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第二話 開戦

「さて風真くんはどうでますかね……」


 独りごちると、相澤は右腕を上にあげはじめ、上空にその右腕を高らかにあげたと同時に、かまえ! と号令を言い放つ。


 すると相澤の号令と同時に、十五の小隊の警官達が一斉に銃身を構えた。 


「ふん! やっと準備完了ってかぁ? 全く待ちくたびれちまったぜ!」


 風真はそう叫びあげると、手にしていた風神を鞘に戻した後、腰を落とし戦闘の構えを取る。


 風真はその瞳に映りこむ警官隊を、よりいっそうに吊り上がり充血した双眼で睨み付けた。





◇◆◇


「――まずは風神での構えですか、確かあれは居合の型でしたね。お手並み拝見と行きましょうか風真くん……」


 相澤は警官隊を睨みつけながら構えを取る風真を見つめそう呟くと、上空に掲げていた右腕を一気にふりおろした。


「撃てぇぇぃ!」


 相澤の振り落とされた右腕と同時に叫ばれた号令により、十五の小隊の銃身から一斉に火吹きを上げ、幾多もの鋼鉄の弾丸が空気を螺旋状に切り刻みながら、一直線に風真を目掛け突き進む。


 風真は飛んでくる弾丸の軌道を見据え、跳ねるように斜め前に移動し【旋風】と一言呟くと、右足を軸にその場の空気を全て巻き込むぐらいの勢いで腰を回転させ刀身を抜いた。


 鞘から抜き放たれた銀刃は、小気味良い風切り音を奏でながら空気を切り刻み、風真に牙をむく銃弾に向かい軌道を変えながら刈り取っていく。


 そして風神の柄と鞘のぶつかりあう音と共に刀身は鞘に収まり――すると風真に牙を向けていた弾丸は、鳴り響いていた音が収まるのとほぼ同時に真っ二つに裂け、多くの弾丸は風真の体に触れること無く通りすぎていった。


 だが、それでも弾丸の何発かは風真の体を貫いた。やはりその数は多い。

 しかし当の本人にそれを気にする様子は無い。




「命中しましたぁ!」


 銃弾を命中させた警官隊たちから歓喜の声が上がる。


 しかし相澤はそれに満足する様子も無く声を荒げ叫んだ。


「油断するな! 今の銃撃では致命傷を与えてはいない! 奴はすぐにでもくるぞ、さっさと次を構えろ!」


 その声に驚き、部隊はすぐ次の射撃の準備に取り掛かる。


 すると、手動で装弾する警官隊の姿を認め風真は瞬時に金色の刀、雷神に手をかけた。


 そして右足に貯めた力を一気に解放するように踵で地面を蹴り力強く跳ね上げ、更に右足が地面から完全に離れるか離れないかの一瞬に爪先に力を注ぎ込み、地面を一気に蹴り上げ敵の部隊に向け一直線に飛びだした。


 蹴りあげられた足が地面から離れると同時に、抉りとられた岩場の破片が上空に舞い上がり、風真の体は雷のごとき速さで目標に向かい駆け抜ける。


 そして銃撃隊が動きを見せた風真へと照準を合わせたその刹那――各部隊の銃撃隊の視界から風真が消えた。


「そ、そんな、風真が――消えましたぁ!」


「落ち着け! 奴は消えてなどいない! 十五番隊、前を見ろ! 目の前に来ているぞ!」


 相澤の張り上げた声が十五番隊の面々に響き渡ったその直後だった、部隊の一人が視界を戻し銃身を構え直そうとした瞬間、男の目前に黒い影が迫りくる。


「え?」

と十五番隊の男が疑問の声を発した直後、その表情が苦悶に歪んだ。

男が思わず目線を少し下げると心の臓には金色の装飾が施された刀がめりこむように突き刺さっている。


「あ……あぁぁぁあ……」


 男は声にならない声をあげ、その顔からみるみるうちに血の気が失せていく。


 その身は完全に生気を失くし、蒼白に染め上げられた男は力なく風真の右肩にもたれ掛る……それと同時に男の両手に握られていた銃身は力無く地面に零れ落ちた。


 風真は右肩に無垢となった男の屍をのせながら、一言【雷突】と呟くと男の心臓部に突き刺さった刀を手早く抜き取り、冷たい瞳で男の屍を地面に投げ落とした。


 地面に投げ出され仰向けになった屍の心臓部から多量の血飛沫が舞い上がり、上空まで昇りきった血飛沫が風真やその周りの警官隊達に血の雨となって降り注ぐ。


「くっ! くそ!」

「いつの間にここまで!?」

「こ……これ以上は警察の威厳に掛けてやらせん!!」


 いつの間にか十五番隊の位置への進撃を許し一撃の内に仲間を葬り去られた小隊の面々が、動揺や怒りをあらわにした声をほぼ同時に叫んだ。


 小隊の面々はその叫び声を発したのと同時に一斉にサーベルに手を掛ける。


 しかし風真にとってその動きは余りに遅すぎた、十五番隊の者達が腰のサーベルに手をかけた時には風真は【乱雷(ミダレカヅチ)】の掛け声と共に刀を振り始めていた。





「まさかあそこまでとは……一撃必殺の【風神】の居合いと、接近戦に特化した【雷神】の連撃……厄介ですね……」


 相澤は表情を若干曇らせながら呟いた。

その瞳に映る風真は躍り狂うように振るわれる斬撃で、相澤の部下の腕を足を喉を次々と切り裂いていく。


 一振りごとに速度が増していく斬撃は残像さえも醸し出し、その刀の柄の金色の装飾も相俟って、まるで稲妻が乱れ狂い暴れまわっているように見えた。


「くそ! 」


 次々と切り裂かれていく十五番隊の仲間達の姿を目の辺りにした他の小隊の面々が、思わず声を張り上げ、叫び、銃身を構え風真に狙いを定めようとする。


 しかし、風真が斬り殺した屍がその身に覆いかぶさられ壁のようになり邪魔をする。


「くっ! なんてこったこれでは……しかし屍に囲まれている状況では奴も自由には動けんだろう……持久戦に持ち込む! そうすれば」


 警官隊の一人が回りに確認するよう声をあげ、相澤に何か手で合図を送っている。しかし相澤の表情は険しかった。


「あんなにあっさりと端をとられるとはね。持久戦ですか……さてさて風真くん相手にうまくいくでしょうかね……」


 相澤は険しい表情のままそう呟いた。


 風真の姿は屍に囲われ目視できなくなり、その動きも止まったようにその場に一瞬の静寂が訪れた。風真に銃身を向ける面々からは空気がはりつめたような緊迫感が漂う。


 その直後……屍の山がゆっくりと動きはじめた。そしてその山は急に加速をはじめ今度は十四番隊に向かって一直線に向かってくる。


 それは風真が力任せに肉の壁となった屍を多数抱えながら向かってくる姿であった。

 

 その異様な光景に部隊の中には恐怖で情けない声を発するものもいる。


「馬鹿共が……!」


 思わず相澤がそんな言葉をもらす。


 こうして風真は屍の壁を利用しながら敵の部隊を一つずつ潰していく。


 百五十名いた兵たちは時を追う事に百……九十……八十……と着実に減っていった。


 風真は疲れた様子も無く容赦無く刃を振るい続けている。


 刀を振り続け大量の返り血を浴びた風真の姿はまるで悪鬼羅刹の如く。


 その姿に恐怖し情けない声をあげながら臆面もなく背中を向け脱兎のごとく逃げ出した者もいる程だ。





「全くすこしぐらい手加減してくれると助かるのですが……」


 戦場の様子を遠巻きに眺めながら相澤は額の右上部に右手の人差し指を添え、そう呟いた。


「風真君の事を少々舐めすぎてましたかね、しょうがない……『アレ』の準備お願いします」


 相澤は白い布地に覆い被せられてる物体を指さしながら待機させていた面々にむけてそう告げた。


 風真はひたすらに刀をふり続けていた……時には『風神』による居合の一撃で敵の部隊を一刀両断に切り裂き。時には『雷神』を狂ったように振るい数多の敵を幾重にも切り刻む。


 斬る事によって浴びせられる帰り血で風真の身体も衣も鮮血でそめあげられていく。風真の剣技により次々倒れ屍とかしていく敵兵達。その数は減り続け既に半分以下の五十余り程度。


 しかし風真の表情は何故か優れない。どんなに数が揃おうとも所詮は風真に取っては雑魚とも言える兵ばかり。


 そんな奴等相手に刀を奮っても風真の心は震えない、満たされない。数多の実力者達と刀を交えた時に心の底から巻き起こる躍動感、それが風真の糖となり己の剣技への糧となる。ただ刀だけ振るっていても意味は無いのだ……


 しかしそれでも風真は刀を振るい続ける、それは恐らくただ一人残った侍としての意地を通すため……そして……


「随分、詰まらなさそうに剣を奮うんですねぇ風真君」


「――相澤ぁぁ!」


 もう一つの理由は侍でありながら侍を裏切った男に一閃を叩き込むため。


「少々、傷付きますよ風真くん、百五十も入れば十分だと踏んだのですが……この程度では君を喜ばすことも敵わない」


「ふん! だったらテメェが出てくればいいだろう? 部下の陰にばっか隠れてないでな! それとも警察とやらで偉そうにふんぞり返ってる間に戦い方を忘れちまったか?」


 風真は相澤にむけ挑発の言葉をぶつける。


「やれやれ確かに私が直接出向くのも手ですが、もっと貴方が喜ぶプレゼントを用意してるのですよ」


 その言葉とほぼ同時に地面と鉄のこすりあわさる低く鈍い音と共にそれは姿を現した――



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