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第二十二話 洞窟

「いやぁ旦那。見事なもんだったねぇ」


 ジョニーが軽く手を叩きながら風真に近づいていく。


「チッ! 所詮は畜生か。この程度で逃げ出すなんてな。ったくつまらねぇ」


 ジョニーはぼやき続ける風真の肩に手を置きながら、

「まぁまぁ。無事勝つ事が出来てよかったじゃないの」

と柔かに告げた。するとリディアが折れた牙の下へ歩み寄り繁繁と見つめ。


「それにしても凄いわね、こんなに見事に切っちゃうなんて」


 そう顎に手を添えながら感心したように言った。


「でも、あの時確かにこの牙があなたを貫いたように見えたんだけど……」


 リディアが疑問気な表情で風真に視線を向ける。


「まぁ確かに一瞬やられたかと思ったけどねぇ。牙に貫かれるギリギリの線で最小限の動きで躱し、おまけにその長い刀って奴の一撃まで喰らわせたんだから見事としか言いようがないぜ」


 感嘆の声を上げ両手を広げるジョニー。

 ふと風真の眉間に皺がより、険しい視線をジョニーへ送る。


「うん? どうしたんだい旦那? 怖い顔しちゃってぇ」


 ジョニーの問いかけに直ぐには応えず、一拍ほどジョニーを睨めつける風真だが――


 ハットのブリムに指を添えながら、丸くなった瞳で見てくるジョニーへ、

「ふん!」

と鼻息混じりの言葉を吐き出し視線を逸らすと。


「別になんでもねぇよ」


 顔を顰めながらそう返した。

 ジョニーは指で顎を数度掻きながら、どこか不機嫌そうな風真から視線を地面の牙の方へ移す。


「しかしこれは本当に見事な牙だねぇ」


 ジョニーがそう言うとリディアがそれに答えるように口を開く。


「えぇ。サーベルタイガーの牙といったら結構希少だしね。本来はハンターが数人がかり倒すような相手だしね……だから業者によってはかなりの高値で買い取ってくれたりするのよ」


 そこまで言ってリディアが顎に手をやり少し考えるようにしながら、

「でもこれだけ大きいと流石に持っていくのは無理ねぇ……」

と話を紡いだ。


 するとジョニーが徐に牙の一つを手に取り、よっ! と掛け声を発しながら両手で担ぎ上げる。


「え? えぇ!? ジョニー! ま……まさか持っていくつもりじゃないわよね?」


 驚いたように声をあげるリディアにジョニーは笑顔で答えた。


「まさか。このまま持っていくつもりは流石にないさぁ……でも中々お目にかかれないものみたいだしねぇ」


 そう言ってジョニーは風真の方へ身体を向け。


「お~い風真の旦那。ちょっと頼みがあるんだけどさぁ。この先端部分をちょこっとだけその刀って奴で切り取ってくれないかなぁ?」


「は……はぁ1? ふざけんな! なんで俺がそんな事を……」


「うん? あぁそっかぁ、そうだよなぁ……いくらなんでもそんな細かい事は、いくら風真の旦那の腕でも無理か。それじゃあしょうがないねぇ……」


 明らかに不機嫌そうに文句を言う風真へ、挑発するように言葉を返すジョニー。

 すると風真は不機嫌そうに眉を顰め。


「あん? ざけんな! チッ……だったらその牙。しっかり抱えとけよ!」


 言って構えをとり始める風真に、了解、とジョニーが返すが、その瞬間には既に風神の刃が牙の一部を刈り取り、刃の収まる心地いい響きが辺りに木霊した。


「ありがとうな風真の旦那」


 抱えた牙を地面に置き。ジョニーはいまだ機嫌が悪そうな風真に礼を言った。 

 とはいえ安い挑発に乗ってしまう辺り、基本単純な風真である。


 見事刈り取られ、地面に転がった牙の欠片は、ジョニーの片手に収まるぐらいの手頃な大きさだ。


 それを拾い上げるジョニーへリディアが、

「それどうするつもりなの?」

と問い掛けた。


「ま、折角の貴重な牙だしねぇ。お守りがわりに良いかなと思ってね」


「ふ~ん、そうねだったら……」


 話しながらリディアが徐にウェストバックの中をまさぐり。


「これに入れて持っておけば? お守りにするなら丁度良いでしょう?」


 そう言って、中から牙の欠片が丁度収まりそうな紐付きの巾着袋を取り出しジョニーに差し出だす。


「ありがとうなリディア。有り難く頂いて置くよ」


 歯並びの良い白い歯を覗かせながら柔かにお礼を言うジョニー。

 するとリディアが少しハッとしたような表情を見せ、そっぽを向くようにしながら、

「ま、まぁたまたま余ってた物だからね。そんなお礼を言われるような事じゃないわよ」

と澄ました感じで言いのけた。


「おい、さっさと先に進むんじゃなかったのかよ」


 そんなふたりのやり取りに、風真が眉間に皺を寄せ横から口を挟んだ。


「わ、わかってるわよ。てか、なんであんたそんなに不機嫌なのよ?」


 風真の口調と態度に、リディアも少しむっとした様子で言葉を返す。


「うるせぃ! なんか上手く乗せられたみたいで腹が立つんだよ!」


「みたいじゃなく実際乗せられてるんじゃない」


「ぐ……」


 リディアの返しに思わず風真が言葉を詰まらせる。


「まぁまぁ。おかげで珍しい物も手に入ったし、さぁ先を急ごうか。後もう少しみたいだしねぇ」


 ジョニーの言葉を皮切りに、一行は再び洞窟目指し歩み始めた。






◇◆◇


 魔獣との一戦以降、特にこれといった障害もなく登り続けること数十分。

 そうしてようやく辿りついたほぼ頂上付近にその洞窟はあった。


「いやはやこれはまた絶景だねぇ」


 ジョニーが右掌を額付近で翳しながら、遠くを眺めるようにして口にする。

 陽は既に西の空に落ち始め、眺める景色も茜色に染め上がっていた。

 その朱色のコントラストも相まってか、ジョニーが言うように、彼らの眼下には絶景が広がっている。


 そこからはダグンダの街も見下ろせた。少し先には件の森もよく見える。


「しかし、ここから入っていくのか? 随分と狭い入口だなぁ」


 風真の声を聞きジョニーが振り返る。

 エイダが恐らく入っていったのであろう洞窟の入口は確かに狭い。

 背の高いジョニーや風真だと、腰の位置ぐらいまでは姿勢を低くしていないと通れないだろう。


「ふぅ、でもこの感じだと帰りには完全に暗くなってるわね……」


「確かにねぇ。しかし戻るまでナムルは待っててくれるのかねぇ」


 ジョニーの素朴な疑問に答えるよう、リディアが再びウェストバッグから何かを取り出し口を開く。


「一応何かあった時はこれを鳴らすことになっているから。これを鳴らさない限りは待っていてくれると思う」


 そう言ってリディアが二人に見せたのは小さな鈴付きの鐘だった。


 更に続いたリディアの説明によると、その鐘も魔道具であり、遠く離れていても鳴らせば対ととなる鐘の方も音を奏でる仕組みらしい。


「ナムルの方が鳴らしてもこちらに届くから、その場合は直ぐに振って返すようにしてるわ。それで無事なことを確認しあってるわけ」


 リディアがそこまで話したところでその手に持つ鐘が光りだし。心地よい音色を各々の耳に残して消えた。

 するとリディアもお返しに数度鐘を振る。


「本当便利なものだねぇ」


 リディアの持つ鐘に目を向けながら感心したようにジョニーが言った。


「さてと。早くお婆ちゃんを探さないとね」


「おい、中は随分暗いみたいだがこの中を進んでいくのかよ?」


「大丈夫よ。これがあるから」


 言って再びバッグの中から直径十センチ程の珠と銀色の中心が少し出っ張った板状の物体を取り出す。

 そしてリディアが板状の物体の出っ張りに指を掛け上に引き上げるように動かすと、それは簡易なランタンへと早変わりした。 


 そしてリディアは、ランタンの四方を囲むように貼られている薄い粘膜上の部分の一箇所をペリペリと剥がし、中心の台座に球を置き精神を集中させる。


 すると珠が淡く発光した後、白く輝き始める。

 どうやらその光を頼りに洞窟の中を進もうと言う話のようだ。


「よし! これで大丈夫ね」


「成程ね。これで洞窟内を照らして進めるってわけか。しかし本当便利だねぇ」


 リディアは何度も感心するジョニーに、まぁね、と笑顔で一言返し、ランタンを手に洞窟内を照らし覗き見る。


「それじゃあ、ここからは私が先に進むわね」


 顔を二人に戻し、リディアがそう告げるとジョニーが両手を広げながら、

「大丈夫かい?」

と気遣うような言葉を投げかけた。


「大丈夫よ、洞窟内はそんなに危険は無いし、私のほうが慣れてるわ」


 得意気な表情で言葉を返し、リディアは身を少し屈め先頭を切って洞窟内へ侵入して行く。


 その後からジョニーと風真も続いた――



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