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第四〇話 異世界の存在

 エイダの問いに、ジョニーと風真はこれまでの経緯を説明した。自分たちが気がつくまでどのような状況に置かれていたか、そして気がついた時には全く違う地にいた事まで。


「成程ねぇ――」


 そう言ってエイダは木製の椅子の背もたれに背中を預けた。ギィッ――という軋み音が部屋内に響く。


「え~とつまり二人共、気がついたらあの森にいたって事なの? 全く違うところから? 何それ!? 一体どういう事なの?」


「だからそれを聞きにここまで来てるんだだろうが」


 疑問を口にするリディアに風真が不機嫌そうに言葉を返した。


「ふん、それを聞きにねぇ。だがこれはそんな簡単な事ではないかもしれないよ」


 エイダが両眼を鋭くさせ二人へそう告げる。


「エイダ。簡単な事じゃないって言うと?」


 ジョニーが真剣な眼差しをエイダへ送る。


「――その話と、お前達ふたりのマナが無い事を照らし合わせ考えると、恐らく二人は私たちのいるこの世界とは全く次元の異なる別世界から来てる可能性が高いだろうねぇ」


 エイダの導き出した回答に、二人は口を噤み、リディアは目を丸くさせる。


 そしてなお、エイダは三人を見ながら一度溜息を吐き出し、

「全く、ウィルの奴も厄介な者をよこしたもんだよ」

と言って肩を落とす。


「――成程ねぇ」


 ジョニーが顎を掻きながら発した言葉。


 その落ち着きにエイダが片目を広げ、

「なんだい。随分落ち着いてるもんだねぇ」

と張り合い無さ気に言った。


「まぁ、魔術とか言われた時から妙な感じはあったしねぇ。ウィルの家で地図を見せて貰った時もおいらの記憶とは全く違ってたし――」


 ジョニーはそこで一旦、息を一つ吐き出し、

「だから薄々そんな気はしてたけど、エイダの話ではっきりしたよ。まさかお伽話みたいな事が本当にあるとはびっくりだけどねぇ」

と言って頭をふった。だが表情は相変わらずどこか軽い。


「ちょ! ちょっとお婆ちゃんもジョニーも!」


 握り締めた両拳を胸の前で合わせながらリディアが叫んだ。


「なんか妙に納得してるみたいだけど、凄い事言ってるのよ!? 全く違う世界だなんて――いくらなんでもあり得ないわ!」


 胸で合わせていた両拳を、弾けたように左右に広げ、否定するリディア。


「ふん、有り得ないって意味では、マナが無いって時点で既に生きてることが有り得ないんだ。そんなのがふたり雁首揃えてここに来てるんだ、認めざるをえないだろう。それにこの類はどちらかと言えばリディア、あんたの得意分野だろう?」


 その言葉にリディアが、え? と一度両眼を丸くさせ、顎に手を沿え考え始めた。


「そう言われてみると、もしかしたらアレなら……でもいくらなんでも――」


 一人ぶつぶつと呟き続けるリディア。それを尻目に風真が眉間に皺を寄せ。


「お前らいい加減にしろ! さっきからなにを世界がどうとかわけのわかんないこと言ってやがるんだ!?」


 風真が言葉を荒げ腕を組んだ。

 その様子に、ジョニーは後頭部に手を沿え、困ったような笑みを浮かべる。


 なんと説明しようか言い倦ねているジョニー。風真は左の眉を上げ不審な表情。

 思わずエイダに熱い視線を送るジョニーだが、目を逸らし我関せずと言った様子。

 そして、リディアはまだぶつぶつと一人呟いている。


 仕方が無い、と軽く肩を落とすジョニー。なるべく簡単に説明しないと風真には理解されないだろうと考え。


「風真の旦那、旦那も海は知ってるよな?」

とまずはジョニーから質問をぶつける。


「あぁん? 馬鹿にするなよ! 海ぐらい知ってるに決まってるだろうが」


 不機嫌そうに眉を顰める風真。


「じゃあ。その海の向こうには、色々な国があるのは知ってるかな?」


 ジョニーは、あくまで自分と風真が同じ世界にいたという前提で話を進める。


「――まぁ聞いたことはあるな」


 少し視線を上げるようにして答える風真。あまり自信は無さそうだがジョニーは構わず。


「そうそう、だから本来は海を超えれば色々な国に行くことが出来る」


「あぁそうなんだろうな」


 判ったように風真が頷く。


「だけどねぇ、ここで問題なのが、おいら達が今いるここは、その海を越えてもいけない世界だって事なのさぁ」


「あぁ!? なんだそりゃ! 海を越えて行けないなら一体どうやって来たんだよ!」


 風真が相方を睨みつけるが、どうどうと嗜めるようにジョニーが両手で壁を作る。


「だからそれが厄介なとこなのさぁ。来た方法も判らない世界にいるんだ。帰る術も簡単には見つからないだろう?」


「んだよそれは! 冗談じゃねぇぞ。こっちはさっさと戻って決着を付けなきゃいけねぇ奴がいるんだ」


 ジョニーに大して風真が色めき立つ。白い歯に赤い歯茎までもを覗かせながらエイダに視線を巡らせ、

「おいババァ! 態々ここまで来たんだ。ただ帰り道は判りませんって答えて終わるわけじゃないよな!?」

と叫んだ。今朝方までエイダに会うのを面倒くさがっていた事が嘘のようである。


「全く煩い餓鬼だよ。悪いけどあたしは専門外だよ、後はリディアの記憶に頼るんだね」


 にべもなくそう返してくるエイダに、風真は髪の毛を掻き毟り、くそったれ! とぼやく。


「おいリディア。どうなんだ? 何か知ってるのかよ」


 風真の声にリディアが振り向いた。


「う~ん、可能性は薄いと思うんだけど――」


 小さく呟きながら、口元に折り曲げた人差し指を当てリディアは次なる言葉を言い綴る。


「時空魔術というのがあるの。それならもしかしたらとも考えられるんだけどね」


 勿論そんな事を言われたところで風真にはピンとこないようで、片目だけ大きく広げ腕を組みだす。


「その時空魔術ってのは、どういうものなんだいリディア?」


 そして横からジョニーが口を挟んだ。


 ジョニーの言葉にリディアは、あ、そうか! と一度発し。


「え~とね。時空魔術というのは――」

と丁重に講義を初めてくれた。


 リディアの説明は何かの本を元に、そのまんま構築されたような話で、風真は勿論、ジョニーにも全てを理解するのは難しかった。

 だが専門的な用語を除き、纏めてみると、このジョニーと風真の居た地、そして今いる地、こういった大きな世界には多数の時空世界が折り重なるようにして存在しており、時空魔術というのはその時空の扉を開き脚を踏み入れる事が出来る――そういった類のこの世界特有の技術らしい。



 リディアはいよいよ乗ってきたのか、更に得意気に話を続ける。だが後半の講義はジョニーにも殆ど理解が出来ない。風真も欠伸を噛み殺している。


「――というわけなんだけど、判ったかな?」


 それなりの時間を労してようやく講義の時間が終りを告げた。全ての知識を披露したリディアはとても満足気である。


「う~ん。なんとなく」


 思ったままをジョニーは口にした。


「さっぱりわかんねぇけど、要はその食う魔術とかいうのを使えば俺らは元の世界に戻れるってことか?」


「時・空・魔・術! 全く本当にちゃんと聞いていたのかしら」


 腰に手を当て、口を一文字に結ぶリディア。しかし聞いていたか聞いていないかでいえば風真は殆ど聞いていなかっただろう。


「あぁ! 何か面倒くせぇなぁ! とにかくその時空なんとかを使えば戻れるのかって」


 髪を掻き毟り風真は声を荒げ問う。


「そこなのよねぇ。正直時空魔術って本当最近になって構築され始めた術で成功例も皆無なのよ」


 形の良い両の眉尻を少し下げ、リディアは更に話を続ける。


「それに成功したのも時空魔術を使って、数百メートル程を瞬時に移動したってぐらいの話だしね。勿論これはこれで凄い事なんだけど」


「ふぅん、で? お前はその時空魔術というのが使えるのかよ?」


 風真の問いかけに、リディアではなくジョニーとエイダが両眼を丸くさせた。

 この時、少くともジョニーは、出来ると言われてもそれの実験体になるのは勘弁願いたいと思ったりした。


「流石に私には使えないわよ」


 その答えに、ほっと胸を撫で下ろすジョニー。


「う~ん、でもこの国で使える人いるかなぁ……」


 リディアが顎に人差し指を当て、視線を宙で泳がせる。


「やっぱり可能性があるとしたら、首都マナライトの魔術師ね。特に一人知識の量が半端じゃない女性がいるらしいんだけど――」


「だったら、さっさと会いに行くとしようぜ」


「あのね。そんな簡単な話じゃないのよ」


 諭すように風真に言葉を返すリディア。


「その魔術師とやらに会うのに何か問題があるのかいリディア?」


 ハットのブリムを軽く持ち上げながら、ジョニーはリディアに問うような視線を送る。


「うん、だって女王直近の王宮魔術師だからね。会いに来ましたと言って、おいそれと会わせてくれるわけないし――」


 言葉を切り眉尻を落とすリディア。少し困った表情で、

「第一、ふたり共――そもそもこのマグノリア王国の国民じゃないって問題もあるのよね」

と話を紡いだ。


「ったく、面倒臭ぇ話だなぁ」


 風真がぼやき耳を穿る。


「でも確かに、女王となるとねぇ。いきなり敷居が高くなった気がするさぁ」


 眉を上げ、両手を広げるジョニー。いくらこの世界の事は詳しくないとは言え、女王と言われれば身構えもする。


「そうなのよねぇ……女王――女王」


 顎に手をやり、一人呟くリディア。すると突然、あ!? と思い出したように声を上げ瞳を大きく広げる。


「そうだ女王よ! 今年生誕祭じゃない! すっかり忘れてたわ。それならお婆ちゃんの顔で何とかなるかも! ね? お婆ちゃん?」


 リディアが顔を巡らせ、エイダに向かって声を掛ける。


 すると、

「ふんっ!」

とエイダが一言返し。


「確かにソレにはあたしも招待されてるけどね。でもだからってこのふたりを紹介してやる義理はないよ」


 そうはっきりと言い切った。


「そんなぁ、二人には助けて貰ったんだし、それぐらいしてあげてもいいじゃない。ね?」


 リディアが両手を胸の前で合わせ、猫なで声で訴える。


「だから、今日の話までは付き合ってあげたけどね。悪いが、あたしはまだこのふたりを完全に信用してるわけじゃないんだよ。只でさえどこの世界からきた馬の骨とも判らないような奴らだ、それに――」


 そこでエイダは目付きを尖らせ、

「風真とかいう失礼な餓鬼もそうだが、自分の名前も偽ってるような奴はとても信用ならないねぇ」

とジョニーを睨みつける様にしながら言葉を続けた――

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