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第三十六話 死神バレット

「馬鹿な! 今度は俺は奴から目を離していない! なのに、抜く瞬間が全く見えなかった……一体……奴はいったい!」


 呟くように一人言葉を発するその男の周囲には、ジョニーに攻撃を仕掛けたばかりに既に息の途絶えた者たちの骸が転がっていた。


 その出来事に、まわりにいる他の面々も言葉を無くしてしまっている。

 そして、ジョニーは再び銃を数度回転させた後、銃口の先でハットのズレを修正しグリップの底を連中に魅せつける。


「な、馬鹿な! あれは……」


 思わず言葉を発した男の視界に映ったのは、ジョニーが持つグリップの底側、そうそこに記されていたのだ、死神の主張である髑髏のマークが――


「あぁ、そういえばもう一つ言い忘れてたぜ。バレットはな、銃のそんな目立つところにマークなんて刻まねぇのさ。刻むならあくまでスマートに、そして……さりげなくだ」


 そう言ってジョニー……改めバレットは自らの名前を騙っている男へ銃口を向けた。


 ジョニー改めバレットの衝撃の告白に、彼の名を名乗っていた男についた手下の間でざわめきが起こっていた。

 だがその手下の中には最初から知っていたのか全く気にもしていない様子の者も多く見受けられる。


 そんなざわめきが収まらぬ最中、偽物のバレットが夜空に向かって銃を掲げ発砲した。

 その轟音によりざわめきが収まり、男は更に声を荒げ、

「てめぇら! 寧ろこれはチャンスだと思わねぇか! いくら死神バレットとはいえこっちはこれだけ数が揃ってるんだ、これは、名を上げるチャンスだぜ!」


 その言葉で手下達の表情が一変した。バレットを打ち倒すことで得られる利の大きさを感じ取ったのだろう。


「……全く、てめぇは動かず、勝手に人の名前まで利用する。そのずる賢い手口――ようやく判ったぜ。お前、【騙しのフォックス】だろ?」


 バレットの確信めいた問いかけに、フォックスと名指しされた男の小さな黒目が蠢き、その唇が歪む。


「――その表情、図星ってわけか」


「カカッ! そうさ! 確かに俺は騙しのフォックス様よ! だがそれがどうしたぁあぁああ! いいか! こっちの方が人数は勝ってんだ! いいかてめぇらもよく聞け! あの岩場の上じゃさっきのような小細工は出来ねぇ! そもそも逃げることだって出来ねぇんだよ! 俺達がやられる要素なんざこれっぽっちも、ねぇ!」


「さぁ、それはどうだろうねぇ」


 フォックスに対しバレットはそう告げると、岩を蹴り跳躍する。

 

 それを目にしたフォックスが目を見開き、

「馬鹿が! 空中じゃ銃だってまともに撃てるわけねぇだろうが!」


 そう叫びあげ、指で宙を舞うバレットを撃ち殺すよう手下に命じる。

 が、その目論見は外れた。なぜならバレットは空中でもなんの躊躇もなくホルスターから銃を抜き、眼下のならず者目掛け弾丸の雨を降らせたからだ。


「ヒッ!」

「ギャッ!」

「アヒィ!」


 バレットの放った銃弾を浴び、次々と倒れる手下達。

 そしてバレットは荒野の大地に降り立ち、一気に加速する。

 その俊敏さに手下たちは全くついていけていない。


「馬鹿野郎! てめぇら! バレットから目を離すんじゃねぇ!」


「で、でも動きが早すぎ、ガァ!」


 また一人バレットの凶弾に倒れ、段々とフォックスの顔に余裕がなくなっていく。


 それでも残った手下に向け、Colt Dragoon片手に叫び上げるも、突然の出来事に統率の取れなくなった手下たちは正しく烏合の衆とかしていた。


 手下達の放つ銃弾はまるで出鱈目にあちらこちらと飛び交い無駄玉のみが虚しく荒野に散っていく。

 バレットはその隙を逃すことなく両の手に握られた拳銃を右往左往する集団へ狙いを定め、荒野を駆けながら次々と銃弾を放っていく。


 バレットの持つリボルバーから飛び出した銃弾は、空気を切り裂き手下達の頭を、首を胸を次々と貫いていく。


「くそが! てめぇら落ち着け! いずれ奴の弾丸も切れる! その隙を狙え!」


 その言葉を受け、弾切れの瞬間を見逃すまいと何人かの手下はバレットの動きを窺った。


 しかし、バレットから発せられた弾丸は次から次へと死体の山を築き上げる一方、弾丸切れを起こす様子等微塵も感じさせなかった。


「クソ! 一体どうなってんだ! あの銃は!」


 思わずColt Dragoonを片手にフォックスは声を張り上げる。


 バレットの持つ拳銃はダブルアクションの八連式リボルバー。

 そのシリンダーには五.五mm×三〇と、通常の弾丸より細長い主にライフルに使われるような弾丸が込められていた。


 Colt Dragoonが威力のみを重視した改造を施された銃であれば、バレットの持つリボルバーは精度と弾速に重点を置かれた作りである。


 死神とさえ称された彼が両手に持つ砲金色の拳銃、それはこの世に二つと無いバレット専用の拳銃であった。


 そのバレットから発せられた弾丸は、まるで敵の動きを予知してるが如く動き回るターゲットへ一発も外すことなく的確にその急所を貫いていく。


 さらにその特殊な弾丸により、ターゲットの身体を貫いたあともその威力を殺すことなく、敵の頭を貫いた弾丸が更にその後ろのターゲットの瞳を打ち抜き脳を抉り、心臓を貫いた弾丸は更にまた別の心臓をも貫く。


 一発の銃弾で一度に二人、三人を始末する、これらの技術を駆使する事によりバレットは実際の弾丸数より遥かに多くの敵を片付けていった。


「――クソが! クソがぁぁ!」


 フォックスは『Colt Dragoon』片手に、自らの手下たちを壁にするように動き回りバレットの銃弾から逃れながら、悔しそうに言葉を吐き捨てた。



 その時、とめどなく繰り出されてきたバレットの銃弾が……止んだ。


 その様子に気付き、

「――弾切れだ! 奴め! ついに弾丸切れを起こしやがった! てめぇら今がチャンスだ! やつのまわりに隠れる場所もありはしねぇ! この隙を逃すんじゃねぇぞ!」

とフォックスが吠え上げる。


 一斉にバレットに向けられる銃口の数々。


 バレットの動きが止まった瞬間に一斉に打ち込むつもりなのだろう。


 確かにバレットの周りには隠れられるような場所は見当たらなかった。

 しかしバレットはその動きを止めることは無く、その両手に持ちし拳銃をスイングアウトさせた。

 すると二丁の拳銃は引き金を堺にそのまま横に倒れるように折れ、シリンダー部が露になる。

 そしてバレットは横に折れたような状態の二丁の拳銃を前方に放り投げた。


 その様子を見ていた手下たちの顔が唖然とした表情に変わる。


 しかしバレットは銃を放り投げた瞬間、瞬時にガンベルトに収めていた弾丸を右に八発、左に八発取り出し掌に収める。

 更に柔らかい手首の動きで左右の掌にシリンダーの形に沿うよう弾丸を押し当て、そのまま左右の腕を勢い良く交互に振り、前方を漂う二丁の拳銃のシリンダーに一気に押し込み――

 瞬時にして弾丸の補充を完了させた拳銃を掴み、折れた状態の拳銃を再度スイングさせた。


 まるで流れるような手早さで行なった一連の動作により、弾込めを完了させた拳銃をバレットは再び構えなおす。


「な、ば、化物かあの男は!」


 その一連の動きを目にし、フォックスが酷く狼狽めいた表情を浮かべながら驚倒の言葉を吐き出した。


 弾切れの瞬間を狙おうと必死にバレットの様子を窺っていた手下達も、彼の装弾が終わるまで、ただ呆然と眺めている事しか出来なかった。


 バレットは補充を終わらせ構えていた両手の拳銃を交互に連射させ、既に戦意さえ喪失したかのような残りの集団へ、一切の情も感じさせない銃撃を繰り出していく。


 そして容赦無い弾丸の雨がフォックスの手下達に次々と降り注ぐ。

 撃ち放たれた大量の弾丸は、恥も外聞も無く逃げ惑うフォックスを除き、全ての敵を物言わぬ屍へと変えていった。


 しかしフォックスは未だ足を止めようとしない、その姿はハンターの手から逃れようとする往生際の悪い狐そのものだ。

 バレットはやれやれといった表情でフォックスの足元めがけ銃弾を一発発射――


 そして足元に火花を散らし着弾すると、フォックスは体勢を崩し地面を舐めるように激しく転倒した。


 うつ伏せの状態で地面に倒れ込んでいるフォックスの耳元には、何故かただ一つの足音のみが鮮明に響き渡る。


 そしてフォックスは、ヒッ! という情けない叫びを上げながら身体を仰向けに変え、上半身だけを起こし腕だけで後退りを始めた。


 冷たい瞳で見下ろすバレットとフォックスとの距離は、既にその気になればいつでも片を付ける事が可能なぐらいである。


「わ! わかったバレット! こ……降参だ! あんたを仕留めようだなんて馬鹿な夢だったんだ、な? ほらこの通り……」


 フォックスは動きを止めると恥ずかしげもなくバレットに助けを懇願し、その手に握られていたColt Dragoonを遠方に投げ捨てた。


「へへっ……な? これでわかっただろう? もう俺はあんたに抵抗する気なんてこれっぽちもない! だから……頼む! その銃を下ろしてくれよ……」


 卑屈な笑いを浮かばせながら、更にフォックスはバレッドに懇願する。

 そして、バレットの様子を窺いながらフォックスが下半身に力を込め立ち上がろうとした。


「――動くな」

  

 しかし、バレットは淡々とした言葉でフォックスの動作を押さえ込み更に言葉を紡ぐ。


「お前、コートの下にまだ銃を隠し持ってるだろ?」


 まるで仕掛けた悪戯が見破られた子供のように悔しそうな顔を覗かせるフォックス。勿論その心は子供のような純粋なものでは無く、酷く汚れた醜悪なものだった。


 フォックスは立ち上がろうと手に力を込めたまま、その動きを留めていた。

 表情は口角を釣り上げたまま、固まったかのようにピクリともしない。


 下ろされることのない砲金色の拳銃を眺めながら、この場を乗り切る策を必死に模索してるのか、顔が少し熱を帯びてるようにも見えた。


 額からは多量の汗が迸っている。しかし、この状況を打破できる策など騙しのフォックスといえど見つかるよしも無かった――


 だが、幸運の女神はバレットがいっていたように必ずしも正しい者に微笑むばかりではない。時折酷く……意地悪だ。


「ジョニー!」


 フォックスの背中越しに見覚えのある姿が見えた。


 この状況でまだジョニーという名前を呼ぶのは限られている。そしてその声は男のものではなくもっと繊細な――少女の声だった。


「サニー! どうして君がここに!?」


 その瞬間、バレットに動揺が走り、思わず驚きの声を上げる。


「だって、ジョニーもシェリフだって! いつの間にか町からいなくなってたから、だから嫌な予感がして、でも……これって……」


 サニーは思わず周囲をみやり、累々と横たわる屍にその瞳を戦かせる。


 そして、この状況でサニーが現れた事はバレットには計算外だったのだろう。

 その為、一瞬の隙を作ってしまった。


 その男は口角をこれ以上ないぐらい吊り上がらせた。このチャンスを逃したら最後だと感じたのだろう。

 足に力を込め蹶然すると、コートの中に手を入れた。


 バレットは隠し持っていた銃を取り出すと思ったのかもしれない。しかし、その手に握られていたのは布で包まれた細長い物体だった。


 するとフォックスは、その手の物を地面に放り投げ、同時に背中を向け駆け出す。

 バレットはフォックスに照準を向けようとしたがその漂う物体に何か嫌な予感を感じ、サニーに止まれ! と叫び上げ後ろに飛び退いた。


 そして物体が地に触れた直後、大きな破裂音と共に地面が爆ぜ、爆風がその場を包み込んだ。


 フォックスが投げた爆弾の影響で、先程までバレットとフォックスがいた辺りは灰色がかった煙と舞い上がった土埃に支配されている。


 バレットはその煙と埃を手で払うようにしながら、ふたりの気配に意識を集中させる。


 その時、荒野に突如突風が吹き荒れた。空に浮き上がった月は何時の間にか灰黒い雲に覆われて来ている。


 するとバレットの視界を支配していた煙と埃は突風により吹き飛ばされ、段々とその光景を露にしていく。


「クククッ……どうやらツキは俺の方に向いてきたようだなぁ!」


 そして、バレットが目にしたのはサニーの姿でありフォックスの姿でもあった。

 それは正しく最悪の光景とも言える。

 フォックスは片方の腕でサニーを締め上げるように捕らえ、隠し持っていたリボルバーを空いている方の手で握り、その銃口をサニーの顳かみに押し当てるようにして立っていた。


「サニー……」


「おっと動くんじゃねぇぞ!」


 近づこうとしたバレットを、フォックスが怒鳴り上げ制した。


「へへ、いいかバレット! この女を助けたかったら銃を捨てろ!」


 フォックスはその場に立ち尽くすバレットに向け言葉を荒げ命じた。

 それに反応せず沈黙するバレット。

 そして――サニーの顔に動揺が走る。


「な……何……言ってるの? 彼はバレットなんて名前じゃない。ジョニー、ジョニーよ!」


 真実を知らないサニーは当然、ジョニーの正体が死神バレットと呼ばれる程の賞金首だと判っていない。


 その姿に、フォックスは醜悪な笑みを浮かべ答える。


「カカカッ! めでてぇ女だな! いいか? てめぇがジョニーと呼んでいる目の前の男はな! これまえに何人ものガンマンをその手に掛けた賞金首なんだよ! 最強最悪の賞金首、死神バレットという名のなぁ!」


「そ、そんな……ほん、とう、なの?」


 真実を知ったサニーの表情は当然困惑しており――喉奥から絞り出したような声でバレットに問いかけた。


「……あぁ、本当の事だ。騙してて悪かった……サニー」


 そして、サニーの問いに、バレットは隠すこともせず全てを認めた。


「ククッ……アーハッハッ! 笑いが止まらないねぇ! よかったじゃねぇかサニー! こんだけの大物の死に様を特等席で見物できるんだからよぉ!」


 大口を開け、馬鹿笑いを決め、勝利を確信したかのように声を荒げるフォックス。

 しかしバレットの瞳は冷たく光り、表情も険しさを増していく。


「俺の死に様? なんの話だ?」


 そして――バレットはその言葉を吐き出すと同時にフォックスへ銃口を向けた。 


「な……どういうつもりだ! なんだったらこの女の頭、今すぐ粉々に吹き飛ばしてもかまわねぇんだぞ!」


 言葉を荒げたフォックスの手に力が込められた。サニーの顳かみに銃口がより深く押し当てられ、その表情に苦痛の色が窺える。


「悪いがそれは出来ない相談だ」


 淡々とした答えがフォックスの耳に届いた。


「テメェ、自分で何言っているのか判ってんのか! その銃を下ろさねぇなら、今すぐこの女の頭をふっ飛ばすぞ!」


 だが、バレットは銃を下ろすことなく、サニーの瞳をじっと見つめ口を開いた。


「……済まないサニー。もし俺が今殺られる事になったならフォックスは次に間違い無く君を殺すだろう。今俺がいいなりになったところで何の解決にもならない」


「な!? 何言ってやがるて――」


「それでいいわ!」


 サニーが声を上げフォックスの言葉を静した。決意めいた口調で、更に声を振り絞るように話を続ける。


「いいの、私……大丈夫だから。だからお願いジョニー、この街を――守って」


「てめぇら……勝手に納得してんじゃねぇぞ! わかってんのか今の状況を!」


 フォックスが小さな黒目を限界まで広げ、捲し立てるように言葉を連ねた。

 しかし、その表情に先程までの余裕は感じられない。


「状況をわかってねぇのはお前だフォックス」


 バレットは睨みを効かせながら更に言葉を紡げる。


「今、この場を支配してるのはお前じゃない、この俺だ。お前は選択を迫る方じゃねぇ……選ぶんだフォックス」


 放たれる言葉はあくまで淡々と、しかし言葉の内面に潜む威圧感は心を抉りだしそうな程に研ぎ澄まされていた。


「クッ! ふざけるな! この俺が……俺がぁぁぁ!」


 獲物を追い詰めていたはずが何時の間にか追い詰められる側に回り、フォックスの心中は決して穏やかでは無いのだろう。

 吊り上がった口角は下がりきり、自身に満ちていた顔は狼狽し、銃を持つ手も震え始めている。


 それでもなお、強がるように言葉を荒げるその姿は、手負いの狐が虚勢をはっているようにしか見えなかった。


「……いいかフォックス、先に言っておく。お前がその引き金を引いた瞬間、俺の弾丸がまずお前の右膝を貫く」


 バレットは淡々とした言葉と冷たい瞳で更に話を続ける。


「その次は左膝だ。脚の使えなくなったお前は、まるで芋虫のように這いずり回ることしか出来なくなるだろう。だがそれで終わりじゃない」


 冷たく言い放たれる言葉の一つ一つがフォックスの表情に陰りを帯びさせていく。


「膝の後は腕だ。左腕と右腕を片方ずつしっかり撃ち抜いてやる。それでお前は一切の動きを止めるだろう……あまりの苦痛にな。そうやって動けなくなった後は指をやる。一本一本足も含めて丁重にな」


 バレットはその淡々とした言葉と揺るぎない瞳で確実に恐怖を植え付けていく。


「勿論、それでもまだ終わりじゃない。その後はお前の身体に一発ずつ銃痕を刻み続けていく。俺の弾丸が続く限りだ。お前はそのうちきっとこう言うだろう『頼むから……もう殺してくれ』とな。だが、それでも終わりは来ない。両耳を撃ち抜き、両眼も鼻も唇さえも全てを失うまでお前の身体に苦痛を刻み続ける。そして全てを失ったとき初めて知るだろう、自分の愚かさをな。お前に死が訪れるのは――それからだ」


 フォックスの精神は、バレットの放つ言葉の一言一言に蝕まれ疲弊しきっていた。

 既に余裕なんて物はとうに消え去り、唇を震わせ瞳を凝視させている。

 勿論それは恐れから来るもので間違いないだろう。


「さぁ選択肢は二つだフォックス。そのままサニーを手放し誇りある死を選ぶか、それともサニーをその手に掛け地獄のような苦しみの末訪れる死を選ぶかだ。三秒だけ時間をやる。俺が三つカウントする間にどちらかを選択するんだな」


 バレットは、どちらを取っても死しか選ぶことのできない最悪の選択肢を容赦なく言い渡した。


 そしてバレットは宣言通り躊躇いもなくカウントを取り始める。


「One……」


 死の宣告を受けたフォックスの瞳は限界まで見開かれ、乾ききった鼻と唇に汗が滴り落ちてきている。


「Two……」


 まるで時が緩慢したかのように緩やかに、しかしはっきりと死のカウントはフォックスの耳を貫いていく。脳内には早くなる心臓の鼓動のみが木霊していた。


「Three……」


 そして、最後のカウントがフォックスの心を捉えたその瞬間、震える銃口がサニーを離れバレットの元へと向けられる。


「俺は死なねぇ! 俺の選ぶ選択は一つ! てめぇを殺して俺が生き残るだ!」


 その瞬間二人の銃声が荒野に響き渡った。


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