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第89話『要望ショッピング』



「ねぇ、何か困ってる事ないかしら?」


 急に「会議をする」と召集され、いきなり"コレ"である。

 いつから魔王様はカウンセラーになったのだろうか?

 現在魔王城オフィスにて、会議中である。

 俺を始め、レヴィアさん、マリア、小春ちゃんも魔王様の意図が分からなく、思わず顔を見合わせる。

 とりあえず、俺が代表してその真意を確かめる事にした。


「あの、魔王様、困ってる事ってその…………どういった事ですか?」


「なんでもいいわよ。最近、眠れない〜とか、歯磨き粉の味が気に入らない〜とかでも」


「あぁ、そう言う事ですね……」


 なんとなく言いたい事は分かった。つまりは、社員に対して、「不満がないか」と言う事を聞きたいのであろう。

 他のみんなもその意図を察したようで、少し考えた後にそろって同じ言葉を口にした。


『ありまへん』


「どうして、みんな関西弁なのよ!」


「さっきまで全員、小春ちゃんのお茶道教室に行っていたからですよ」


「結構なお手前だったわよ!」


 実は会議の前に、全員で小春ちゃんのお茶道教室でお茶を教わっていた。

 そのせいか、みんな彼女の言葉が少し移ってしまっていたようだ。

 魔王様は軽く「コホン」と咳払いしてから、話を戻す。


「それじゃあ、困ってる事が無かったら要望とかでも良いわよ…………あ、ラーメンの品数を増やして欲しい以外でね」


 即座に挙手をしたのだが、早々に却下されてしまった。

 マリアも同様に手を挙げたが、挙げた手を渋々下ろした辺り、同様の考えだったらしい。

 しかし、要望を聞いてもらえるのはいい機会である。かねてから、抱いていた"あの野望"を実現させる時がきた!


「魔王様」


「ラーメン以外ね」


「違いますよ」


「じゃあ、何かしら?」


「ヒノキ風呂ってありますよね」


「あるわね」


「この魔王城の温泉にも、ヒノキ風呂はあります」


「"誰かさん"の要望で、作った覚えがあるわ」


 もちろんその"誰かさん"とは俺の事だ。ヒノキ風呂には、ヒノキの香りもそうだが、リラックスする効果や、血流の促進、並びに血糖値を下げてくれる効果もある。

 これらに加えて、「ダイエット効果もある」との情報を付け足した所、次の日にはヒノキ風呂が完成していた。

 現在のヒノキ風呂に俺はとても満足をしている。しかし、魔王城温泉には露天風呂もあるのだ。

 俺は自身の野望を実現させるべく話を続ける。


「魔王様、露天風呂ありますよね」


「そっちもヒノキ風呂にしてほしいの?」


「いいえ」


「じゃあ、何かしら?」


「植えてください」


 魔王様は俺の発言の意図が分からないのか、小首を傾げた。

 俺は続けて、要望を伝える。


「ですから、植えてください」


「……何処に、何をかしら?」


「露天風呂に」


「うん」


「ヒノキの木を」


「うん」


「植えてください」


「はい、じゃあ、他に要望がある人ー?」


「ちょっと!!」


「どうして、そんな事しないといけないのよ!」


「いいですか、想像してみてください」


「しないわよ」


「露天風呂に浸かります」


「勝手に始めない」


「お湯に浸かるとリラックスしますよね」


「まぁ、否定はしないわ」


「そこに香るヒノキの匂い」


「そりゃあ、香るでしょうね、ヒノキの木だし」


「さらに鼻だけでなく、目でもヒノキを楽しめる」


「…………カズキくん、お医者様の所にいこ?」


 魔王様は呆れながら慈愛に満ちた表情をしていた。本当に心配している時の顔である。どうやら、俺がおかしくなったと思っているらしい。とりあえず、弁解を述べてみる。


「大丈夫ですよ、俺は正常です」


「カズキくんっていつもは真面目な癖に、時々アホの子になるわよね」


「自覚はないです」


「自覚があった方が困るわよ!」


「俺の調査では社員の中に、ヒノキ花粉の花粉症の人はいませんでした」


「何勝手に調査してるのよ!」


「今年のヒノキ花粉は、去年の428倍だそうですよ」


「リアリティのある情報ね!」


「それで、ヒノキの木の件は……」


「検討は…………しておいてあげる」


 やたらと含みを持たせた言い方をする魔王様。ビジネスの世界では「検討をする」は考えるけど、多分やらないと言う事である。

 どうやら、望みは薄いようだ。

 魔王様は「じゃあ、何かある人ー?」と次の要望を聞くべく挙手を促した。

 すると、2つの手が同時にあがる。レヴィアさんと、小春ちゃんだ。

 そんな2人を見てから魔王様は少し悩む素振りを見せた後、「じゃあ、こはるん」と先に小春ちゃんを指名した。


「魔王城を子供達に見学させるのはどやろか〜?」


「案内するって事?」


「せや〜、社会科見学みたいな感じやさかい、どやろか〜?」


「まぁ、いいんじゃないかしら」


 小春ちゃんの案は好意印象だったようで、すんなり通った。

 確かに分からなくもない。俺たちの仕事風景を見て子供達が、「将来、自分もこんな仕事をしてみたい!」なんて思ってくれるのは、嬉しいことだ。もちろん俺も大賛成である。


「自分もいいと思います」


「じゃあ、カズキくんが案内してあげなさい」


「なんで俺なんですか!?」


「あなたは子供に大人気でしょ」


「いやいや、そんな記憶……」


「闇に飲まれよ」


「そうだった!」


 宵闇の魔王は子供に大人気である。仕事などで近隣の街を訪問すると、子供達にいつも囲まれているのを思い出した。

 毎回、宵闇の魔王の真似というか…………痛々しい言動をせがまれるのである。

 だが、別に魔王城を子供達に案内するのが嫌なわけではないので、心良く引き受けた。ちょっと楽しみでもある。

 そして次は、レヴィアさんの番である。魔王様は「はい、それじゃ、レヴィア」と次はレヴィアさんを指名する。

 指名されたレヴィアさんは、少し遠慮気味に話しを切り出した。


「最近、ヘッドスパというものに興味がありまして……」


「頭がスッキリしたり、髪の毛の状態が良くなるやつね」


「はいっ、中でも炭酸水を使用したヘッドスパはとても効果があるようでして……」


「詳しく聞かせてちょうだい」


(あ、これ……絶対長くなるやつだ!)




 *




––––3時間後


「––––なので今年の流行りは、やはり白ニットを使ったきれいめコーデかと」


「なるほどね、でも––––」


「それ、お洋服の話題だから! ヘッドスパはどうしたんですか!!」


 たまらなくなり、思わず口を挟んでしまった。魔王様は思い出したかのように「そうだったわね」と話の軌道を戻す。

 あまりにも話が脱線し、ズレてしまったため、小春ちゃんは何やら理由を付けて会議を抜け、マリアに至っては机に突っ伏してお昼寝を始めていた。

 俺も小春ちゃんに続き、退出しようとしたのだが、その度に魔王様とレヴィアさんが「どっちの服がいい?」と、ファッション雑誌を見せながら俺に質問を振るので、退出させてもらえなかったのだ。

 俺は仕方なく席を立ち、マリアの肩をゆする。中々起きないかと思ったが、意外にもすぐに目を覚まし、おぼろげな瞳で「終わりましたのぉ〜?」と欠伸をした。


「シャキッとしろ、ぐうたら姫」


「だって、2人の話が……」


「お前も女の子だろう、話に加わったらよかったじゃないか」


「わたくし、服なんて買った事ありませんもの」


 この発言に魔王様とレヴィアさんがピクリと反応する。

 そして、やたらと怪しい笑みを浮かべてながら、魔王様がマリアに声をかける。


「行くわよ」


「どこにですの?」


「服を買いによ!」


「別にジャージで十分ですわ」


「レヴィア確保して」


「了解です、魔王様♪」


 レヴィアさんに捕まえられ「離してくーだーさーいなー!」と、喚き声を上げるマリア。

 マリアが服を買った事がないのは、お姫様だからだろうか……。マリアはいつも他の人が用意した服を着ていたのだろう。

 それに今マリアが着ているジャージも、元はと言えば、俺が中学の時に着ていたやつである。

 他の白ジャージもマリアが魔王様に「楽な服はありませんの?」と聞いた際に、魔王様がマリアにプレゼントしたものであった。

 要するに魔王様は、マリアにファッションの楽しさを教えるのが半分、もう半分は着せ替え人形にして自分が楽しむつもりなのだろう。

 何故そう思ったのかと言うと、魔王様が上機嫌にファッション誌のページをめくっていたからだ。ちなみに表紙は竜王さんだ。


(……さて、楽しんでこいよジャージ姫)


 マリアのこれから起こる事に同情しながら、オフィスの扉に手をかけると、魔王様に「カズキくん」と呼び止められた。


「なんですか、魔王様?」


「"あなたも"行くのよ」


カズキはにげたした! ▼


しかし まわりこまれてしまった! ▼


 魔王様に後ろからガッチリと掴まれてしまった。胸が当たっているがそれどころではない! このままでは多分なが〜い買い物に付き合わされる事になる! そんなのはごめんだ!


「嫌ですよ、行きませんよ!」


「駄目よ」


「行きませんよ!!」


 しかし、ここで魔王様はおもむろにスマートフォンを取り出し、誰かに電話をかけた。その相手は……


「あ、もしもし、イシぽよ? うん、そう、買い物、そう……いまから…………来れそう? りょーかい、じゃあ、待ってるわ」


「俺も行きます」


 こうして俺はなが〜い買い物に付き合った挙句、やたらと女子の意味不明な会話を聞かされ、おまけによく分からない異世界映えしそうな、スイーツを一緒に食べさせられた。当然、魔王様は何度も自撮りをし直していた。

 だが、案外悪くはなかったと思う。なぜなら……


「はい、可愛い」


「マリアさん、とてもお似合いですよ♪」


「イシス女王は今日もお綺麗ですね」


「あらあら、ありがとうございますわ」


「ちょっと! そこは、わたくしを褒める流れじゃありませんの!?」


 何だかんだ言って、ちょっと楽しかったのだ。

 こうして、俺たちの楽しいショッピングは終わった。何か忘れている気はするが…………まぁ、いいか!




セーブしますか? ▼


▶︎はい

 いいえ


▷はい

 いいえ


セーブがかんりょうしました! ▼





「おい、カズキ! !」


「ヨッホイか、どうした?」


「露天風呂だ」


「露天風呂がどうしたんだよ?」


「ヒノキだ」


「なんだと!?」


「ヒノキの木が植えられている!」


「なんだと!?」


「風呂、行くか!」


「おう!」

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