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第八話 風真対三匹のオーク

 弓を構えているオークの口角が上がり、シネ! と一言発すると、弦に掛けていた指を外し矢を射った。


 放たれた矢は今度は風真の喉元目掛け飛んでくる。

 先程とはうって変わって今度は殺意の込められた一撃だ。

 すると風真は、再度風神に手をかける。



 だが矢が放たれたと同時に今度は別の二体のオークが獲物を構え風真に駆け寄ってくる。

 それは単発での弓矢での攻撃ではなく、考えられた三体での連携攻撃であった。

 以外にも統率のとれた動きで、風真の眉間に皺が寄り、目つきはより鋭さが増す。



 風真の初動は、先程と同じく風神の抜刀による矢の迎撃。

 それにこだわるのは、後ろの二人を気にしてる故の事なのだろう。



 風真は予定通り面前に迫るソレを難なく斬り落とす。

 しかし風神の抜身が鞘に収まるのとほぼ同時に――

 風真から向かって左斜め前方の位置へついたオークが、手持ちの戦斧を水平に構えなぎ払う。


 その力任せに振るわれた一撃は、容赦なく首もと目掛け襲いかかってきた。

 勿論まともに喰らおうものなら、首から上が引き離される事必至である。


 攻撃速度自体は決して早くないものの、絶妙のタイミングで振るわれた一撃に対処できる手段は少ない。


 風神での抜刀は、初速と威力に関しては申し分ないものの、鞘に収めたあとの二手目に移る際、どうしても若干の隙が生じてしまう。


 つまりこの状況では攻撃という選択肢はありえない、またその巨大な斧を防ぐというのも考えにくい……となると――


 風真は瞬時に身を屈ませる。

 頭の位置が一気に下がることで襲いかかって来た獲物の一撃は虚しく空を切った。

 空振る事でオークの胴体はガラ空きになる。


 本来なら、この時点で風真の勝利は確定だっただろう。三体目のオークがいなければだが……

 戦斧を振るったオークと逆の……つまり風真から向かって右斜め前方の位置に、オーク達の最後の要がついていた。


 その手に握られた棍棒は、風真が身を屈めるのを図ってたかのように振り上げられる。


 棍棒を振り下ろす瞬間、オークの口元が緩み醜悪な笑みを零す。

 見事なまでに嵌った策に、三体のオークは勝利を確信していた事だろう。

 だが腰を落とした風真の形相はまるで獲物を狩る狼の如く――



 戦斧が頭を掠め去る瞬間、腰を起点に上半身が限界近くまで捻られていた。

 風真はオーク達の動きから大体の行動を予測していたが、その策にあえて乘せられていた。



 その腰を捻る構えは風神による【旋風】の型。

 抜刀し回転の勢いに任せて長物である風神を振るうこの技であれば、周囲の敵をまとめて切り裂く事が可能。


 初動がほぼ一緒であれば、居合の剣速はオークの動きを凌駕する。

 狙いは完璧だった、後は刀を持つ手に力を込め、抜刀した瞬間に二体の半身が大地へと擦り落ちることだろう。


 しかしその時、ただ呆然とみつめていたシェリーの口が開かれた。


「カザマさん! お願い殺さないで!」


 双眸を強く閉じ、両拳を握り締め、精一杯まで口を広げシェリーは叫んだ。

 その瞬間風真の動作に若干の乱れが生じた。

 オークの手に握られた棍棒は既に目標目掛け振り下ろされ始めている。


 チッ!、という舌打ちと共に、風真は棍棒を振り下ろすオークを目にしながら敢えて無理やり前足を踏み込んだ。

 更に踏み込んだ前足を軸に、低いし姿勢のまま引き足ごと身体を一気に反転させる。


 刹那、大地を叩きつける重苦しい音が辺りに広がった。


 しかしそこに風真の姿は無い。

 完全に捉えたと確信していたオークの醜悪な笑みは消え去っていた。そして瞳も限界まで見開かれ――


「グゥオアガァァアア!」


 その時、正しく見た目通りの獣の咆哮が辺りに轟ろいた。

 同時に棍棒が握られた状態の肉塊が大地へと転げ落ち……

 次いで刃が鞘に収まる金属音が各々の鼓膜を刺激した。


 オークは空になった右肩を押さえ、喚きながら蹲っている。

 その光景を目のあたりにしたオーク達の言葉が風真達に理解出来ない物へと変わっていた。

 それはオークが本来持ち合わせている言語なのであろう。


 しかし風真は、オーク達が何を言っているのかなど気にもせず口を広げる。


「てめぇら! もしこれ以上やるってんなら次は容赦しねぇぞ! それが嫌ならこの豚つれてさっさと退きやがれ!」


 目尻を吊り上げ、瞳に野獣のような鋭い光を帯びせながら、風真が怒鳴りあげた。

 その圧倒的な迫力にオーク達がたじろぐ。


「ク……クソ! ニンゲン! オボエテロ!」


 すると悔しそうな表情で捨て台詞を吐きながら、傷ついたオークを抱えるようにして三体は去っていった。


「おい! 忘れもんだ!」


 風真はそう言って、落ちていた棍棒付きのソレをオーク達に放り投げる。

 そして、一体がソレを拾い上げると、ガサガサという音と共に森林の奥へと消え、オーク達の気配はどんどんと遠のいていった。


「あ……ありがとうございます。風真さん!」


 事が終わり、風真に駆け寄ってきたシェリーが語尾の言葉を強め、そう述べた。

 勿論傍らには例の男も一緒である。


「あぁん? 別にお礼なんて言われる事じゃねぇよ。まぁあんな奴ら切り捨てたって何の得にもならねぇしな」

と言ったあとに……


「まぁ肉でも美味いってんなら無理してでもやったが、流石に同じように喋れる輩を食おうとは思えねぇしな」

とも続けた。


 そんな風真の返答にシェリーは、あはは……という苦笑いだけで返し。


「と、とにかくこれ以上ここにいても物騒だし、早くこの森をでましょう! 途中でこの人とも言葉が通じるようにしないといけないですし……」


 シェリーはそういって風真の腕を引っ張り、この場を離れるよう促した。

 風真はその時、言葉を通じるようにしたいなら別にさっきの場所でもいいじゃねぇか、と言いかけたが先ほどの事が頭を過った。


 だが、シェリーが行こうとしているのはそことは逆の方向。

 

 同時にそこには先程風真が斬り殺した、オークの骸が転がっている事も思い出される。


 先の三体のオークとの戦闘でシェリーは風真がオークを切り捨てる事を声を上げ制した。


 さらに考えて見れば、シェリーを助けた際も最初は風真を恐れオークの亡骸も見ようともしなかった。

 それらの事を思い起こし、つまりそういう事か、と風真は何となく察し、その選択肢を除外した。


 結果、風真と男はその言葉に従い、シェリーを先頭に歩みだす。


 風真達が森林を突き進み、オークの骸からもある程度離れた距離まで来たところで、青空が確認できるほどの開けた場所へ抜け出た。


「あ、ここだったら導具使えそうかも……」


 シェリーはそう言いながら獣耳をピョコピョコと前後に動かし辺りを見回す。

 確かにそこは草花の茂る地面の中で所々土壌が露になっている。魔導具を使用する上で印を書き記すには適度な場所と言えるのだろう。


 シェリーは風真に行った時と同じように地面に円と記号を使った印を描いていく。但しその数は三つだ。


 そして、シェリーが円の中心に立ち、さぁどうぞ、と二人にも同じようにするよう促した。


「なんだ。また俺もやらないといけないのか?」


「え……えぇ、それぞれ使用する言語が異なるようなので」


「ふぅん……そういうもんなのか。まぁ別に構わねぇがな」


 そういって風真も円の中に立ち、

「ほら、てめぇもさっさとソレに乗れよ」

と金髪の男を促した。

 だが言葉が通じないため男の表情はどこか疑問気だ。


 そんな男の様子に苛々したのか、風真が傍まで歩み、無理やり円の中に押入れる。


「ほら、てめぇはここでじっとしてろ。わかったな?」


 言葉の通じない男に身振りも交えてそう伝えた。

 男は瞳を大きく開かせ、風真とシェリーを交互に見たが、なんとなく理解したのか親指を立て、OKOK、と一言発した。


 OKの意味は風真には理解できなかったが、素直に円の中で佇む男を見て大丈夫だと思い元の位置まで戻る。


 シェリーは二人の準備が整ったのを確認し、

「それじゃあ始めますね」

と言った後、目を瞑り印に向けて掌を翳し精神を集中させた。


 すると前回同様、印の中から数多の光球が浮かび上がってくる。

 風真はというと、既に一度経験済みのせいか大口広げ欠伸をし、耳などを穿っている。


 そして例の男はというと、その光景に目を丸くさせ、

「Oh……Fantastic――」

等と一人呟いていた。


 三人の回りを取り囲むように増え続けていく光球は螺旋を描くように上昇し……

 そして、しばらく三人の視界を眩い光で包み込んだ後、弾け飛ぶ音を各々の耳に残し消失したのだった――



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