第84話『迂闊キャッスル』
「魔王城をリニューアルしたわ」
魔王様は最近リニューアルがお好きなようだ。
朝いつもと同じように出社すると、いきなり"コレ"である。
オフィス内を見渡すが特に変化は見受けられない。
「魔王様、リニューアルってどこが変わったんですか?」
「ダンジョンよ」
「ダンジョンって、あぁ……」
この魔王城はオフィス以外にも、ダンジョンとしての役割が存在する。魔王城っていうのだから、"そっち"が本来の役割なのだが、毎日のデスクワークのせいか、すっかり忘れてしまっていた。
ダンジョンとしての城の機能は、冒険者や勇者が挑戦に来た際に、撃退、並びに魔王様の所までの到達を難しくするために、様々なギミックが仕掛けられている。
普段はただのオフィスなのだが、挑戦者が来る時には臨海体制に入り、迎撃の準備をするのだ。
俺はどこが変わったのか気になったため、魔王様に「何が変わったんですか?」と質問する。すると予想外の答えが返ってきた。
「お手洗いの位置よ」
「はぁ––––––––––––––––!?」
「入り口と、中央廊下と、魔王部屋前よ」
「それ、何の意味があるんですか!?」
「魔王城、攻略中にお手洗いに行きたくなった時に困るでしょ」
「そりゃ、そうですけど!」
「前は挑戦者用のお手洗いは、入り口にしか設置していなかったから、不評だったのよね〜」
魔王様はいくつかの資料を見ながら、満足気にウンウンと頷く。まさか、他のリニューアルもこんな感じなのだろうか……。
俺はてっきり「宝箱の数を増やした」とか、「シークレットボスとして、す〜ちゃんを配置した」とかを期待していたのだが……
魔王様はそんな俺の考えを見透かしたのか、「大丈夫よ、ちゃんと手は加えてあるわ」と付け足して来た。
「本当ですか?」
「本当、本当」
「………………怪しい」
「なら、自分の目で確かめてみたらいいじゃない」
「分かりました」
この時、うかつにも二つ返事で了承したのがいけなかった。
次に魔王様の口から出てきた言葉を聞いた時に、俺はやってしまったと嘆息する。
「はい、じゃあカズキくんが魔王城に挑戦しまーす♪」
「なんでそうなるの––––––––––––––––!?」
「丁度、モニタリングしてくれる人を探していたのよね〜」
「無理ですよ、魔王様どころか、道中でやられますよ」
「あなたなら大丈夫よ。それにわたしの所まで到達したらクリアーにしてあげるわ」
条件は通常の魔王城攻略よりは簡単だが、それでも魔王城はラストダンジョンである。難易度は高い。俺には難しいだろう。
「やっぱり、無理で––––」
「クリアー出来たら、お給料上げてあげる」
「やります」
「ふふっ、頑張ってね」
*
––––5時間後
「カズキさん、準備はいいですか?」
「いつでも行けますよ、レヴィアさん」
ダンジョンの準備や、丁度お昼が重なったのもあり、数時間は経ってしまった。お腹も膨れコンディションは悪くない。
現在時刻は14時であり、魔王城正面玄関にてレヴィアさんと待機中である。
天気は良く、ポカポカと暖かい陽気に包まれている。
日向ぼっこに興じるのも悪くはないが、念のために装備の確認をしておこう。
武器はいつも通り、ヨップル社製の『iBou typeK』だ。
30秒間のオートディフェンス機能と、10秒間の間、10万オーバーの火力を出せるワンオフモデルだ。
先程魔王様に充電もして貰ったため、十分にそのハイスペック性能を活かせるだろう。
続いて、かあさんのローブ。コイツは全ての魔法攻撃を反射する。
つまり俺の取るべき戦法は、オートディフェンスをオンにして、素早く接近、接近後、火力を上げ、倒す。
このヒットアンドアウェイ戦法なら、1回辺り、オートディフェンスは3秒程度、火力は1秒程度で抑える事が出来る。
すなわち、10回なら俺は戦闘で勝てる。
そう、俺は"勝つ"つもりだ。ここで勝利し、給料を上げてもらい、新作のラーメンの開発費につぎ込むのだ。
あとの装備は、イシス女王から頂いた『祈りの指輪』くらいだ。
こいつはMPを回復する事が出来るらしいが、俺には意味の無い代物だ。MPは1しか無いし、そもそも魔法なんて使えない。
「無限時間」は無いと考えた方がいいだろう。
『ラックの種』を使えば発動可能だが、後一粒しかない。この種はとても貴重なものらしく、再び手に入る確証はない。もしもの時にとっておくべきだ。
……とまぁ、大体こんな感じだ。準備が整った俺に対し、レヴィアさんが心配そうに声をかけてくださる。
「カズキさん、『鳳凰の羽根』はちゃんと持ちましたか?」
「大丈夫ですよ、ちゃんと持ちました」
このアイテムは即死級のダメージを食らった時に、1度だけ耐える事が出来るアイテムだ。
ダンジョン内のモンスターも全てこのアイテムを持っているそうで、このアイテムを使用してしまったら「やられた」という事になるらしい。
尚、今回のダンジョン潜入に当たって、レヴィアさんは同行しない。完全な俺のソロ攻略となっている。
レヴィアさんは俺の装備品やアイテム類を1つ、1つ確認するとにっこりと微笑む。
「では、カズキさん、お気をつけて!」
To Be Continued
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