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第三十八話 ふたりの目覚め

 差し込む陽光がジョニーの顔を照らすと、彼の眉がひくひくと上下し、ゆっくりとその瞼が開かれる。

 虹彩が刺激され、思わずジョニーは顔を顰めるも、上半身をゆったりと起こし伸びをして一欠伸。


 ふと何かに気付いたようにジョニーが後ろを振り向き、遮光するカーテンに触れる。

 ジョニーの記憶では部屋のカーテンは随分と厚い生地だった筈だ。が、にも関わらずなぜこんなに光を通すのか――と。


 親指と人差し指を使い摘んでみると、ごわごわとした感触がジョニーの指に伝わってくる。

 やはりかなり厚い、しかも元の色は黒である。

 だが、今はすっかり遮光し黒から光り輝く見事な白へと生まれ変わっていた。


「これも魔導具ってやつかねぇ――」


 誰にともなく呟き、一人納得するジョニー。

 そして首を巡らし、ひょんな事で出会った相方に目をやった。

 驚いたことに風真は、この目も眩むような光の中で高いびきを掻き、今だ夢心地である。


 ジョニーは更に黒目を動かし、壁面に立て掛けてある壁時計に視線を定める。

 既に時計の針は8時丁度を示している。

 事前のリディアの話では、9時にはここを出ないと行けない筈であった。


 となると、そろそろ支度しなければまずいだろう。 

 ジョニーは全く起きる気配の無い風真へ声を掛けた。


「おい旦那。そろそろここを出ないといけないぜ」


 すると風真の身体がピクリと動き、上半身を起こし両手を伸ばして大口を開け欠伸する。


「よく眠っていたようだねぇ。いい夢でも見てたのかい?」


 目覚めて最初のジョニーの問いかけに片目を窄めながら、

「あん? 別に大した夢なんか見ちゃいねぇよ」

と風真が返した。


 相変わらずぶっきらぼうな返事であったが、ジョニーはそれ以上触れることなくベッドから床に脚を移し立ち上がる。


「しかしなんだこりゃ? 随分眩しいな」


 手を翳し顔を顰める風真。今の今までその光の中で悠々と鼾をかいていたわけだが――


「あぁ、どうやらこのカーテンは宿泊客が出る時間に合わせて光を通す仕組みになってるみたいだねぇ」


 ジョニーが片手を広げながらそう告げる。

 ダグンダの街には、ただでさえそれほど高い建造物が存在せず、宿の周りにも陽の光を阻害するような物は無く宿泊部屋も全て二階にある。目覚まし代わりにカーテンへこのような仕掛けを施すのにはうってつけと言えるのだろう。


 ジョニーは今だ欠伸を繰り返す風真を尻目に、洗面所へと移動した。

 そこには浴槽とは別に洗面用の台も備え付けられており、中央が円形にくり抜かれ凹んでいる。中には深めの洗面器が置いてあり、なみなみと冷水が貯まっていた。


 ジョニーと風真では蛇口から水を出すことすら叶わない為、リディアが前の晩に用意しておいてくれたのだ。

 ジョニーは冷たい水で顔を洗い、まだ眠気漂う頭をすっきりさせる。


 タオルで顔を拭きながら部屋に戻り、

「旦那も顔ぐらい洗ったらどうだい? すっきりするぜ」

と風真に声を掛けるジョニー。


 風真はそんなジョニーを一瞥すると立ち上がり、首を左右に振り肩を揉みながら洗面所へ向かった。

 その間にジョニーは手早く着替えを済ませてしまう。


 備え付けのガウン姿から愛着のあるウェスタンシャツとジーンズ姿に戻し、大切なハットを頭に乗せた。


 ジョニーは念の為、拳銃と残弾数を確認するが今のところはまだ問題は無い。

 ただ今後の事を考えると無駄には出来ないだろう。

 リディアの話では火薬というものも存在はしないようだ。

 弾の補充の件は少し考えておく必要もあるだろう。


 そんな事を思いつつ、左右に握られた二丁の拳銃で華麗にスピンを決めガンベルトに収める。


「なぁにやってんだおめぇは」


 すると、顔を洗い終えた風真が横から口を出す。


「いやぁ。こうやって手に馴染ませておかないと落ち着かなくてねぇ」


 風真をみやりながらジョニーはいつもの軽い口調で返答した。

 ジョニーの言葉に、ふんっ! と鼻を鳴らしながらベッドの傍らに置いておいた風神と雷神を掴む。


 昨晩風真は、着物姿のまま布団も掛けず就寝した為、特に着替える必要な無い。刀を腰に帯びるだけだ。


 その時、振り向きざまに風真が刀を抜いた。鋒がジョニーの面前に突き付けられる。


「俺はやっぱりこれを振らないと調子がでねぇな。相手がいれば尚いいんだが――どうだ? 一丁試してみるかい?」


 陽光を浴びて黄金色に輝く雷神を目にしながら、ジョニーは両手を上げ顔を左右に振り、

「ご冗談を、第一こんな狭いところで何が出来るってんだい?」

と言葉を返し苦笑いを浮かべる。


「チッ、まぁ確かにな」


 そう言って刃を鞘に収める風真と、安堵の表情を浮かべるジョニー。


「さて、そろそろ出ないとねぇ。旦那、朝食はとるんだろ?」


 ハットに手をやりながら問いかけて来るジョニーに、

「飯? 勿論! 腹が減っては戦は出来ないからなぁ」

と風真がはっきり告げる。


「そうかい、だったら急がないとねぇ。もうあまり時間も無いし――ってそうだ」


 何かを思い出した用にジョニーが視線を上げる。


「旦那、ほらその刀は例のあ・れ」


 そう刀を指差すジョニーに、ようやく風真は思いだし、頭を掻き毟りながら、

「チッ、面倒くせぇなぁ」

と舌打ちしながら刀を竿入れに収めた。


「さて、じゃあ急ぐとしましょうか」


 微笑を浮かべ、誰にともなく言ったジョニーの言葉を皮切りに二人は部屋を後にする。






 目の前にいる大食漢にジョニーは開いた口が塞がらなかった。

 テーブルには朝食に用意された目玉焼きにサラダ、そしてロールパンが二つ。


 ジョニーにとっては馴染みの深い朝食であるが、風真はあまり気乗りしないのか、こんなんで腹が膨れるのか等と最初は言っていたのだが。


 朝食のパンがおかわり自由だと聞くなり、目の前に並んだ二つのパンをあっさり口に放り込み、次々とお代わりを要求しだしたのである。


 その食いっぷりにジョニーは見てるだけでお腹が一杯になりそうであった。

 遠くで見ている従業員の女の子も目を丸くさせポカーンとしている。


「はぁ、食った食った」


 満足げに腹をさする風真。昨日のシェリーの件でジョニーも風真がよく食べる男なのは判っていたが――


「全く、朝からよくそんなに食べれるねぇ」


 思わず感嘆の声を漏らすジョニー。


「あん? 朝だからちゃんと食べておかないと力が出ねぇだろうが。まぁ本来なら米が食べたい所なんだけどな」


 米についてはジョニーにはピンとはこなかった。ただこれまでの事を思い起こす分には、この地の生活スタイルは風真よりはジョニーの居た所に近いようだった。


 現に今も、風真は苦い茶だ等と言いながらコーヒーを啜っているが、ジョニーにとっては馴染みの深い飲み物である。


「さて、旦那のお腹も膨れた事だし、リディアの家に向かわなきゃねぇ」


 コーヒーを一口啜ってジョニーが言うと、

「リディアの家? なんでだ?」

と風真が疑問の表情を浮かべる。


 するとジョニーが目を丸くさせ、

「おいおい旦那、冗談だろ? 今日エイダにおいら達の事を視てもらうって約束じゃないかい」

と言いながら呆れたように左手を振り上げた。


「うん? あぁそういえばそんな話もあったなぁ」


 耳を穿りながら風真が言う。

 どうも興味がないことはすぐ忘れる質なようだ。


「やれやれだねぇ全く」


 そう言って一息吐き出し、ジョニーがコーヒーカップを受け皿の上に置いた。

 食堂の柱に掛かってある時計を一瞥するジョニー。

 後十分程で9時である。


「おっとそろそろ出ないとなぁ旦那」


 席を立ち、ジョニーは風真を促した。


「判ったよ。しっかしどうにも占いとかというのはなぁ」


 今更そんな事をぼやく風真に、

「そうは言っても元に戻る手掛かりも特に無いわけだしねぇ。今はエイダに頼るしか無いさぁ」

とジョニーが眉を上げて言った。


 しょうがねぇなと口にしながら、席を立った風真と食堂を後にするジョニー。

 宿屋の受付のカウンター前では恰幅のいい主人がふたりを見送ってくれた。


 とても朗らかな主人で、洞窟の一件を聞いていたのか、エイダを助けてくれてありがとう、と交互に二人の両手を握りお礼を述べていた。どうやら普段からエイダの占いにお世話になっているらしい。


 主人の勢いに風真は少々たじろいでいたが、ジョニーが部屋を用意してくれたお礼を伝え、キリの良いところで(放っておけばいつまでもお喋りが続けそうだったので)ジョニーは話を切り、二人共に宿を離れたのだった――



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