第73話『魔王シュガー』
「そろそろ、時間か」
やぁ、僕の名前はカズキ。どこにでもいる名前のサラリーマンさ。
たが、仕事は魔王城勤務のエリートリーマンで、次の魔王とも言われている逸材さ。
おっと、話がそれてしまったね。優秀な僕のスケジュールは今日も予定で一杯さ。
ちなみに今日の予定は、イシス女王とオシャレなレストランでデートの予定が––––
「カズキくん」
「はい」
「何かしら、この文章は?」
「すいません、魔王様」
「あなたの今日の予定は、イシス女王とデートではなくて、書類整理のはずだけど?」
「はい……」
「そんなにデートしたいなら、予定を変えてあげるわ」
「えっ、本当ですか!?」
「ほら、これでどう?」
俺の名前はカズキ。美しく、それでいてとても優しく、減給など一切しない魔王様の部下だ。
そんな憧れの魔王様と今日はデートで––––
「ちょっと、待ってくださいよ!!」
「何よ、何か問題あるのかしら?」
「問題だらけですよ! 特に減きゅ––––」
魔王様が少し目を細め、険しい表情をしたので言葉を飲み込む。
現在魔王城オフィスにて、書類の整理の合間を縫って、日頃の活動報告を書いて鍛えた文章力を活かし、妄想小説を書いていたところだ。が……魔王様に見られてしまった。
「カズキくん、ちゃんと仕事をしないなら本当に怒るわよ」
「もう怒ってるじゃないですか……」
「それに、どうしてイシぽよなの!?」
「それは、イシス女王がお綺麗だからですよ!」
「…………カズキくんのばか!!」
魔王様はそう言うと、オフィスを出て行ってしまった。勢いよく扉が閉まったため、マリアと小春ちゃんはびっくりしていた。ちなみにレヴィアさんは、ダンジョンの視察のためお留守だ。
マリアと小春ちゃんは、何故か俺の方を白々しい視線で見ていた。
「な、なんですかね?」
その問いに小春ちゃんが代表して意見を述べる。
「カズキはん、あれはアカンと思いやす」
「やっぱり、仕事中に遊んだりしたら怒るよな……」
「…………マリアはん、パス」
小春ちゃんはため息をつき、マリアにタッチをした。
マリアは頬杖をつきながら、めんどくさそうに口を開く。
「ズッキーは、イシス女王のどこが好きですの?」
「以外と気の合うところ」
「以外ですわね」
「だろ? 車の話とか、ラーメンの話とか色々と気が合うんだよ」
「あ、"そっち''ではありませんわ」
「じゃあ、なんだよ?」
「まともな答えが返ってきたところですわ」
俺が意味が分からずに首を傾げていると、マリアが話を続ける。
「おそらく『綺麗だから!』とか、『いい匂いがするから!』という返答が返ってくると思っていましたわ」
「それもある」
「それでは、魔王様はどうですの?」
「魔王様? ちょっとプリンを食べ過ぎだと思うぞ」
「そうではなくて、ですね……」
「じゃあ、なんだ?」
「マリアはん、カズキはんはポンコツやさかい、それ以上は無駄やと思いやす」
小春ちゃんにポンコツと言われてしまった。否定はしないが、小春ちゃんの口からそんな言葉が出てくるとは予想外であった。
絶対に人を罵倒すりような子ではないのだが、俺は余程ポンコツなのだろうか……。
「あーしも、アレはダメだと思うな〜」
かみさまが あらわれた! ▼
「神様! 見てたんですか!?」
「まぁ〜ねっ」
「ちょっと、俺の妄想小説は読まないでくださいよ!」
「あ、これ本当にポンコツだ……」
「神様まで!?」
「まぁ、とにかくま〜ちゃんは中庭に居るから迎えに行ってあげなよ〜」
「何で俺が……」
「行きなさい」
*
神様の目があまりにも怖かったので、渋々中庭を目指す。
そして何故か、神様にプリンを持たされた。この前、こっそり魔王様のプリンを食べたお詫びのつもりなのだろうか?
魔王城にある中庭には、多くの草花が植えられおり、晴れた日にはここで昼食を取ることもある。
花のいい香りを嗅ぎながら、魔王様を探す。そして、見つけた。予想通り、いつものベンチに腰掛けていた。
このベンチは魔王様のお気に入りの場所らしく、俺も何度かここで魔王様の作ったサンドイッチを一緒に食べたものだ。
魔王様は接近する俺に気が付いたのか、真っ直ぐに空色の瞳で俺を見つめる。
「……何か用かしら?」
「ここに、プリンがあります」
「それで?」
「これをあげますから、その……」
言葉に詰まってしまうが、魔王様は何も言わずに待ってくれているようだ。何とかして言葉を捻り出し、口にする。
「毎日プリン食べても怒りませんから、その、あんまり怒らないでください」
「怒ってるわたしは嫌い?」
「魔王様は、笑っていた方が素敵ですよ」
「ふふっ、何それ……ばーかっ」
魔王様の隣に腰掛けてから、神様に頂いたプリンの箱を開く。中にはプリンは1つしか入っていなかったが、それを差し出す。
魔王様はそれを受け取り、プリンをスプーンの上に乗せるとそれを俺の口元へと運んできた。
「な、なんですか?」
「食べないの?」
「いいんですか?」
「半分あげるわ、ほら、あーんっ」
口を開くと、プリンが差し込まれる。ゆっくりと口を閉じプリンを味わう。甘い。
その後、魔王様はそのままプリンをスプーンに乗せ、食べた。
そしてまたプリンをスプーンに乗せ、俺の口元へと運んだ。
「もういいですよ……」
「ダメよ、1人で全部食べたら太っちゃうもの」
「はぁ……分かりましたよ」
渋々了承し、2回目の「あーん」をされる。さっきと同じシチュエーション、同じプリンなのに、何故か2回目のプリンは先程よりも甘く感じられた。
その後も交互にプリンを食べる。
3回目はさらに甘く、4回目になると、プリンの事など忘れてしまった。
だが、魔王様もある事を忘れていたようであり、急に大声を出した。
「カズキくん、大変!」
「どうしたんですか、魔王様?」
「プリンを写真に撮るのを忘れてしまったわ!」
「…………それは残念でしたね」
悔しがる魔王様は、それでもどこか嬉しそうな表情をしていた。
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「ふふっ、何回セーブするのかしら?」
ここまで読んでくれてありがとう!
これからも『魔王とはデスクワークである』をよろしくね!!