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第四十八話 付いてきたなら仕方無い

 マージルの示す方向へ、全員が一斉に首を巡らす。

 すると木陰にサッと隠れる、小さな影。


 しかし、木の幹には慌てたせいなのか、全てが隠れきれていない。

 彼女の(・・・)特徴的な片耳がはみ出してしまっている。


 それに気がつくと、トロンは右手で頭を抱え溜息を吐き出した。


「あれって――やっぱりシェリーよね?」


 軽い笑みを浮かべたまま顔が硬直するリディア。


「どうやらそうみたいだねぇ」


 バレットも、やれやれと両眼を広げ右の眉を数度掻く。


「おぉいシェリー。そんな所で何やってんだ?」


 そして風真が躊躇いなくシェリーに問いかけた。

 するとシェリーが小刻みに耳を震わせながら、木陰から顔をひょいと覗かせる。その表情は少し申し訳無さげでもあり。


「てか、あの餓鬼どうやってここまでついてきたんだよ」


 ドラムは眉を広げながら、誰に言うでもなく疑問を呟く。


「はは――しかし、どうしたものですかねぇ」


 シンバルが苦笑いを浮かべ、顎を掻いた。


「とにかく――シェリー、一先ずこちらまで来てください」


 とにかくこのまま放ってはおけないと思ったのか、トロンが強めの口調でシェリーに呼びかけた。

 シェリーは多少おどおどした面持ちであったが、皆に気付かれた事で素直にトロンの声に従った。


「シェリー、一体どうやってここまで付いてきたんだい? 歩いて来たってわけでもないだろう?」


 皆の前で立ち止まり、顔を伏せるシェリーに最初に問いかけたのはバレットだった。


「あ、あの僕……やっぱり黙って待ってられなくて――それでこっそり馬車の後ろに乗って付いてきちゃったんっです」


 シェリーは胸の辺りで両手を握り、指をもじもじと絡ませながら応える。


「馬車の後ろだって? 全くなんて無茶を――」


 トロンが大きく息を吐き出した。シェリーの言っている馬車の後ろというのは、馬車の外側後方の事であろう。そこには人が一人乗っかれるぐらいの足掛けが設けられてるからだ。


「まぁ付いてきたもんはしょうがねぇだろ」


「いいからお前は黙ってろ」


「あん?」


 ドラムと風真が睨み合うなか、シンバルはまたもやおろおろしている。


「で? 結局どうなんですか? その小さいのも何か関係があるんですかな?」


 一行の問答を暫く眺めていたマージルだが、痺れを切らしたようにトロンへ問いかけた。


「いや、どうやらこの子はここに迷い込んでしまったようで。直ぐにでも――」


 トロンはマージルに向かってそう説明しかけるが、そこに割り込むようにシェリーが声を上げた。


「ち、違います! 僕もこの件には関係してるんです! だって実際僕はオークに連れムゴォ!?」


 咄嗟に後ろに回り込んだシンバルが、シェリーの口を塞いだ。いつもおどおどして頼りなさそうだが意外と身のこなしは軽い。


 マージルはその様子を、訝しげな表情で見つめている。


「とにかくシンバル。その子を森の外までお連れしなさい」


 トロンは、シェリーの口を塞いだままのシンバルへ命じる。が、

「ちょっと待ちたまえ。こっちは只でさえ待ちぼうけを食らって辟易してるんだ。まさかこれ以上その男が戻るまで待たせる気じゃ無いだろうね?」

とマージルがトロンの行為に待ったを掛ける。


「いや、しかし……」


「大体その餓鬼は一人でここまでこれたんだろう? だったら放っておいても一人で帰れるだろう」


 言って再びマージルが豚鼻から息を漏らす。


「む、ぐぅ――」


 困ったように短く呻くトロン。顎に手をやり、どうしたものかと思考を巡らす。


「あぁ、たくよぉ! いいじゃねぇかこのまま連れて行けば!」


 すると、風真が吠えるように口を開いた。

 その大声に一様に風真へと視線が集まる。


「だから、風真それでシェリーに何かあったら――」


「だったらシェリーは俺の傍に付かせてろ! そうすれば絶対に大丈夫だからな!」


 リディアの言葉を遮り、風真が堂々と言い放った。

 その様子に思わず目元に嬉しさが滲み出るシェリー。

 シェリーからの信頼は中々に厚い風真である。


「てめぇも今更一人増えたぐらいどうって事ないんだろ?」


 そしてマージルを見下ろしながら、風真が設問を行う。


「くっ! だからマージルだと言ってるだろうが――ふん、まぁ良い。今更そんな餓鬼が加わろうが大した問題じゃないさ。どうやら今回の件に全く関係が無いってわけでもなさそうだしねぇ」


 マージルは口元を僅かに歪ませ応えた。


「よし! これで決まりだな!」


 声を上げ、風真が腕を組み満足気に胸をはる。


「いや、だからお前が勝手に話を進めるなよ。決定権はトロン守長にあるんだからな」


 風真を横目にドラムの瞳が尖った。

 肝心のトロンはまだ一人考えているようだったが、ふとバレットがトロンの耳元で囁く。


「トロン守長。あのマージルの様子だとシェリーを少しでも一人にするのは危険だぜ」


 トロンの眉が僅かに上る。 

 そして顎を押さえ一考し、漸く決心が付いたのか、

「判りました。マージル殿がそう言われるなら、このままシェリーを連れて向かうとしましょう」

とトロンが力強く言葉を発す。


「そういう理由だからシェリー、なるべく迷惑をかけないよう大人しく付いてくるんだぜ」


 話がなんとか纏まり、バレットはシェリーに向かって柔く釘を刺した。

 あまり余計な事は言わない方が良いという意味を込めての言葉である。


「ふぐ――ぐむぅ!」


「シンバルさん、そろそろその手を放してやってくれないかな?」


 苦しそうなシェリーをみやり、バレットがシンバルへ願い出た。


「え? あ! ご、ごめんなさい!」


 慌ててシンバルがシェリーの口に当てていた左手を引っ込める。


「大丈夫か? シェリー」


 風真が声を掛けるがシェリーは何も言わず、瞳を伏せている。


「も、もしかして怒っているとか?」


 シンバルが恐る恐る尋ねるが、シェリーの返事は無い。ただ怒っているとは少し違うようでバレットが軽く覗き込むようにその顔を見ると、頬が少し赤らんでいた。


「――の手も……放して下さい……」


 小さな声で何かを言っているシェリー、バレットはその様子から気持ちを察し。


「あぁなるほど。いやいやシェリーはこう見えても女の子だからねぇ。その手の位置は些か頂けないかなぁ」


 微笑しながらのバレットの発言に、え? とシンバルが視線を落とすと、己の右手はしっかりとシェリーの小さな胸を握りしめており――


「うわ! ご! ごめんなさい!」


 飛び跳ねるようにシンバルがシェリーから両手を放した。


 シェリーは即座に両腕で胸を抱えるようにし、軽くそっぽを向く。シェリーが女の子である事を、初めて感じさせる素振りである。


「うわぁ、シンバル最低――」


 そして、それを見ていたリディアが軽蔑の眼差しを送った。


「え? え?」


「全くお前にそんな趣味があったとはな。見損なったぜ」


 ドラムが心底呆れたように言う。


「え? え?」


「おいシェリー。危ないからこっちに来ておけ」


 風真にまでそんな事を言われ、たじろぐシンバル。シェリーも直様風真の後ろに隠れるようにしながら、冷たい視線をシンバルへ投げかける。


「え? えぇええぇ!?」


「さぁ、もうよろしければ案内しますから、しっかり付いてきて下さいよ」


 そして、落胆するシンバルを気にもせず、マージルの案内によって全員が歩みだすのであった。


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