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第七十八話 オークの森の謎

「妙な話に時間を掛けて悪かったな。それでは森での件話してもらえるかな?」


 ユーリは切れ長の瞳をトロン守長に向け話を振った。ごほん、と喉を鳴らし昨日起きた事の顛末をトロンは話していく。


 トロンが全ての話を終えた後、ユーリは表情を難しくさせ乾いた唇を開いた。


「つまり、そのマージルと言うオークが王に隠れて今回の件を企てていたという事か。しかしその張本人が居なくなってしまうとはな――」


「申し訳ありません。こちらの油断で完全に取り逃がしてしまったようで」


「仕方がないさ、よもやオークがそこまで魔術に精通しているとは思いもしないだろう。しかしあの広い森の中を逃げ回られてるとなると厄介だな」


「はい、ただそれに関してはオークの王も引き続き捜索を続けてくれるそうです。実際私達を持て成してくれている間も、何名ものオークが夜通しマージルの身を確保するため動き回ってくれていました」


「そうか」とユーリが顎を引いた。


「ならば彼らの報告を待つよりないか……あの森での出来事はオーク達に任せるのが決まりだからな」


「それなんだけど」


 ふとフレアが口を挟む。


「どうやらマージルと言うオークは遺骸となって見つかったらしいよ」


 思わずトロンが目を見張った。ユーリも同じように驚いた表情をフレアへ向ける。


「何だそれは、どういう事だ?」


 その問いかけは首謀者が死んでいた事に対してというよりも、何故それを知っているのか? という意味合いが強そうであった。


「いやぁ。今朝方オーク側の方から手紙で伝達があってね。死体の状態はかなり酷い有様だったらしいよ」


 フレアがさらりと答えた。その口ぶりはまるで近所で雑談でも交わしているかのように軽い。


「今朝方だと!? それを知って今まで黙っていたのか貴様は!」


 ユーリが再び机を叩きつけ、そのまま相手に投げつけるような勢いで言い放った。


「だってねぇ、トロンちゃんも来る予定だったし、別にそれからでも十分だろうと思ってね」


 後頭部に手を添え、悪びれもなく言うフレア。ユーリの握られた拳はぷるぷると震えている。が、そのまま額に手を当て溜息をついた。その表情にはどこか諦めに似た感情が醸し出されている。


「もういい……しかし、殺されたとはどういう事なのだ? 王に処刑されたと言うわけでは無いのだろう? あの森にはオーク達しか住んでいないはずだ。誰か他のオークが王に黙って処刑したとでもいうのか?」


 ユーリが何個もの疑問を口にした。フレアに向けてでもあり、自分に向けてでもあるような口ぶりだった。トロンも一緒に首を捻らせる。


 オークが王に黙って処刑と言うのも考え難い気がした。そんな事が知れたら自身も処罰される可能性がある。だとしたら――


「……オークが殺ったとは考え難いかもね。さっきも言ったけどマージルの死体は酷い有様だったらしいし、その状態を聞く限りはね……」


 顎に手を添えるフレアの笑みが少し薄れる。


「しかし、もしオークの所業でないとなると――」


 そこまで言ってユーリは口を噤む。表情を見るに何かが脳裏を過ぎっているようだ。恐らくトロンが今思った事と同じ事かもしれない。


 フレアは、まぁあまりこんな事考えたくないんだけどね、と言って頭を振った。両肘を机上に置き、組んだ両手に顎を乗せる。


「ま、外部から来たものの仕業と考えるのが妥当かな」


 今までの飄々とした口ぶりから一転、真剣味を帯びた目付きに変わる。が、直ぐに崩し、

「ま、断言は出来ないんだけどね」

と言葉を加えた。


「何か手がかりは残っていなかったのか?」


 フレアに向けてユーリが口を開く。


「う~ん。トロンちゃんの話しにあった魔導具でもあれば何か判ったかも知れないんだけどねぇ」


「魔道具だと?」


「はい、シンバルとドラムの報告によるとダグンダの住人が捕らえられていた場所でマージルと対峙した際、マージルが竜の頭を象った魔導具を所持していたとの事です」


 これにはトロンが回答した。


「魔術だけではなく魔導具だと? しかも竜の頭を象ったものとなると――」


 ユーリの眉間に深い皺が刻まれる。


「まぁ十中八九【火竜の杖】だろうね」


 馬鹿な――、と声が漏れた。


「そんな物をオークが手にしていたというのか……第一、一体どこから?」


「それはやっぱりあの森の海岸から持ち込まれた

んじゃないかなぁ」


「しかしあそこは潮の流れが複雑な上に暗礁も多い。船などで到底いける所では無いぞ?」


「そこはほら。小さい舟なんか使ってさ」


「船でいけないような所を態々小舟を漕いで渡ってきたというのか?」


「まぁ可能性の一つとしてね」

 

 フレアが右手を掲げ言った。


「しかしフレア様。そもそも領海には探知術が施されています。不審船等がそこを通れば警備団がすぐ気付くと思いますが……」


「確かにそれもそうなんだけどねぇ~、まぁその辺はさ、ほら後々に解明していくって事で」


 話を終わらせようとするフレア。面倒臭くなったという気持ちが既に表情に現れている。


「何を悠長な……そんな物が持ち込まれたというのなら至急団員を集い捜索に向かわねば。場合によっては祭典だって――」


 ユーリが親指を顎に当て、口惜しそうに唇を歪めた。


「大丈夫だと思うけどねぇそこまで心配しなくても」


「何故そう言い切れる?」


 西の団長はフレアに視線を戻し眉根を寄せた。


「海岸の砂に異物が紛れてたんだってさ。しかもマージルというオークの遺骸の近くでね。彼らは鼻が効くし、普段見慣れ……というか嗅ぎなれないものには敏感なのさ」


 緩い口角を保ちながらフレアが右手を掲げる。


「しかし異物程度で――」


 ユーリの不安はまだ拭えていない。


「しかし彼等オーク達は文明とは程遠い生活を送ってるからね。おまけに他者の侵入を基本許さない。その上の異物さ。おまけに首謀者の近くとなれば――ね?」


 フレアはみなまで言わずもがなといった感じに言葉を区切った。だがユーリはまだ納得が行っていない様子である。


「とにかく、その異物を調べて見ないと始まらないだろう。こちらからオークの王に許可をもらいさっさと回収に向かわねば」


「あぁ、それなら大丈夫。もう返事は返して魔術師の何名かを向かわせたから」


「それも勝手にか?」


 ユーリが瞳を尖らせる。


「まさか、それは流石にシバッちの許可を貰ったよん」


 フレアの言うシバっちとは、このマグノリア守団を纏める大将と言うべき存在で正式にはシバ・コールマンである。



 勿論であるがシバっち等という呼び方をするのはこの王国内でもフレアぐらいであり、特にユーリは王女に次いでシバ・コールマンを尊敬している。


 その為かフレアのこの気安い呼び方に苛立ちを隠せないようである。


「いつも思っていたのだが、お前には目上の人を敬うという気持ちがないのか」


 フレアが両眉を左右に広げ返す。


「それは勘違いだよ。僕だってシバっちの事は尊敬してる。でもそれと愛称は関係ないし第一シバっちも喜んでくれてるよ」


 ユーリは口を半開きにしながら言葉も出ないといった感じだ。


「まぁとにかくそういう理由でね、この話はここまでかなぁ。オークとの件はその結果を見てからで、シバっちにも相談しないとだしね」


 どうやらフレアは早くこの話を切り上げて別の要件に向かいたいようである。その事が気になりトロンは質問を投げかける。


「フレア様、そんなにあの二人の事が気になるのですか?」


「う~ん、まぁそれもあるんだけどね」


 どこか含みのある口調である。


「あの二人というと異世界から来たという者たちの事か?」


 すると、ユーリが視線をトロンへと移し問いかけた――


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