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第87話『乙カレー』



「それじゃあ、今日はこの辺にしましょうか」


 魔王様が終業の宣言をし、今日の業務が終わる。

 マリアはまーだ寝ているようであり、結局今日はオフィスには現れなかった。

 俺はため息をつきながら席を立ち、レヴィアさんに「お疲れ様です」と声をかける。

 すると、可愛いお返事が返ってきた。


「あっ……カズキさんっ、おちゅかれ様です♪」


「…………おちゅかれ様です」


 レヴィアさんは自身の失態にすぐに気が付いたのか、耳まで真っ赤に染め、恥ずかしそうに俯いてしまった。

 魔王様もそれを見ていたようで、レヴィアさんに追撃をかける。


「ねぇ、"おちゅかれ"ってなんなの?」


「そ、それはっ、その……えっと」


「新しいカレーとか? おちゅカレー?」


「違いますよっ」


「じゃあ、おちゅかれってなんなのかしらー?」


 ニヤニヤと笑いながら、レヴィアさんをからかう魔王様。レヴィアさんは、またもや恥ずかしそうにモジモジとしながら「うぅ〜」と可愛い唸り声を上げていた。

 しかし、ここで小春ちゃんから驚きの発想が飛び出す。


「おちゅカレーはアリやと思いやす」


「そうね、わたしもいけると思うわ」


 謎に同意する魔王様。そして動揺し、ぽかーんとした表情を浮かべているレヴィアさん。

 俺はレヴィアさんの代わりに魔王様に質問をする。


「おちゅカレーって、何ですか?」


「そのまんまの意味よ」


「どういう事ですか?」


「カレーってね、実は食べる漢方薬とも言われていてね、疲労回復に効果があるの」


「魔王様って結構物知りですよね」


 自信満々に「でしょ?」と頷く魔王様。しかし、小春ちゃんがそっと顔を近づけて「朝カレーダイエットっていうのがあるんよ〜」と耳打ちしてきた。

 なるほど、ダイエットの事を調べるついでにカレーに詳しくなったというわけだ。話が見えてきたぞ。


「つまり、お疲れ様とカレーをかけた新商品を作るって事ですか?」


「そうね、朝専用の缶コーヒーとか、状況を限定する事によってヒットする商品ってあるのよ」


「仕事の後など、疲れた時に食べるカレーって事ですね」


「あとは、宣伝の方法しだいね」


 やたらと含みを持たせた言い方で、小春ちゃんとアイコンタクトを取る魔王様。

 そのあとに、未だに先程の失敗を気にしているレヴィアさんの方に顔を向ける。


「えっ、あの、なんでしょうか?」


「レヴィア、あなたがCMをやりなさい」


「そ、そんなの無理ですよぉ〜!」


「大丈夫よ、あなたがCMをした化粧品の売れ行きも好調だしね」


「で、ですが……」


「カズキくんもレヴィアのカレー食べたいわよねー?」


「えっ、それは、まぁ……そうですね」


 急に話を振られとりあえず、YESの返事をしてしまった。

 だが、「おちゅカレー」なるウィットの効いたカレーはともかく、レヴィアさんの作ったカレーは、以前ご馳走になった事があるのだが、とても美味しい。

 有名なシェフが監修したレトルトカレーというものがある。

 レヴィアさん監修の、レトルトカレーなんて案外いいのではないだろうか? とりあえず提言してみることにした。


「レヴィアさんにレトルトカレーの監修をしていただく…………と言うのはどうでしょうか?」


「カズキはんも中々商売上手になってはりますの〜」


 小春ちゃんがクスクスと笑いながら、賛成と受け取れる発言で、俺の案を後押ししてくれた。魔王様も概ね同意見のようで、数回頷きながら、レヴィアさんに「どう?」と尋ねる。


「それって…………わたしが、カレーを作るってことですか?」


「まぁ、大体そうね。カレーを作るだけよ、簡単でしょ?」


「それなら、出来ますが……」


 未だ躊躇いのあるレヴィアさん。ここで再び魔王様と、小春ちゃんが目配せをする。

 きっと、「あと一押しね」とか「せやなぁ」とか密談しているのだろう。

 そう考えていると、2人が俺の方を見る。言いたい事は何となく分かり、俺もレヴィアさんの背中を押す事にした。


「い……以前食べた、レヴィアさんのカレー美味しかったなぁ〜」


「カズキさん、本当ですかっ?」


「本当、本当、また食べたい」


 レヴィアさんは少し考えた後に、「分かりました」と了承する。

 こうして、「おちゅカレー計画」はスタートした。




 *







「カズキくん、宵闇って」


「セルフですか?」


「出来るでしょ」


「分かりましたよ……」


 渋々了承の返事をし、カメラの前に立つ。現在宣伝用のPV撮影中だ。

 魔王様の言う「宵闇って」とは宵闇の魔王の真似をしろと言う事だ。しかも、セルフ…………アドリブで。

 今回の撮影内容は、宵闇の魔王がおちゅカレーを食べて感想を言うだけである。

 本当にそんなので大丈夫なのかと、何度も魔王様に聞いたが「大丈夫」の一点張りであった。

 撮影の準備が整ったようであり、集中する。


「はい、行くわよ……3.2.––」


 1は言わないのがお約束だそうだ。魔王様自らカチコミをパチンとして、撮影がスタートした。

 俺は指示通り怪訝な顔をしながら、スプーンを手に、カレーをすくい上げ食べる。


「…………全ては愛のターメリック、ハラハラハラペーニョ」


「はい、カット」


 魔王様がカットを宣言し、こちらに歩みよってきた。


「なんですか、魔王様?」


「ちゃんと宵闇って」


「出来てたじゃないですか!」


「ダメよ、全然出来てないわ」


「そもそも、真似なんて『時の支配者〜』しか出来ませんよ!」


「とにかくもう一度よ」


 魔王様は俺の元を離れ、再びカウントの後にカチコミをパチンと鳴らす。

 俺はもう一度、怪訝な表情を浮かべながら、カレーを頬張る。


「…………静粛せいしゅくの会合、刻を刻みし、供物による共演、その道しるべは、確かなる楽園エデンへと誘う」


「完璧よ!!」




 *





 あの後、何度か確認とリテイクを繰り返し、中々完成度の高いPVが撮れた。

 PVは素早くアップロードされ、動画投稿サイトや、「魔王城公式異世界グラム」で大きな反響を得ていた。

 この分なら、発売すればかなりの売り上げが見込める。

 しかし、まだ問題がある。大きな問題が。実は今回撮影用に使われたカレーは「おちゅカレー」ではなく、魔王様が適当に作ったあり合わせのカレーだったのだ。


 そう、レヴィアさんのカレーがまだ出来てないのである。





セーブしますか? ▼


▶︎はい

 いいえ


▷はい

 いいえ


セーブがかんりょうしました! ▼





〜登場人物〜



【カズキ】


実は辛い物はちょっと苦手。撮影用の魔王様が作ったカレーはそれを考慮し、甘口だったらしい。味は意外にも美味だった模様。




【魔王様】


お料理はそこそこ出来る。どちらかというと見栄え重視で作った。撮影用のため、見栄えの方が大事。



【レヴィアさん】


お料理上手なレヴィアさん。新作のレトルトカレーの調理を任された。

レパートリーが多く、料理の手際がいい、真の料理上手。

料理上手とは、冷蔵庫を開き、その中から賞味期限の近い順に食材を使うこと。

お菓子作りが好きなご様子。




【小春ちゃん】


儲かりそうな話には食いつく小春ちゃん。しかし、がめついわけではない。

お料理は基本的な事は出来る。盛り付けが上手なタイプ。


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