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第三話 ガトリング砲

 生き残った警官隊の後方から現れたそれは、鋼鉄のニつの車輪に挟まれた分厚い板の上にけったいな筒状の物が円形にまとめられのっている巨大なカラクリ。


「なんだありゃあ?」


 思わず風真は目を丸くさせ疑問の声をあげた。


 そんな風真の疑問に答えるように相澤は簡単に説明を始める。


「これはガトリング砲と言いましてね、鋼鉄の弾丸を何発も撃ち込める素晴らしい代物で速射砲とも言えましょうか? 全く貴方一人の為にこれの許可を取るのは苦労したんですよ?」


「それはそれは御苦労なこった、で? そのハリボテで少しは楽しませてくれるのかい?」


「そうですねそのハリボテを気に入って貰えると嬉しいのですがハハハ……」


 乾いた笑いで返答しつつも相澤の眼鏡の奥の瞳は笑ってはいなかった。


 そして相澤は片手を上空にあげ起動準備の合図を隊員たちに送る。


 その合図と同時に生き残った小隊の面々が、ガトリング砲の射程範囲から離れるように散っていく。


 そして耳に残る甲高い音と共に砲身が素早く回りだす。その気配を察したのか風真が身構えはじめた。


「さぁ楽しんでくださいよ……発射ぁ!! 」

 

 相澤の叫び声が上空に轟くと同時に砲身から数多の銃弾が飛び出し狂ったように風真に襲い掛かる。


 白煙をあげながら低音かつ鈍い轟音の連続で放たれる弾丸の雨に対し風真は、ガトリング砲の動きを視界に捉えながら横方向に猛ダッシュで駆け出した。


 数名の射撃手により動作されるガトリング砲は、風真を捉えようと大量の白煙をあげながら轟音を射撃手達の耳に残し躍起になって旋回している。



 しかし重い砲身を数名で台座こと動かし照準を合わせる作りのガトリング砲である。素早く横走りで疾走する風真には中々照準が定まらない。


 それに気付いた風真は相澤に向かって叫ぶ。


「おいおい、なんだこのハリボテ? 確かに口からは多量の鉄の弾を吐き出しその辺の地面や岩にはよう当たるが、当の本人にはかすり傷一つ、つかねぇぞ?」


 風真は、そのハリボテに少しづつ距離を詰めながら、挑発じみた言葉を発した。


「やれやれ、もう少しは楽しんでは頂けると思ったのですがやはり一基では力不足だった様ですね……」


 相澤は両腕を広げ首を左右に軽くふりながら口を開いた。


「本当参りますよ、一基でも許可を取るのに随分苦労したんですよ? それを二基も用意したんですから……」


 すると風真の背後の方からも耳障りな甲高い音が鳴り響く。そして風真の背後に、もう一基のガトリング砲が姿を現し、低く鈍い轟音と共に砲身から多量の弾丸が放たれ風真に襲い掛かる。


 風真は脚に溜めた力を一気に開放し地面を蹴りあげ雷のごとき速さで横に飛び弾丸をかわす。


  しかし風真の回避した位置に合わせるように前方の一基から放たれた弾丸が牙をむき飛び掛かる。


 風真は人間離れした身体能力で、その弾丸の波すらも、より加速する脚力で回避する。


 だが回避した先にも風真の動きを読むように、もう一基から放たれた弾丸が飛び掛かってきた。


 相澤はこの二基のガトリング砲を、繰り出す合図によりまるで手足の用に操っていた。


 二基のガトリング砲に挟まれ右往左往する風真を嘲笑うかのように大量の銃弾が風真を追い詰めていく。


 二基のガトリング砲によるコンビネーション攻撃は、少しずつ風真の肉体を蝕んでいく。


 避けても避けてもその先に待ってましたと言わんばかりに飛んでくる弾丸の雨霰は、風真の肩をかすめ太股を貫通し脇腹を抉る。


「そろそろ限界ですかね……」


 相澤は徐々に被弾し、出血に染まっていく風真の姿をみつめながら、静かな口調で呟いた。


 その時二基のガトリング砲の、激しい銃撃音が響き渡る戦場の上空に暗雲が集まりだす。


 上空で暗く染まっていく雲の隙間からは、青白い光の帯が時折見え隠れし、その光に合わせるように、低く鈍い呻き声のような音が聞こえはじめていた。


 辺り一面は薄暗い闇に包まれ、灰黒い雲からこぼれ落ちた水滴が数回相澤の頬をうつ。


「このタイミングで雨ですか……何か嫌な感じですね……」


 相澤は雨雲から降りそそぐ銀色の雨をみつめながら小さな声で呟いた。


 激しい銃音が鳴り響く戦場は、いつの間にか大量に降り注ぐ雨にすっかり支配されていた。


 けたたましい雷の轟音と共に大粒の雨が大地を激しく打ち付ける。


 雨は風真の血に濡れた着物を多少は洗い流してくれるも、戦場に張り巡らされた雨の幕は戦場の者全ての視界を悪化させる。


「この雨は悪くないが銃弾の雨は勘弁願いたいねぇ」


 風真は銃弾を避けつつ呟いた。


 その身に回避しきれなかった弾丸を何発も受けてもなお、風真の動きは鈍ることなく大地を蹴り飛ばしながら動き続ける。


「しかし……この状況はいい加減何とかしねぇとな」


 銃弾を避けながらも、風真はさらに呟きながら、右手を顎にそえ考えを巡らせる。


「好機は一度だろうな……」


 何かを思い付いたように、言葉を発した風真は慎重にタイミングを見計らうようにガトリング砲の動きを伺い見る。


「今だ!」風真は発した言葉とほぼ同時に、ある一点目指し飛び込んでいった。





「馬鹿め遂に観念したか!」


 ガトリング砲の照準の真正面に飛び込んできた風真を目のあたりにし、射撃手が思わずそう叫びあげた。


 そして射撃手がガトリング砲の引き金に指を掛け発射しようとしたその時……


「止めろ! 撃つんじゃない!」


 突如相澤が声を荒げ静止した。


「――相澤長官……何故……?」


 射撃手がそう呟きながら標的の向こう側を目を凝らしてよくみると、風真に向け必死に照準を合わせようと旋回するもう一基のガトリング砲の姿があった。


 もしそのまま撃ち込んで風真が躱そうものなら、反対側のガトリング砲の部隊に撃ち込む事となっていただろう。


「射線を重ね同士討ちを狙ってくるとは……この雨と機動力の無さが裏目にでましたねぇ……」


 そう呟き相澤は風真に目をむけた。





「相澤はこっちの狙いに気付いたか、さすがだな……しかしこの好機、逃さねぇ!」


 風真は銃撃のやんだその一瞬の隙を見逃さず、大きく腰を捻り思い切り息を吸い込む、そして居合の構えで【風神】に手をかけ【風刃(ふうば)】と一言発したと同時に、刀身が鞘から離れ、うねりを揚げる腰回転と共に空気を切り裂く。



 風真により抜かれた刀身は、鞘から離れたように見えた直後、甲高い高音と共に既に鞘の中に収まっていた。


 風神の刀身が鞘に収まると同時に、風真とガトリング砲とを繋ぐ道筋に漂う空気が、横一文字に歪みながら突き進む。


 その刹那、ガトリング砲を取り囲む射撃手達の間を、柔らかく心地よい風が通りすぎた。





「――今の風は一体?」


 射撃手の一人がそんな疑問の言葉を発した直後である。


 ガトリング砲の砲身の中心から両脇にかけて一本の切り傷が刻まれる。


 その直後ガトリング砲から鈍い軋み音が広がり、砲身の中心より上半分が地面に向けずれ落ちた。

 

「え? どう……」


 どうして? という疑問を投げ掛ける前に、射撃手達の体はズルリと、上半身と下半身が切株状に別れ地面に向かいずり落ちる。


 そして射撃手達のいた地面は噴き出した鮮血により染め上げられていった……


「全く、自力で鎌鼬を発生させるなんて……暫く見ない間にどれだけの化物に変化してるんですか」


 相澤は少しだけ口角を広げ、眼鏡の位置を左手の人差し指で軽く押し戻しながら、若干上擦ったような声を発した。


「とはいえ……流石にこのまま黙って傍観してるわけにもいかないですかね……」


 瞬時に表情を変えた相澤は、鋭い視線を風真に突き付けながら呟いた。


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