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第三十話 一日の終り

「まぁいけすかねぇ得物である事は確かだよ」


 ふたりのやり取りを聞いていた風真が、ふと横で呟いた。眉間に皺を寄せながら何かを思い出すようにジョニーの拳銃を見つめている。


「まぁ理由は良くわからないけど、魔導具が使えないのは本当不便よね。このままだと鍵も掛けられないわ」


 リディアが腕を組み頭を悩ませながら言う。

 この宿の鍵は魔導の力を利用しており、手のひらに収まる程度のプレートを差し込むことで鍵が掛かる仕組みだ。


「まぁ特にオイラ達は盗られて困るようなものなんて無いし、鍵なんて掛けなくても大丈夫さぁ」


 すると、リディアの心配を少しでも減らそうとジョニーが言葉を返す。


「おいおい、この刀があるだろうが」


 言って風真が刀を掲げる。刀と言っても街に入るときには既に例の竿入れに入れてしまっているので、傍から見れば釣竿が入ってるようにしか見えないのだが。


「ま、とは言ってもこの刀を盗もうなんてふてぇ野郎がいたらたたっ斬ってやるがな」


 風真は別に聞いてもいないのに自問自答し、得意げな顔を見せる。


「まぁふたりならコソ泥が現れても何とかしちゃうんでしょうけどね」


 そう言って肩を竦めるリディア。

 何せトロルを相手に引けを取らなかったふたりだ。そんなふたりのいる部屋に盗みに入ろうなんて輩がいたなら、逆に気の毒でしかない。


「とりあえず」


 そう言ってリディアが、トイレとお風呂が一緒になった個室のドアを開けた。


「お風呂の方は私が溜めておくから、ふたりで代わりばんこに入ってね」


 ジョニーと風真に向けてリディアが告げると、風真が面倒くさそうに髪を掻き毟り、

「あん? 風呂なんか別にいいよ。かったるい」

と言い返す。


「何言ってんのよ。大体風真、貴方ちょっと臭うわよ」


 鼻を軽く摘みながら若干の鼻声でリディアが言う。


「チッ……」


 怪訝な顔で舌打ちする風真に向かってジョニーが片手を広げ。


「まぁリディアが折角あぁ言ってくれてる事だし、好意は有り難く受け取っておこうじゃないの」


 微笑みながらそう告げた。


「じゃあお風呂いれるわね」


 リディアは個室に入り、蛇口の上の二つある円盤の一つに触れた。すると、すぐに熱いお湯がその口から放出される。


 そしてリディアは、指でお湯の温度を確認しながら何度か左右の円盤に触れた。

 どうやら左右の円盤に触れることで湯加減を調整しているようである。


 こうして何度かリディアが調整を行い、

「うん。これで大丈夫ね」

と一人納得し個室を出る。


「きゃ! ちょ! 風真何してんのよ」


 すると、部屋に戻ると同時にリディアが叫び上げ両手で顔を覆った。


「いや、おいらは止めようと思ったんだけどねぇ」


 そう言って苦笑いを浮かべるジョニー。

 その横では既に風真が着物を脱ぎ捨ててしまっていた。

 かろうじて下はまだ脱いではいなかったものの、二人にとっては初めてとなる白褌の前垂れが、風真の動きに合わせてヒラヒラとはためいている。


「あん? 風呂に入れって言うから準備してるのに何騒いでんだ」


 さも当然のように言い放つ風真に、リディアが顔を真っ赤に染め上げながら、

「ちょ! あんたなんて格好してるのよレディの前で!」

と再び大声で叫んだ。


「そうだぜ旦那。女の子の前でその格好はないぜぇ」


 ジョニーが追従するように言うが風真は顔を顰め口を開く。


「はぁ? 別にあんな乳臭いガキに見られても気にしねぇよ」


「乳――」


 風真の言葉にリディアがピクリと肩を震わせる。覆っていた両手を離し、両眼を瞑ったままクルリとその身を反転させ、

「もう知らない! 勝手にすればいいわ! 私もう帰るから、後はおふたりでお好きにどうぞ!」

と言って、ご丁重にも天井の魔灯を消し部屋の外へ出て、ドアを壊れそうなぐらいの勢いで閉めた。


「あ~あ、旦那のせいでリディアの機嫌をそこねちゃったよ」


 風真の方を見ながらジョニーがやれやれと両手を上げる。


「あぁん? 知らねぇようんなもん」


 そう風真がジョニーへ言葉を返すと、再び入口のドアが開きリディアが顔を覗かせ、

「忘れてたけどもう宿主には伝えてるから、明日は自分たちで家まで来てよね。それじゃあ!」

と言い残し再び、バタン! と勢いよくドアが閉まった。


「なんなんだあいつは」


 風真は片眉だけ吊り上げ呟くと、

「まぁいいか。折角だから風呂に入らせてもらうぜ」

と浴槽の有る個室へと向かう


「どうぞお先に」


 ジョニーがそう伝えると、豪快に下も脱ぎ去った風真は、部屋に備え付けてあったタオルを肩に掛け鼻歌交じりにお風呂へと向かった。

 嫌がっていたわりにはいざ入るとなるとご機嫌である――





「ふぅ、このお風呂っていうのは中々気持ちが良いねぇ」


 ジョニーがタオルで頭を拭きながら風呂場から身体をだす。


 そしてジョニーが視線を移すと、先に出ていた風真はベッドの上で胡座を掻き、長テーブルの下に備え付けてあった扉付きの白い箱状の物体の中に入っていた瓶を手にし、まじまじと眺めていた。


「なんなんだこりゃ?」


「飲み物だと思うぜ旦那」


 そう言いながらジョニーはベッドの上に用意されていた綿製のガウンに袖を通す。


「飲み物? どうやって飲むんだ?」


 風真の手にしてる物はガラス製と思われる透明の瓶で、口は銀色の栓で固く閉じられていた。


「その口の栓を開けて飲むんだと思うぜ」


 そう言ってジョニーがテーブルの引き出しを開けると、丁度良く栓抜きが見つかった。


「旦那。これを使って……」


 そうジョニーが引き出しから栓抜きを取り出すも、既に風真は難無く指で栓を外し、瓶の先端を口に含みグビグビと飲み干していた。


「なんだか随分甘ったるいなぁ」


 風真は空になったガラス瓶を再び眺めながら呟き、そのままテーブルの上に瓶を置く。


「ところで旦那は着替えないのかい?」


 入浴後、元の着物姿に戻っていた風真へジョニーが問いかけた。


「あん? こんなゴワゴワしたもの気持ち悪くて着れるかよ」


 着物の中に左手を突込み、ボリボリと掻きながら風真は更にベッドのマット部を右手で押し、

「大体このベッドとかいうのも柔らかすぎて落ち着かないぜ」

とぼやいた。


「そうかい? おいらは十分寝心地の良いベッドだと思うけどねぇ」


 ジョニーの言葉に、

「そんなもんかねぇ」

と風真が呟きながらふと長テーブルの端に目をやる。


 そこにはジョニーが着替えの時に一旦外しおいた巾着上の袋が置いてあった。袋の中には山道で風真がやり合った魔獣から採取した牙の欠片が入っている。


 その巾着を眺めながら風真が何かを思い出すように、

「おい」

とジョニーに向けて語りかける。


「うん? なんだい旦那?」


 ジョニーが返事をするが、風真は一旦両眼を瞑り髪を数度掻き毟り、

「ああ、やっぱ何でもねぇわ。俺はもう寝るぜ」

と言って布団をかぶりそっぽを向いて横になる。


 ジョニーは瞳を広げ両眉を上げつつも、

「じゃあおいらも寝るとしますかねぇ」

と呟き風真に続いて布団を被る。


「ちっ、妙に師匠の事がちらつくぜ……」


 すると、風真が布団の中でそんな事を呟き、そしてその瞳を閉じた。

  

 そしてその隣ではジョニーが天井を見上げ、

「……ライアーとは我ながら良く言ったもんだねぇ……」

と何かを思い出すように口にする。


 そして、今日一日で起きた数多くの出来事が予想以上に疲労を蓄積させていたのか、二人は目を閉じてすぐに寝息をたて始め。


 すんなりと意識を手放していた――


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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