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第八十四話 護衛開始

 村はずれの小さな森。木々の合間から陽の光が差し込む中、静寂を打ち破るのは刃と空気が擦れ合う快音。そしてひと振りごとに漏れる短い息吹。


 そこに立つは着物の上半身だけ開けさせ、刀を振るう風真の姿。

 肌をしたる汗が陽の光を反射させる。風神を振り抜き、雷神で何度も空気を裂く。その度に彼の身体が黄金色に染まった。



 一体どれだけの間その刃を振るい続けているのか――それは判らない。だが、滝のような汗が、躍動する筋肉が、尋常でない時間、その所動を続けているであろう事を容易に想像させた。


 その様子を感心したように少し離れた場所から見ているガンマン。その姿に風真は気がついていないのかそれとも気がついているのか――

 

 どちらにせよ無心に刀を振り続ける風真 神雷。

 その様子を認めた後、バレットは一度空を仰ぎ見る。一旦肺に新鮮な空気を取り入れ再び視線を戻し口を開いた。


「精が出るねぇ旦那」


 声が届いたのか動きを止めた風真が右手で汗を拭い振り向く。


「なんだお前か、たく覗き見とはいい趣味してやがる」


 風真は不機嫌そうに口を開いた。


「いやぁ、朝おきたら隣に旦那がいないもんだからつい寂しくなってねぇ」


「気持ち悪い事言ってんじゃねぇ!」


 声を上げると風真の歯茎が顕になる。


「たく大体なんで、いつも部屋がてめえと一緒なんだよ」

 

 瞼を軽く閉じ風真が零す。前夜、マルコの好意で部屋の件は解決したのだが、その結果マルコ・レガシィの部屋にお世話になるのはシンバルという形で落ち着いた。


 これは単純な消去法であった。先ず風真を一緒の部屋にするわけには行かない。何か失礼があっては行けないという事を考えれば、これは当然である。だが、だからといってバレットを一緒にしてしまってはシンバルが風真と一緒になってしまう。


 リディアに関しては最初から一人でと決まってしまっているわけなので、そうなると必然的にバレットと風真が相部屋という形で落ち着いたわけだ。


「もう何度も一夜を共にした仲じゃないか」


「本気で叩っ切るぞ!」


 風真の瞳が尖った。


「全く飛んだ邪魔が入ったぜ」


 汗を拭いながら、風真は一人ぶつぶつと文句を言う。


「悪かったねぇ。だけど旦那、そろそろ皆も起きる頃だぜ。準備もしないと」


 その発言に、風真の顔がバレットに向けられた。


「もうそんな時間だったか。ちっ――しゃぁねぇな」


 すると髪の毛をくしゃくしゃと掻き、風真がその脚を村に向けた。





「全く二人共どこ行ってたのよ?」


 二人が宿の二階に上がると、部屋の前で腰に両手を当てたリディアが立っていた。


「ちょっと二人でデートにね」


 ハットを押上げそんな事を言うバレットに、はぁ?、とリディアと風真が同時に声を上げた。


「全く下らねぇ事言ってんじゃねぇ」


 怪訝な顔でリディアを押しのけドアを開ける風真。


「ちょっと、出発まで時間がないんだから急いでよね。どうせ朝食もしっかり摂るんでしょ?」


「うん? あぁそうだな――」


 どこか気のない返事で風真は部屋に入っていった。


「何あれ? 具合でも悪いの?」


「旦那が? まさかそれはないさぁ」


 不思議そうに口にするリディアにバレットが応えた。先ほどあの動きをバレットは見ている。あれを見て調子が悪いなどど考える者は先ずいないだろう。


「皆朝から元気だね~」


 するとシンバルが苦笑混じりに声を掛けて来た。


「皆さんおはようございます。本日はどうぞ宜しくお願い致します」


 一緒に現れたマルコと其々朝の挨拶を交わす。その後、準備を終えた風真と共に下に降りた。風真はやはりしっかりと出された朝食には手を付けていた。その姿をみて呆れたように、具合が悪いなんて考えた自分が馬鹿だったわ、とリディアが零す。


「山賊退治頼んだよ。しっかりね!」


 朝食を摂り終え宿を後にしようとした時、女宿主が発破をかけてきた。全員を代表するようにシンバルが頭を下げ宿を出る。


 外には既に馬車が用意されていた。馬車の前には村長とその孫の姿がある。


「皆様、マルコ氏の護衛及び山賊共の駆除。どうぞ宜しくお願い致します」


 深々とお辞儀する村長。どうやら村にとっても山賊が跋扈するような自体は好ましくないのであろう。


 シンバルは言葉こそ返さなかったが同じように深く頭を下げた。

 シンバルは全員が馬車に乗り込んだのを確認し、後ろのもう一台の馬車に声を掛ける。マルコの持ち馬車である。


 ダグンダから彼等が乗ってきた馬車よりも、マルコの馬車は一回りほど大きかった。荷台の形状も違い、人の乗るスペースと荷物を載せるスペースとが仕切られ完全に別々になっている。


 但し車体を引く独角馬は四人が乗る馬車と同じく一頭である。若干マルコ側の馬の方が体格が良い気もするがそこまでの差異は無い。魔導具の力を借りてるのは同じである為、荷台が大きくなったとしてもそこまで馬への負担が変わるわけでは無いようだ。


 シンバルはマルコと話終えると、あの青年にも昨夜のお礼をいい車体に乗り込む。村長とその孫の青年に見送られ馬車二台はヒルナンザスの村を後にした。


 




◇◆◇


「お勤めご苦労さまです」


 馬車を降りたシンバルに一人の青年が敬礼してみせた。背丈はシンバルと同じぐらい、黒縁の眼鏡を掛け少し幼さの残る顔立ちをしている。


 彼がマグノリア守団の団員である事はバレットにも理解できた。彼の服装がシンバルのソレと変わらなかったからだ。


 敬礼を崩さない青年の横には二、三人程度で一杯一杯な小さな小屋が設置されていた。それを超えるといよいよアースヒルへの山道に入る事となる。


 ここはいわゆる、駐在所のようなものであるとシンバルは説明した。アースヒルの道のりは長い。舗装された道路が出来てからはそこまで厳しい道のりでは無いが、天候の変化や思いがけない出来事で怪我人が出ることもある。またそれと同時にここは西部から王都マテライトへ続く唯一の道でもあり、不審者の監視なども担っているらしい。その為ここでは常に二人の団員が交代で番をしているというわけだ。


 しかし現状は、団員達もピリピリとする日が続いているようだ。理由は言うもがな山賊の件である。


「本当は我々だけで解決出来れば良かったのですが……」


 敬礼の姿勢を崩し、団員の青年が申し訳なさげに述べた。


「いやいや仕方ないよ。皆も一生懸命やってくれたと思うし」


 話の流れを聞いている限りシンバルの方が立場が上な気がした。だが威厳はあまり感じられない。


「とにかく皆さん気をつけてください! 何かあったら直ぐに駆けつけるので!」


 青年が両拳を握り締め張り切った。


「うん。判った。その時はお願いね」


「はい! あ、ところで実は先ほどこちらに連絡がありまして」


「連絡?」


「はい! それで……あの、何故かはわかりませんがシンバル様には制服を脱いでこれに着替えてもらうようにと――」


 そう言って小屋の奥から青年が持ってきた洋服にシンバルは、えぇぇえぇ! っと素っ頓狂な声を上げた――

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