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第六十五話 宴

読んでくださる皆様の応援のおかげで日間ランキングに載る事が出来ましたありがとうございます!


 今バレットの目の前には大きな木の葉の上に乗せられた肉の塊が置かれている。

 狐色に焼きあがったその肉からは香ばしい匂いが漂い、否応にも彼の食欲をそそった。


 王の話によると、これは森の奥に潜むアングル・ゴットと呼ばれる獣の肉で、本体は左右に渦巻き状の角を持った草食系の生き物らしい。面長の顔立ちをしているが胴体の肉付きが良く、ご馳走を振舞うときなどに用意されるとの事であった。


 ただ、繁殖能力がそこまで高く無いため、彼らも普段はそう口にする事は無いらしい。そう聞く分にはやはりバレットを含め風真、リディア、トロンの四人はかなり歓迎されているという事か。


 目の前にはそれ以外にも森で採れた果物や、王の下へ向かう途中に風真が美味そうだと言っていたバードピックの串焼きも並べられている。串には鳥自身の嘴を加工した物を使っているようだ。


 その光景に、全く先程まで睨みあっていた(主に風真がだが)時とは全く対応が違うな、とバレットは眉を広げた。


 あの後、シェリーに関しては流石にウィルが心配するだろうという事になり、街の住人と一緒に帰らす事となった。その先導はドラムとシンバル、そしてオークの何名かが付いた形だ。


 しかし、バレットを含めた残りの四人に関してはオークの王が帰らせてくれなかった。結果的に今回はマージルというオークの企てが発端で起きた事であるが、それだけに、このまま黙って帰すと言うのは王の気が済まなかったのであろう。


 ただ、バレットが気になっているのは風真の処遇であった。確かに原因はマージルにあったにせよ、風真は彼等の同胞を一人斬り殺している事を認めている。また、仕方がなかったとは言えバレットも結果的にオークを一体死に至らしめてるのだ。


 だがその答えはトロンの説明で判明する事となった。どうやらオーク達の掟では、王への背信行為は死を持って償う他無いらしい。つまりマージルの命で動いていたオーク達は、その行為が王の耳に入った時点で運命は決まっているのだ。


 これは勿論、今回唯一捉えられたオークにも当てはまる事であった。とは言え、オーク王も流石にバレット達の前ではその事に触れないが――


 あれからマージルは、姿を晦ましたまま現れる様子はなかった。勿論そのような掟があるのなら当然とも言えるが、しかしだからと言って王が彼の逃亡を許すはずもなく、こうしてバレット達への宴の準備を進めながらも、王の部下達が森の中を探索している。


「さぁ宴の準備は出来た! 皆の者、客人を退屈させぬよう楽しませるのだぞ」


 王の言葉に倣うように周りのオーク達が一斉に吠え上げる。


 客人となった四人の横にはそれぞれオークが一体付き、木製の器を手渡してくる。皆がそれを受け取るのに倣ってバレットもそれを手に取った。オークは、その太い指で握られた丸みのある瓶を傾け、どぼどぼと豪快に酒を注いでくる。なみなみと注がれた濁りのある液体からは、独特の刺激臭が漂い、その鼻腔を突いた。


 バレットの右隣に座るリディアに関しては、酒が飲めないからと断っていたようだが、すると今度は別の容器で何かを注ぎだした。ソレからは甘い匂いが漂う。どうやら天然の果実で作られたジュースのようだ。


「いや、このような場を設けて頂けるとは、誠に感謝のあまり言葉もございません」


 宴が始まると、王の近くに座るトロンが謝辞を述べる。

 だがそれを聞いたオーク王は目を眇め、その大きな口を開いた。


「うん? よいよいそんな挨拶。全くお前たち人間は時折堅苦しくていかん。こういう時は思う存分飲み、食べ、そして騒げば良いのだ。ほれそこの風真のようにな」


 王の言葉でバレットも含め皆の視線が風真へと向けられる。

 そして、王の言うとおり彼にとって遠慮などと言う言葉は無縁だった。とっくに目の前に並ぶ食事に貪り付き酒を何杯も飲み干し、既に三杯目のお代わりを注いでもらっているところである。


「全く……」


 リディアが呆れたように目を細めた。とは言え風真らしいと言えば風真らしく、王もその性格を気に入っているようだ。


「さぁ、お前たちも遠慮などせずに口にせよ。冷めると味が落ちるからな」


 そう言って王が酒入りの器を傾けた。


「それでは遠慮なく」


 すると、トロンがまずバードピックの串焼きに手を付ける。


「旨い!」


 彼の両目が見開かれた。どうやらお世辞などでは無さそうである。


「本当、美味しい」


 食事に手を付けリディアも倣うように言った。口の前に片手を添え驚いたような表情を見せる。

 流石に皆のこういった姿を見ているとバレットの胃袋も食を求めてくる。その目が肉の塊に向けられた。ナイフやフォークは流石に用意されていないようで、彼等流に従うなら手掴みでかぶりつくのが正しい食し方のようだ。実際風真もそうやってもりもり口に運んでいる。リディアに関しては、いまいち抵抗があるのか、その肉塊には手を付けようとしなかった。


 バレットは両手でアングル・ゴッドの肉を持ち上げた。ずっしりと重い。二、三キロはあるだろうか。口元に近付けると香ばしい匂いがより強まった。光沢を感じさせる表面の皮は食への要求を強める。


 たまらずバレットが肉塊へ歯牙を食い込ませた、表面の皮は至極パリパリとしていて、その音がまた食欲を掻き立てる。更に強く噛み締めた。弾力のある肉だ、固くは無い。歯を立てるとすんなりと内部にめり込んでいき、同時に溢れんばかりの肉汁が口内に雪崩込んできた。肉の味が口の中一杯に広がる。力強いが見た目ほど油っぽくは無く食の進む味である。


 口の中で噛み締めるように何度も咀嚼する。肉汁は暫く溢れ続けた。バレットが残した歯型を見やるとそこからも汁がスープのように吹き出している。


「これは、最高の味だねぇ。今までこんな肉は食べたこと無いさぁ」


 バレットは感嘆の声を上げた。リディアがまじまじとバレットの姿を見て。


「そ、そんなに美味しいの?」

と訊いて来る。


「とても旨いさぁ、リディアも食べてみるといい」


 バレットの言葉に促される形で、リディアも両手で肉を持ち上げ、小さな口でパクリと食いついた。


「あ、本当美味しい」


 すると、リディアが目を丸くさせた。奥ではトロンも舌鼓を打っている。


 続いてバードピックの串焼きにもバレットは手を伸ばす。程よい塩加減が丁度良い。この振りかけてある塩は、森の奥に面している海を利用して作られてるらしい。


 これに限らず、基本的にオーク達の生活は自給自足だ。ただ一部の調味料や、時折不足がちになる飲み水などは、森の一部を人に開放する見返りにマグノリアからの支給を受けているらしい。


 器に注がれた自家製の酒も、匂いはキツイが飲んでみると中々いけた。風真が何杯も口にする気持ちが良くわかる。


「てかお前くっつき過ぎだろ」


 ふと、風真が横に付いているオークに向かってそんな事を言った。確かに随分と密着した感じに見えるし、気のせいか風真を見つめる視線が熱い。


「ぬはははは、これはいい! そやつ、どうやらお主の事を気に入ったようだぞ?」


 オークの王が膝を叩き大いに笑い出した。


「どうだ風真よ。この際その牝と一緒になって我らとここで暮らさぬか? お主なら我ら一同いつでも歓迎するぞ」


 風真の口から液体が迸った。リディアが眉を潜め、汚いわねぇ、と零す。


「ごほっ! じょ! 冗談じゃねぇ、俺にも選ぶ権利ぐらいある!」


 風真が咳込みながら慌てたように口を開く。どうやらオークの雌はお気に召さないらしい。


「うん? 気に入らないのか? 一体どこがだ?」


「俺の好みじゃねぇ」


 酒を口に含み直し、はっきりと風真が言った。隣のオークがショックを受けたような表情を見せる。


「好み? 成程見た目か! そうだな?」


「否定はしねぇよ」


「あっはっは、そうか見た目か。だがな風真よ、見た目に拘っているようじゃまだまだ青いぞ。それに見た目というなら、儂からしてみれば、お主らの方がずっと滑稽に見える」


 その言葉にリディアが不満そうに眉を寄せた。だがそれは仕方の無いことだとバレットは思った。オークと人間では言葉は通わす事が出来ても、姿形などはまるで別物なのだ。


「だがな風真よ、牝は顔では無い。尻がでかくてアレの締りが良ければいい子が産めるのだ」


 真ん中で煌々と辺りを照らす焚き火の如く、リディアの頬が真っ赤に燃えた。額からは湯気が出そうな勢いである。どうやら彼女にはまだ刺激の強すぎる話しだったらしい。


「まぁそれは否定しないがな」


 両眼を瞑り更に酒を口にする風真。だが、ふと右の瞳を開き。


「だったらこいつなんてどうだ? 女と見れば見境の無い野郎だ、きっと喜んで相手するぜ」


 バレットの両眉が上がった。風真の親指は明らかにバレットの方に向けられている。


「ほう、どうだその男は?」


 王がオークの女に訪ねるが、鼻息を荒げ彼女は両手でバツを作る。


 バレットは何げに少し凹んだ。


「お前自分が思ってるよりもてないだろ?」


 嘲笑うような風真の態度に言葉も出ないバレット。ただ、隣に座るリディアは何故か胸を撫でおろしている。


 こうしてオーク達との宴は夜通し続いた。リディアは流石に途中で樹木に寄りかかったまま可愛いらしい寝息をたてはじめ、続いてトロンもダウンした。風真はいつまでも王とサシで飲み続けている。


 そんな様子を見ながら、全くどんな胃袋をしてるのかと感心しながらも、バレットも何時の間にか眠りに付いていた。





「なんだ全員眠っちまったのか。だらしのねぇ奴らだぜ」


「はっは! しかし風真、お前は大したものだな。この儂とここまで張り合えるのだから」


 オーク王の言葉に、はんっ、と声を漏らし。


「こいつらとは胃袋の出来も、精神の鍛え方も違うんだよ」


 器の酒を呷り、澄ました顔で述べる。

 すると、ふむ、と王が顎を擦り改めて全身を見るように顔を向けた。


「しかしその鍛え方もそうであるがな。あの技のキレ、この儂も舌を巻く程であったぞ。その技術はお主の我流か? それとも誰かに教わったものなのか?」


 その質問を受けた時、一瞬風真の手の動きが止まった。若干の沈黙がその場を支配する。


「……ふむ、もしかしたら訊いてはまずいことだったかのう?」


「……別にそんなことはねぇさ。俺の技は、師匠から教わったもの、【無双風雷流】それが俺の流派の名だ」


 オークにとって流派というのは耳馴染みのない言葉であったようだが、雰囲気で何となく察したのだろう。


 ふむ、と頷き、まぁ飲め、と殆どなくなった風真の器に酒を注いだ。


 それからは、言葉少なく王と風真は酒を飲み続けた。

 そのうちに流石の王もそして風真も酔いが回り、倒れこむように横になり、寝息を立て始める。

 

 そしてその日風真は久しぶりに――昔の夢を見た。


 

これにて第四章は終了です次回より第五章!風真のちょっとした秘密が……


ここまでお読み頂き誠にありがとうございます。

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