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第二十九話 魔導具が使えないふたり

「やぁ~本当エイダが無事で良かったよ」


 馬車の小窓からナムルが顔を覗かせ笑顔を浮かべている。

 それは勿論一行の無事を確認できたからだ。 


  ただ、彼は相当心配していたようだが、洞窟内でリディアが言っていたように、外に出てからの帰路はかなり楽に進むことが出来た。

 その理由はエイダにあった。洞窟から出た後、エイダが何かを呟くと、各々の身を優しい風が包み込み、そのまま渦巻状に滞留し――その瞬間彼らの身体はまるで綿毛の様に軽くなったのだ。


 そのおかげで歩いていても全く疲れを感じる事はなく、ゴツゴツした帰りの道のりもまるで柔らかい絨毯の上を歩いてるように快適に進むことが出来た。


 リディアの説明によると、これもエイダが風の精霊の力を借りて行った魔術の一種との事であった。

 こうしてエイダによる精霊の力を使うことで、結果的に帰り道は行きの半分ほどの時間で戻ることが出来たのだ。


「全く四人とも戻りが遅いからこっちは気が気じゃなかったんだよ」


 ナムルは先程から繰り返し同じ事を言っている。

 彼等が山道から戻った時のナムルの喜びようはまさに感極まるといった様子で、よかった、心配してたんだ、と安堵の表情を浮かべながら涙ながらに出迎えてくれたのだ。


 ……とはいえ、先程から何度も同じ事を繰り返し話してくるナムルに、車内の面々(風真は無視しているが)は閉口気味であった。


「全く、心配してくれてたのは嬉しいけど、いい加減同じ話を繰り返すのはおよしよ」


 エイダがうんざりだと言わんばかりにナムルに告げる。

 するとナムルが小窓から顔を覗かせ目を丸くさせた。


「え? そうかい? いやぁ、でも本当心配だったんだよ。いつもならとっくにエイダは戻ってきてるのに今回は……」


 そして、また話が戻ってしまった。


「あの小窓を閉めることは出来んのかねぇ」


 顔を顰め呟くエイダにリディアが苦笑いで返す。


 今四人の配置は、馬側の席に風真とジョニー。

 そして反対側にはリディアとエイダが並んで座っている形だ。

 風真は先程から皆の会話には興味無さげであり、ずっと窓の外を眺め続けている。


 最も、既に日は落ち外の景色など暗くて見えはしないが。


「ところであんた達、今夜はこれからどうするんだい?」


 小窓の向こう側で喋り続けるナムルの無視を決め込んで、エイダがふたりに問いかけた。


「とりあえずおいら達の目的は、エイダに占い、で、いいのかな? まぁそれでおいらと風真の旦那を見てもらう事にあったんだけどねぇ」


 ジョニーがそう返答するとエイダが一旦瞼を閉じ。


「それはリディアから聞いたけどね、今夜はあたしも疲れたから明日にしておくれ」


 エイダの返しにジョニーも両眼を広げながら、

「だよねぇ、となると今夜どうしようかってところだけど、二人で野宿ってとこかねぇ旦那」


 窓の外をぼんやりと眺め続けている風真にジョニーは語りかける。

 すると風真はようやく窓から視線を外しジョニーへ顔を向け。


「あん? だったらシェリーの家にでも泊めてもらえばいいじゃねぇか」

と述べた。遠慮もへったくれも無い発言である。


「シェリー? ウィルさんの所のシェリーかい?」


 すると、風真の言葉に反応してエイダが二人に訊いてきた。


「そう、ちょっと知り合う機会があってね。シェリーの案内で家に招かれ、ウィルとも話をしたんだけど、その時にエイダの事を教えて貰ったってわけさぁ」


 ジョニーが掻い摘んでウィルとの経緯をエイダに説明する。


「そういう事かい。でもだからって、こんな時間にいきなり押しかけて泊めてもらうわけにはいかんじゃろが」


 エイダの言う事は尤もである。


「ナムルちょっといいかい?」


「うん? なんだいエイダ?」


 小窓に顔を寄せ返事を返すナムル。


「街に戻ったら宿を取ってくれるかい? 二人分」


「宿? あぁその二人の分かい。う~んこの時間だけどまぁいいや何とか頼んでみるよ」


 そうナムルが快諾するが、ジョニーがハットに手をやり、

「いや、エイダにそう言って貰えるのはありがたいんだけど、実は恥ずかしい話おいらたちは全く手持ちが無くてねぇ」

と罰が悪そうに話した。


 ジョニーは、一応多少はこの世界(・・・・)に来るまでの分を持ち合わせているが、初めてダグンダの街に訪れた時の風真の様子を思いだし、恐らくは自分の持つお金もここでは通用しないだろうと察したのである。


「ふん、別にかまやしないさ。一応は助けて貰ったわけだしねぇ。今夜の宿代ぐらいはあたしが出しておくよ」


 片目を瞑りそう述べるエイダに、ジョニーは一旦頭のハットを脱ぎ、胸の位置に添え、

「本当かい? ありがとうエイダ。助かるよ」

とお礼を述べ素直にその好意を受け取った。


「宿か? 丁度腹も減ってたしな。飯は出んのか?」


「……正直言うと、本当はお前の分など出したくはないんだけどねぇ」


 遠慮など一切感じられない風真の顔を眺めながらエイダが溜息混じりに呟く。


「ところで二人共名前はなんだったかな? 宿を取るのに教えてもらいたいんだが」


 小窓から再びナムルが問いかける。


「え~と二人は風真とジョニー……ってあれ? そういえば下の名前はなんていうの?」


 リディアの問いに風真は頭を数度掻きながら、

「俺は風真 神雷だよ」

と応える。


「なんだか下の名前も変わってるわね」


 リディアが微笑を浮かべながらそう述べる。


「放っとけ」


 眉を寄せ一言返す風真にリディアは、はいはいと返事をしながら、

「っでジョニーは?」

と問いかける。


 するとジョニーが一瞬瞳を丸くさせ、

「え? おいらかい?」

と言った後、一拍置いてから風真をみやり。


「……あぁ、ライアーか」


「え?」


 呟くジョニーにリディアが短く問い返すと。


「いや――ジョニー・ザ・ライアー……それがおいらの名前さ」


 軽く笑みを浮かべながらジョニーがそう答える。


「へ……へぇ。ジョニーも結構変わった名前なのね」


「ってか今なんで俺の方をみたんだ?」


 怪訝な表情で述べる風真にジョニーは笑って返すことしか出来なかった。


「ジョニー・ザ・ライアーねぇ……」


 言いながらエイダがジョニーの表情をマジマジと見つめる。


「はは……そんなに変わってるかな? おいらの名前?」


 言ってジョニーが数度顎を掻く。


「……まぁ別に良いさ。とりあえずナムル、二人分の部屋、宜しく頼んだよ」


 エイダの言葉にナムルは、了解! と威勢良く返しそして街に向けて馬を急がせた。






◇◆◇


「おいおい。なんでこいつと一緒の部屋なんだよ」


 宿の部屋に入るなり、眉を顰め風真が文句を付けた。

 宿に着くなりまずは飯をと全く遠慮もなく腹いっぱい食し、上機嫌になっていたにも関わらず、掌を返したように不機嫌な態度を取る風真に、リディアはすっかり辟易した表情になる。


 ダグンダの街に戻ってからはエイダは疲れを理由にリディアへ後を頼み、先に家に戻ってしまったのだが、もしかしたらそれはこういった面倒な対応を避ける為だったのだかもしれない。


「全く、宿まで取ってもらっておいて贅沢言わないでよ。これでも二人分の部屋が残ってただけでもラッキーなのよ」


 腰に両手を添えながら、小さい子供を窘めるようにリディアが風真に伝える。


「まぁまぁ、オイラは特に気にしてないぜ。別に寝るのも一緒ってわけじゃないしねぇ」


「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇ!」


 宥めるように口を挟むジョニーへ風真が歯を剥き出した。


「全くもう……」


 二人の様子を見てリディアが頭を抱える。

 そんなリディアの様子に微笑を浮かべながらジョニーは与えられた部屋を見渡した。


 部屋はこじんまりとした正方形の作りで、部屋の角の壁際に一つずつシングルベッドが並んでいる。


 そのベッドとベッドの間には一台の長方形のテーブルが設置され、その上には灯り付きのスタンドが置かれていた。そしてスタンドの少し上に窓が設けられており、今は夜の為か左右からカーテンで閉じられている。


 また、部屋の入口から入ってすぐ左側に一つドアがあり、そこはトイレと浴槽が一緒に収まっている。

 これにはジョニーも驚いたものだ。彼のいた街では浴槽はあまり一般的ではなかったからだ。


「でも本当貴方たちどうなってるのよ? 魔灯も付けれないし、魔導具もほとんど使えないんだから」


 繁々と部屋を見て回っているジョニーをよそに、リディアが両手を振り上げながら言葉を発する。


「う~ん、シェリーの家でも試したんだけどねぇ。どうやらオイラ達には魔導具というのは使えないらしいのさぁ」


 リディアに視線を移し、肩を竦めながらジョニーが言葉を返した。

 リディアの言っている魔灯というのは明かりを灯す魔導具の総称であり、エイダを助けに行く際にリディアの持っていたランタン状の魔導具も魔灯の一種である。


 そしてふたりの泊まる部屋にあるのは、まず天井に埋め込まれるように取り付けられている球状の物体で、明かりはリディアの持っていた物に比べて数段明るく、光源の、入、切、を入口近くの壁にはめ込まれているプレートに触れることで切り替えられるのが特長だ。


 もう一つは今ジョニーの座るベッドの横、テーブルの上に置かれたスタンドで、先端にはチューリップの花をあしらった様な形状の物が暖色の明かりを放っている。これは本体そのものに触れることで明かりの入、切を切り替える事が出来る。


 勿論これらはリディアが行った場合であり、どちらの機能も風真やジョニーが触ったところで何の反応も示さない。


「でも不思議よね、風真はともかくジョニーは魔導具を実際使っていたじゃない」


 リディアが不思議そうにジョニーへ問いかけた。


「へ? おいらがかい?」


 すると、何の事か判らず目を丸くさせるジョニー。


「その腰にある筒みたいのよ。それ護身用の魔導具でしょ?」


 リディアの言葉に、あぁ、とジョニーが呟き、拳銃を取り出して見せながら言葉を続ける。


「こいつはリボルバーと言ってね、魔導具と言うのとはちょっと違うんだよねぇ」


 そういってハットのブリムを銃口で押し上げるジョニー。

 しかしリディアは、その説明に納得がいかないのか首を傾げる。


「だってそれから何かを発射してトロルを攻撃してたわよね? 魔導具でないなら一体どうやったの?」


「あぁそれは火薬を使って――」


「火薬?」


 説明を続けようとするジョニーだが、リディアがピンとこない表情で疑問の声を発するのを聞き微笑を浮かべ、

「まぁとにかくこれはリディアの言う魔導具というのとは全く別物さぁ」

と言って話を収めた――


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