるわよ」
「神龍!」
「どうする?」
「行きます!」
俺の返答を聞くと、魔王様は嬉しそうにスマホを取り出し電話をかけ始めた。
その間に装備のチェックをして、準備を整える。神竜様のダンジョンは風が強く、まともに歩く事すらままならない。
(さて、どう攻略するか……)
勝てば、3つもお願い事を聞いてもらえると聞いて、はっきり言って興奮している。願いは後で考えてるとして、ダンジョン攻略の事を考えることにした。…………が、いきなりオフィスの扉が開いたので、そちらに目を向ける。
ゆうしゃが あらわれた! ▼
「魔王様! 来たわよ!」
「はい、いらっしゃい。電話で話した通りなんだけど、カズキくんに付き合ってあげて」
「1人で行けますよ! 子供じゃないですし!」
俺はお守りなんて要らない! と反論するが、魔王様は「へぇ? 移動魔法も使えないのにぃ?」とニヤニヤしながらからかってきた。
そう、神龍様の所へは移動魔法でしか行けない。
俺は大人しく、移動魔法で酔わないように状態異常を無効化する魔法をかけてもらい、勇者と神龍様の元へと向かう事にした。
ゆうしゃは いどうまほうを となえた! ▼
*
「久しいのぉ、若いの、それに我が弟子もよく来たのぉ」
「先生、ご無沙汰ね!」
元気に神龍様に挨拶する勇者の脇で、ペコリとお辞儀をする。
神龍様は勇者の百合漫画の師匠なのだ。このダンジョンは、いつも嵐の様な風が吹き荒れているのだが、今日は無風そのものであった。
「神龍様、今日は風がないですね」
「うむ、我らの対決には、邪魔になるだけじゃろうて」
神龍様の大きな巨体が、ゆっくりとこちらに向く。
どうやら、話は魔王様から伝わっているようであった。
ドラゴンや、オロチを遥かに上回る巨体。圧倒的は威圧感を感じる。
俺はホルスターから『iBou』を抜き、オートディフェンス機能と、火力ブーストをいつでも起動出来るように構えた。神龍様との戦闘は初めてである。気を抜かないように神経を張り巡らせ、神龍の一挙一動を見逃さないように目を細める。
そんな俺を見ながら、勇者は高らかに声を上げる。
「それじゃあ、わたしが判定をやるわ!」
一緒に戦ってくれるのかと、淡い期待はしていたが、その期待は外れたようだ。
確かに、戦闘の勝ち負けを決めるのに判定は必要だろう。神龍様も同意見のようで、長い髭を揺らしながらゆっくりと頷く。
神龍様が頷いたのを確認した勇者は、再び高らかに宣言をする。
「それじゃあ、お題は『和紙』ね!」
「ちょっと待てぇい––––––––––––!?」
「何よ、わたしのお題に不満があるわけ?」
「お題ってなんだよ!?」
「そんなの百合漫画のお題に決まってるじゃない!」
「判定って、どっちの百合漫画が優れてるかって事かよ!!」
「他に何があると思ったわけ?」
「リニューアルってそっちかよ! また、騙された!!」
話の流れ的に、神龍様との戦闘になると思っていた。
だが、実際の勝つとは神龍様より、優れた百合漫画を描くというものであった。しかし、これは勝ち目がない。何故なら……
「自分、絵は描けないです」
「大丈夫よ!」
勇者が自身満々に、胸を張る。
「なんで大丈夫なんだ?」
「あなたが原作! わたしが作画をやるわ!」
「また、それかよ!」
「ほら、先生はもう描き始めてるわよ」
神龍様の方を見ると、口でペンを起用に咥え、ネームを描いていた。
願い事を叶えて貰うためだ。負けるわけには行かない!
*
「で、出来た……」
「見せてみなさい!」
俺は今仕上げたばかりの『和紙』を題材にした、百合漫画のネーム…………と、いうか会話文のみの文書を勇者に見せた。ちなみに登場人物は、今回も身近なあの2人にしておいた。
『和紙』
マリア「雨が降っていますわね」
小春「うち傘あるで〜」
マリア「お邪魔しても?」
小春「かまへんよ〜」
マリア「…………この傘、和紙で出来ていますのね」
小春「風流やろ? うちのお気に入りどす〜」
マリア「雨の音が、和紙に当たる音色が心地いいですわね」
小春「せやろ? それにな……」
マリア「なんですの?」
小春「傘って言うんはな、雨を遮るものや、あらへん」
マリア「じゃあ、なんですの?」
小春「……その前になマリアはん、もっとこっちに寄らへんと濡れてまうよ〜」
マリア「あっ、そうですわね…………」
小春「ふふふっ、もう少し近う、近う」
マリア「…………十分近いですわよ」
小春「そんで、さっきの話なんやけどな〜」
マリア「なんですの?」
小春「傘って言うんは、雨を楽しむものやと思いやす」
マリア「ふふっ、そうですわね!」
*
「キマシタワー!!」
「うぅむ、コレは若いのに一本取られたのぉ、わしの負けじゃよ」
「やったぜ!」
神龍様と勇者から高評価をもらい、思わずガッスポーズを決めてしまった。
勇者は興奮した様子で、俺の肩をガシッと掴む。
「あなた、明日から百合漫画先生と名乗りなさい!」
「いやだよ!」
「大丈夫、才能あるわよ!」
「いらないよ、そんな才能!」
「まさか和紙の傘を使って、『雨を楽しむもの』と言い、2人を寄り添わせるとは思わなかったわ!」
「あっ、やっぱり? 自分でも、いい出来かなって」
「うぅむ、天晴れ、天晴れ、若いの。どれ、願いを叶えてやろうかの」
神龍様のご褒美に俺は「いいんですか!?」と興奮気味に答える。
さーて、どんな願いを3つ叶えて貰おうかな…………なーんて考えていると、3つの選択肢が現れた。
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「…………なんですか、これ?」
「3つの中から好きな願いを選ぶがよい」
「3つの願いを叶えてくれるって、選択式の上に、1つだけかよ!!」
「ほれぇ、早く選ぶがよい」
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めずらしいめだるが ほしい
うすいほんで よろしいですか? ▼
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いいえ
▷はい
いいえ
カズキは ゆりまんがを てにいれた! ▼
「よかったわね、百合漫画先生!」
「そんな名前だったら、宵闇の魔王の方がマシだわ!」
こうして、俺は帰路に着いた。手には百合漫画を片手に。
(マリアにでもやるか…………はぁ)
セーブしますか? ▼
▶︎はい
いいえ
▷はい
いいえ
セーブがかんりょうしました! ▼