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第77話『明治クリーニング』


「おかしい……」


 朝起きてから温泉で汗を流し、自室に戻り出社の準備をしていると、ある異変に気が付いた。

 クローゼットにはいつもスーツ、黒ジャージ、かあさんのローブが入っているのだが、今日はどれも見当たらなかった。

 そしてなぜか先日竜王さんに貰った、紺色のブレザーだけが入っていた。

 スーツのクリーニングや洗い物などは、全てこの部屋の掃除をしてくださっているリリィさんに任せている。

 しかし、ブレザーしか無いというのは彼女の手違いか何かなのだろうか……。

 とりあえず遅刻するわけには行かないので、ブレザーを着てネクタイを締める。


「絶対、これ魔王様にからかわれるよ……」


 溜息をつきながら部屋を後にし、オフィスへと向かう。

 エレベーターに乗り込み、1階をプッシュして扉を閉め、スマホを出して時計を確認する。

 日課の朝温泉に、思ったより時間を使い過ぎたようだが、走ればギリギリ間に合いそうだ。



 *





「おはようございます!」


「ふふっ、ギリギリよカズキくん」


「すいません、魔王さ…………なんで魔王様もブレザーを着ているんですか!?」


「あなただって、着ているじゃない」


 いつの間にか世界"制服"計画は成功したようだ。

 魔王様は赤茶色のブレザーに、チェックのスカートを穿いていた。

 なぜ魔王様も制服なのかと、首を傾げていると魔王様がミニバーの方向を指差す。

 そこでは、セーラー服姿の女性が鼻歌を歌いながらコーヒーを淹れていた。


「レヴィアさん?」


「あ、カズキさん、おはようございます♪」


 元気にくるんと振り返るレヴィアさん。長めのスカートにブロンドの髪が合わさり、とても上品に見える。

 だが、なんでレヴィアまでも制服を着用しているのだろうか? 本当に竜王の世界制服は完了してしまったのだろうか……

 その疑問に魔王様が答えてくれた。


「朝起きたら、みんな同じよ、制服しかなかったの」


「魔王様もですか?」


「えぇ、制服だけ6着も置かれていたわ」


「あ、わたしは12着です♪」


 レヴィアさんがコーヒーを淹れながら話に加わる。


「俺は1着しかありませんでしたよ?」


「男性用は量産が間に合ってないそうですよ?」


「量産……って事は」


「そうよ、竜王の仕業よ」


 魔王様がため息をつく。確か以前も自宅の服を全て制服に変えられた事があるとボヤいていた。

 今回も"それ"なのであろう。その時の魔王様はとても怒ったそうだが、今回はそうでもないようだ。


「魔王様、その……竜王さんに何か言わなかったんですか?」


「言ったわよ、そしたら『預かった衣服はクリーニングをして明日返す』ですって」


「サービスいいですね……」


「まったくよ」


 手を挙げ、「呆れた」とでも言いたげな魔王様。

 もう一度魔王様の素敵な制服姿を拝む。魔王様はブレザーの前を開けており、ちょっとやんちゃな雰囲気だ。

 胸が大き過ぎて閉めると苦しいのだろうか……

 そんな事を考えていると、急に後ろの扉が開いた。


「遅れましたわ!」


「遅いぞ」


 振り向かずに返答する。どうやらマリアが出社して来たようである。マリアは早口に遅刻の理由を述べる。


「いつものジャージがありませんでしたの!」


「あぁ、それなら俺達もなかったぞ」


 マリアも俺達と同じように、制服しかなかったのだろう。

 彼女の制服姿を一目見ようと振り返ると、なんとマリアはジャージを着用していた。


「いつものジャージじゃねーか!」


「ちがいますわよ、ほら」


 そう言いマリアは白ジャージの胸の部分を指差す。

 そこには"ひらがな"で『まりあ』と書かれていた。


「ジャージも学生仕様ってわけかよ!?」


「着心地はいつもと変わりませんわね」


「1人だけ、助かりやがったな!」


「いいえ、この靴を見てくださいな」


 マリアの言う通り足元へ目を向ける。体育館履きだ。


「ほう、室内用の靴と言うわけだな。良かったじゃないか」


「よくありませんわよ、歩くたびにキュッキュッ言いますのよ!」


 マリアはうだうだ言いながらキュッキュッと音をさせデスクに座る。

 デスクに目をやると、小春ちゃんがいつもと変わらない着物姿でタブレッPCの画面を眺めいた。

 小春ちゃんは俺の視線に気が付いたのか、ニコッと人懐っこい笑顔を見せ「カズキはん、おはようさん」と挨拶してくれた。


「よかった、小春ちゃんは制服じゃないのか」


「ん〜? ちゃいますえ〜」


 俺の「へっ?」と言う情け無い声に対し小春ちゃんは立ち上がり、俺の元へと歩みよる。

 椅子に座っている時には見えなかったが、着物の下に袴を穿いており、その姿は明治初期の女学生の格好を思わせる。つまり、制服だ。

 小春ちゃんは袴に慣れてないのか、袴の裾を持ち上げよちよち歩きだ。


「小春ちゃん、大丈夫?」


「大事あらへんよ〜」


「歩き辛いんじゃない?」


「確かになぁ〜、せやけど、いつもより足元が暖かいんよ〜」


 小春ちゃんはそう言うと、再びよちよち歩きでオフィスから出ていく。

 この後に小春ちゃんは会議の予定があるらしく、今日は少し忙しないご様子だ。

 そして入れ違いに"ヤツ"が現れた。


モンスターが あらわれた! ▼


「よう、カズキ! 元気かぁ?」


モンスターは なんと ガクランを きていた! ▼


「なんで学ラン来てるのかなぁ!?」


「へっ、似合うだろ?」


「似合わないから、もう帰れよ!!」


 ヨッホイは「じゃあ、会議があるからよっ」と言い残し、大人しくオフィスを後にする。本当に何をしに来たのだか……

 ヨッホイを見送ると、急にお腹が鳴り出した。

 そういえば今日は朝食を食べていなかった。そんな俺に対し、魔王様はクスクスと笑いながら、冷蔵庫からいつものヨーグルトとバナナを取り出し、手渡してきた。

 ヨーグルトはノンシュガーのものであり、フルーツグラノーラが入っていた。

 俺はヨーグルトを食べながらちょっとした愚痴を呟く。


「…………なんか、時間がない学生の気分です」


「ほら、カズキくん、はやく学校に行かないと遅刻しちゃうわよ!」


「ツッコミませんからね」


「カズキくんのけちー」


「ケチで結構ですよ、ヨーグルトご馳走さまです」


「じゃあ、仕事を始めてちょうだい」


 魔王様に促されパソコンの電源を入れる。朝特有の気だるさと眠気を覚えながら。

 それにしても今日1日だけで、色々な制服を見ることが出来た。

 魔王様のブレザー姿に、レヴィアさんのセーラー服。マリアは置いといて、小春ちゃんの袴姿に、ヨッホイの学ラン。

 まるで、世界中全ての制服を網羅したようだ。


 これが本当の"世界制服"…………なんちゃて。




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