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第六話 魔術と魔導具

「やれやれ参ったね」


「§#$&仝〆」


 さっきまで怯えきっていた童も、風真のおかしな行動で笑顔を見せ場の空気が少し和んだようだった。


 そこで今度こそと質問をぶつけてみたのだが……


「§&$§」


 どうやら風真が助けた童は、見た目の違いだけでなく言葉も風真のソレと違ったようである。


「くそ! 助けたついでに色々聞き出そうと思ったが、言葉が通じねぇんじゃどうしようもねぇじゃねぇか!」


 風真は思わず左手で髪を掻き毟り、右手で目頭を押さえながらぼやき散らした。


 そんな風真の様子を見上げるように見ていた金髪の童がふと思いついたように、左の掌を右手でポンと叩くと、腰に掛けていた布製の巾着から、銀色の細長い掌に収まるぐらいの棒状の物を取り出す。


「$§〆℃」


 左右の腕を可愛らしく上下にパタパタ振りながら何かを説明しようとしてる童。


 当然、風真には理解出来ないが、その仕草から少しは判断出来ないかと頭を捻らす。


「うーむ、どうだこれから一杯ひっかけないか? そこで色々話そうじゃないか、とかか……?」


 恐らく掠りもしていない風真の思考を余所に、童が地面に奇妙な印を書きはじめた。 


 童は地面に直径三尺一寸【約一m】程度の二重の円を描きその中に星型の模様を刻みさらに外側の円の中に記号のような物を書き記していく。


 それを全くの同じ形で二つ作り上げた童は、その中の一つに両足を揃えピョンと跳ねるように飛び乗る。


 そして童は自分の乗った物と全く同じ形の円を指差し風真に何かを訴える。


「何だ? これに乗れって事か?」


 風真もこれは理解したらしく、童がしたように両足で円の中に飛び乗った。


 すると童が、尖った耳を可愛らしくピョコピョコと前後に動かしながら、嬉しそうに微笑んだあと、模様の刻まれた地面へ両腕を伸ばし掌を下に向け静かに瞳を閉じた。


 童が精神を集中するように目を瞑り暫くすると……童と風真の乗る円が蒼白く光輝き、光の円から風真の知る限りビー玉程度の大きさの光球が浮き上がり、その光球は童や風真の回りを飛び回りながら上昇していく。


 目の前に浮き上がる光球を見て、風真は訝しげな表情で刀の柄に手を掛けようとしたが、体に触れた光球はそのまま何の変化も無くその身をすり抜ける。


 その様子から、特に害も無さそうだなと判断した風真は、刀の柄から手を退け背筋を伸ばし目の前の光景に興じる事とする。


 すると光球の数はみるみると増えていき……


 終いには童や風真の周りを渦のように回転しながら更に上昇していく。


 そして光球は一気に輝きをまして、目も明けていられ無いほどになった瞬間……弾け飛ぶような耳障りの良い破裂音と共に消えていった。 


 風真が目を開けると、童と風真を包み込んでいた光球は既に全て消え去っていた。

 目の前に残ったのは、先程まで瞑っていた瞳を開き、両目をパチクリさせてこちらを見つめる童のみ。


 風真は、今の出来事になんの意味があったのか理解出来ずまた頭を捻り出す。


「しかし、今のは一体なんだったんだ?」 

「あのー」


「そう言えば都では何か、変わったまじないが流行ってると聞いてたがそのい……」 

「あの!!」


「うん? 何か声がきこえ……」


「あの? 僕の言葉わかります?」


「うぉお!?」


 風真は思わず、驚きのあまり素っ頓狂な声をあげてしまった。


「あ、あの大丈夫ですか?」


 その声は、自分の目線の下のあの助けた童から発せられた物だった。


「お……お前、言葉……喋れたのか?」


 そう風真が問うと童は軽く微笑み口を開く。 


「あぁ良かった……初めて使う道具だったので不安があったのですが、なんとか言語能力を共有させる事ができたみたい……」


「ああ……ちょ……ちょっと待て」


 風真は童に向かって左手を翳し言葉を制した。


  風真は額に指を添えながら何かを考えているようだ。


 そんな風真を、目の前の童は獣耳をまた前後に細かく動かしながら、瞳を大きめに見開き見つめている。


「とりあえず、え~、そうだお前名前なんて言うんだ?」


 何かを聞こうにも、とりあえず名前ぐらいは知っておこうと風真は童に質問した。


「あ……はいシェリー・コーリンと言います」


 その名前を聞いた風真は頭に手をあてながら、

「せ……せりーん……こりん?」

と微妙に間違いながら言いずらそうに繰り返した。


「あ……いえシェリー・コーリンです」


 再度自分の名前を繰り返すように告げるシェリー。


「あぁ、そうか、なんだ? し……しぇりぃこりん? あぁったく呼びづれぇ!」


 その大きな声に、シェリーは身を細かく震わせ驚き思わず耳をピーンと立たせ背筋も伸びきる。


 シェリーの名が呼び辛いからか、苛々と頭を掻き毟る風真の姿を見て、

「あの……僕の事はシェリーと呼び捨てて頂いて構わないです……」

と多少、びくつきながらも風真に対しそう応えた。


「あぁ、そうか、しぇりぃな……しぇりぃ、あぁくそムズムズする!」


 風真は慣れない言葉に、背中や胸を掻き毟りながらそう言うと取り合えず言葉を続けようとする。


「あぁ、とりあえずしぇりぃ、ちょっとお前に聞きたいことがな……」


「あ、あの、その前に僕も貴方のお名前を、お聞きして宜しいですか?」


「あぁ? 俺の名前か? 風真、風真 神雷だ。まぁ俺の事は風真でいいぞ」


「カザマ……さんですか」


 シェリーは若干、惑いの表情を覗かせながら風真の事を見つめている。


「あぁそうだよろしくな……シェリー」


 やっとその言葉に慣れたのか、風真は随分滑らかにシェリーの名前を口にする。


「ところでシェリー、お前なんで急に喋れるようになったんだ? さっきまでなんだかわけのわからない奇声みたいなの発してたのによぉ」


 言うに事欠いて奇声とは失礼きわまりない感じではあるが、その問いにシェリーは、

「え? あぁ魔導具を使ったんですよ。それで貴方との言語能力を共有させたんです」

と答える。


「ま……まどぐ?」


 またまた現れた聞きなれない言葉に風真は頭を捻りだす……


「……あ……あの……もしかして魔導具知らないのですか?」


「う~ん……知らん……聞いたこともねぇ」


「そ……そうなんですか? え~と僕もあまり詳しい事は説明できないんですが、さっきみせたペンには言語共有の魔術が記憶されていて、その力を解放してあげたという感じなんですが……」


 そう教えてあげたシェリーの目に映るは、魔導具やら魔術やらという聞きなれない単語の羅列に脳が追い付いていけず、より一層身体を掻き毟りながら頭を悩ませる風真の姿であった。


「え~と……とりあえず簡単に言ってしまえば、このペンの力でカザマさんと喋れるようになったわけです」


「お……おぅ! なるほどな! そのぺんの力なんだな、わかったわかった」


 恐らくほとんど理解してはいないだろうが、風真はわかったようなふりをした。


「まぁ、とにかく質問の続きだ。さっき……あぁシェリーが襲われてたあの豚面の奴……ありゃあ一体なんだ? やっぱり物の怪とかいうやつなのか?」


「え? ものの……? えーとそれが何かは良くわかりませんが、さっき僕を縛り付けていたのはオークですね」


「お……おく? あぁったく! わかんねぇ!」


 風真は聞き慣れない言葉の連続で、いよいよ苛々が募り思わず髪を激しく掻き毟りながら声を荒げた。


「あ……あのオークの事もご存知ないのですか?」


「あぁ? 豚ならともかく、あんな豚野郎なんて見たことねぇよ」


 そんな風真の答えに、シェリーは右の掌を顎にかけ、首と頭を多少斜めに傾けながらう~んとうなりだす。


「あのカザマさんは一体、どこの国からこられたんですか?」


 シェリーは思いきった表情で質問を投げ掛けた。


「あん? 俺は熊本だよ。ってかむしろ此処はどこなんだよ、たく」


「ク……クマモト? 聞いたこと無いです……」


「はぁ? 何だおまえ熊本も知らないのか? 城とかあんだろうが、ほら熊本の城だよわかんだろ?」


「ク……クマのシロですか? す……すみませんちょっと……」 


 この二人、さっぱり話が噛み合っていない。


「あぁわかった、もういい! このままじゃ埒があかねぇ。取り合えず近くで他に人がいそうな所はあるか?」


「あ……はい、それなら……」


「Hel……Help me!!」 


 シェリーが何かを言いかけようとした時、風真達のいる森の更に奥からけったいな叫び声が聞こえてきた。


「なんだぁ今の声は?」


「な……何か叫び声みたいな……いってみませんかカザマさん?」


「全く次から次へとわけわかんねぇなクソ!」


 風真は頭を掻き毟り、ボヤきながらシェリーと声のする方へ向かって行くのだった………

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