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第四十四話 だったら俺がやってやる

 風真の怒声によって辺りは瞬時に静まり返った。トロンや他の二人も目を丸くさせている。


「てかてめぇ! これは剣じゃなくて刀だ! ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!」


 やはりそこは譲れなかったのか、風真は人垣の中からしっかり言葉の主を捉え睨みつける。


「それとお前!」


 風真が正面に向き直り大声でシンバルを呼びつけた。


「え? え?」


 疑問の声でシンバルは狼狽える。


「とりあえずお前、もうこの枷外せ!」


 何故か風真は、上から物を言うようにシンバルに命じる。


「え? あ、はい――」


「はいじゃねぇだろうが!」


 今度はドラムがシンバルに対し怒鳴った。後ろではトロンが右手で頭を抱えている。


「お前自分の立場わかってんのか!? こんな堂々と枷を外せとか正気の沙汰じゃねぇぞ!」


 ドラムが激しく風真を責め立てる。


「うっせぇな。判ってんよ、だから枷を外せって言ってんだろう。要はそのオークって奴と話を付ければいいんだろうが?」


 風真の言葉にドラムは唖然となる。


「あ、あの風真さん。話を付けるって一体どうするつもりなんですか?」


 風真を見上げながらシェリーが皆の気持ちを代弁した。


「決まってんだろ、この刀でだよ」


 すると、得意げな表情で風真はあっさり答えた。


「――――はぁあ?」


 それは、おそらくその場にいる多くの人々が声を淀みなく揃えたであろう瞬間だった。


「ふ・ざ・け・る・なぁ! 何を考えてるんだてめぇは!」


 ドラムが腹のそこから声を張り上げ人差し指を風真に突き付ける。


「旦那ぁ、この状況でその発言はどうかと思うぜぇ」

 

 そして、困り顔のバレットが風真にそう告げる。


「あん? 何でだよ。ようはそのオークって奴が街の奴等を拐ってるってんだろ? だったらさっさと倒しちまえば良いだろうが」


 単純な風真の回答にトロンも困惑している様子である。


「そんな男と話をするだけ時間の無駄だよ」


 すると、突如バレットの背後から聞き覚えのある声が響いた。声のする方へバレットが顔を巡らすとそこにはエイダの姿、その横にはリディアも並んでいる。


 エイダは曲がった腰を引き摺るようにしながら杖を使って前へ歩みはじめる。その後ろを心配そうな面立ちのリディアが付いて進んだ。


「全く、本当に見た目通りの単細胞な男だよ」


 一瞬脚を止め、エイダが風真の横顔を一瞥し呟くように言った。


「あん? なんだと?」


 風真の眉間に皺がよるが、エイダは、ふん! と一言述べた後顔を戻し、更に脚を進める。


 すると、ドラムとシンバルが瞬時に前を広くあけた。エイダはそのまま歩みトロンの少し前で立ち止まる。


「これはエイダ様、お久しぶりでございます」


 トロンは片膝を付き、丁重な言葉でエイダを迎える。それに習うようにドラムとシンバルも同じ姿勢を取った。


 エイダは首を巡らせ、膝を付く三人を軽く眺め回すとやれやれと言った感じに一つ溜息を吐く。


「よしとくれよ。今更この街でそんな真似するのはもうあんたらぐらいなもんだ」


「しかし――」


「あたしがいいって言ってんだからさっさと直りな」


 顔を上げ口を開いたトロンを制し、エイダが睨みを効かせた。


「……わかりました、それでは」


 言ってトロンは立ち上がり、他の二人もそれに倣う。


「なぁリディア。エイダって一体全体何者なんだい?」


 バレットは、近くでエイダの姿を見つめ続けるリディアの耳元へ口を近づけ、囁くように素朴な疑問をぶつける。


「え~と、さっきちょっと話したと思うけど、お婆ちゃんは前は王宮魔術師とし王宮についてたんだけど、そこで魔術師たちをまとめ上げたり教育係として尽力していたんだって。今の女王陛下の側近も務めてたりとかそれで結構有名みたい」


 笑顔で随分簡単に答えるリディアだが、中々驚きの事実である。


 しかしこの一言でバレットは何故件の件がエイダの顔でなんとかなるのかがよく判った気がした。


「ところでエイダ様、このおふたりの事は知ってらっしゃるのですか?」


 トロンが丁重にエイダに問いかける。


「まぁちょっとした縁さ。ふたりには一応は助けてもらった恩もあってね。で、質問だがこのふたりをこれからどうするつもりなんだい」


「はっ! 彼等に関してはこのまま一度、【王都マテライト】まで連れて行き、そこで色々と話を聞かせてもらうつもりであります」


 エイダの反問に対しトロンは丁寧に答える。


「マテライトにねぇ――しかしそんな悠長な事を言っている時間はあるのかい?」


 エイダの言葉にトロンの表情が僅かに澱んだ。


「図星のようだね。大体こんな所で皆を呼んで話を聞いている辺り、オーク側の方から早急な報告を求められてるんじゃないのかい?」


「……流石ですねエイダ様。確かにオーク側から本日中の報告と対応を迫られてます」


 トロンが声を顰めエイダに告げる。


「ふん、だったらこれからふたりを連れて戻って――なんて事をしてたらとてもじゃないが間に合わないね」


「ですがエイダ様、彼らは所在も不明。おまけにあの風真という男に関しては、街中で所持が禁止されている武器の類も持ち合わせています。このまま放っておくわけには――」


 トロンの言葉にエイダは再び、

「ふんっ!」

と一つ鼻を鳴らし。


「だったらその所在に関しては話を持ち帰るだけ無駄だね。このふたりはそもそもこの世界の人間では無いんだからね」


 エイダは意外にもあっさりふたりの素性を明かす。


「この世界の人間ではない? はておっしゃられている意味が今一理解できないのですが……」


 エイダの発言にトロンの眉が左右に大きく広がった。

 突然そんな事を明かされても、理解が追いつかないであろう。


「そのままの意味だよ。あのふたりはこの世界とは次元の異なる世界から来ているのさ。何故かは判らないがその証拠にあいつらにはマナもない」


「はぁ?」


 エイダの言葉に後ろのドラムが思わず声を上げた。シンバルも不思議そうに目をぱちくりとさせている。


「マナが無いなんて――俄かには信じがたい話ですな」


 トロンの眉尻が若干下がった。


「あたしの言うことが信じられないのかい?」


「いや決してそう言うわけでは」


 トロンは慌てて両手を前で振り取り繕うとする。


「ふん、まぁそのままマテライトに連れていったとしても判ることさね。守団に入るぐらいの力量を持った魔術師ならそれぐらい視えるだろうしね」


 そう言った後、エイダはトロンに厳しい視線を送り、

「ただ、間違いなしにオークとの関係は悪化するだろうね。あたしの占いでもそうでていたよ」

と話を繋げた。


「むぅ――」


 トロンは一つ唸り頭を悩ます。


「しかし、ならばエイダ様は一体どのようにすれば宜しいと思われるのですか?」


 顎に指を添えたままトロンはエイダに問いかける。

 彼としても、ただ無駄と言われて引き下がるわけにはいかないのだろう。


「簡単な事さ、あの馬鹿の言っている通りにすればいい」


「は? と申されますと?」


 言下にトロンは口を開いた。


「あれの望み通りオークと話を付けさせてやんな。自分の尻は自分で拭かせるんだよ」


 エイダの答えにトロン含む三人、そして街の皆も驚きを隠せないようであった。


「ババァ。少しは話が判るじゃねぇか」


 するとエイダの後方から風真がそう言葉を述べる。

 それにエイダが振り返りひと睨みをきかせるが、風真はどこ吹く風といった様子だ。


「いやしかしエイダ様……流石にそれは――」


 外垣が再びざわつく中、トロンが困ったような表情でエイダに言葉を返す。


「勿論、あの馬鹿一人に任せろって言ってるんじゃないよ。連れていくならあの風真とバレットのふたり、それにあんたら三人と一緒に森に向かうんだよ」


 エイダの提案にトロンは言葉が出てこない。


「あんたにとって今一番大事なのはなんだい? あいつらの所在を確かめる事かい? それとも風真の武器の事を追求する事か? 違うだろ。今片付けなければいけないのはオークとの事以外ありえない筈だよ」


「……しかしそのような事流石に独断では――」


「だったら、この街にも転声器ぐらいあるんだから、さっさとそれで確認取ってきな。私がそう言ってると伝えてくれて構わないから」


 エイダの追従に押され、トロンは大きくひと呼吸すると、

「判りました、確認を取って参ります」

と述べ、後の事をシンバルとドラムに任せその場を離れていった。





◇◆◇


 トロンが一時その場を離れたあと、一斉に住人たちがエイダの傍に集まり、風真とバレットの二人を行かせるような真似をして本当に大丈夫なのかなどと訊いてくる。


 しかしエイダの、

「あたしの占いで出ていたんだよ」

の一言で瞬時に全員が納得してしまった。


「全くこの馬鹿のせいで、とんだ事に首を突っ込んでしまったよ」


 件の二人の前に立ち、エイダは目付きを尖らせる。


「はん、まぁ後はこの俺に任せておくんだな」


「馬鹿言うんじゃないよ。お前一人になんか任せてたら収まるものも収まらなくなるってもんだい」


 自信に溢れる風真を他所に、エイダはバレットに目配せする。


「まいったねぇ、おいらは手綱役って事? 自信ないねぇ」


 言ってバレットは苦笑する。


「しかしエイダ、本当に占いでそこまで視えたのかい?」


 何げに飛び出たバレットの質問に、

「ふん、あんなのほぼはったりみたいなもんさ。そこまで占いは万能じゃないよ。目の前で視る人の事ならかなり細かく視えるけどね」

とエイダが返し。


「まぁそれでも、捕まってる人々があの森にいてまだ無事だって事ぐらいは判るけどね。ただ急がないと大分弱ってる可能性が高いね」

と話を紡ぐ。

 その言葉でバレットはエイダが何故あそこまで事を急かせたのか判った気がした。


「ねぇお婆ちゃん。それならオークにその占いの事を伝えればいいんでないの?」


 リディアの口から的を射たような質問が飛び出る。


「……そう上手くはいかないさ。オーク達はね、魔術の力を信じてないのさ。毛嫌いしてると言っても言い。だから例えあたしが占いの事をいったところで通じも納得もしないだろうさ」


「そうなんだ、上手くいかないね……」


 リディアは少し残念そうに言葉を漏らす。


「シェリー!」


「お父さん!?」


 すると人垣の中からウィルが姿を現した。その横には昨日風真とバレットが出会ったパン屋のドメイクと、ナムルの姿も。



 ウィル達が皆の方へ脚をすすめると、シェリーがウィルの傍にかけより、

「黙っててごめんなさい。お父さん」

と申し訳なさそうに瞳を伏せる。


「……とにかくご挨拶しておかないと」


 ウィルはシェリーの頭に軽く手を添えた後、少し難しい表情でドラムとシンバルの前で脚を止め、

「この度はうちのシェリーの事で申し訳ありません」

と深々と頭を下げ、シェリーもそれに倣った。


「いや! そんな頭を上げて下さい!」


 シンバルが慌てながら両手を顔の前で左右に振り、ドラムはその姿を呆れたように横目てみている。


「エイダさんもすみません。シェリーの為にご足労頂いてしまって」


「ふん、別にあんたやシェリーが気にする事じゃないさ。この馬鹿が考えなしに事を起こしたのが悪いんだしね」


 エイダの発言に、

「うるせぃ」

と風真が言葉を漏らす。


「でも、この男は確かに言葉は悪いが、シェリーやエイダを助けてくれたりと決して悪い男じゃ無いと思うんだ」


「そうだよぉ。話を聞くとこの風真さんがいなかったらシェリーもどうなっていたかわからないそうじゃないかぁ」


 ナムルとドメイクが風真の擁護に入り、続くようにウィルが、

「確かに、やり方には問題があったのかもしれませんが私もたった一人の娘を助けてもらった恩があります。なんとか穏便には済ませられないでしょうか?」

とシンバル、ドラムの二人に向かって問いかける。


「悪いがそれは俺たちが決める事じゃないんだ。それに今は話も大分変わってきてるしな、とりあえずトロン守長が戻ってこなことには――」


 ドラムがウィルにそう説明していると、

「あ! 戻って来ましたよ!」

とシンバルが声を上げた――


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