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第一八話 エイダの行方

「そういえばリディアお姉ちゃん。エイダお婆ちゃんは何処にいってるの?」


「お婆ちゃん? あれよ毎年恒例の西の洞窟でのキノコ採り」


「あ! そういえばそうだったね」


 リディアの返答に、シェリーは思い出したように右手を口元にやり瞳を見開いた。

 その様子に風真が眉を顰め。


「なんでぃ。わざわざキノコなんて採りにいってるのか」


 風真は顎を掻きながら呆れたようにそう言った。キノコには、あまり興味がなさそうである。


「そう。一年でこの時期の僅かな期間しか採れないキノコでお婆ちゃんは毎年楽しみにしてたんだけど……」


 そう言ってリディアは少し考え、

「にしても、そういえば随分遅いわね。朝一番に出かけたはずなんだけど……」

と言って顎に手をやりながら首を傾げる。


 すると――


「リディアちゃん大変だよ!」


 突如、部屋の入口から男の叫び声が聞こえて来た。

 各々が声のした方向に顔を向け、一斉にみやると、頭に赤いバンダナを巻いた男が、本来ドアがあった所(爆発の余波で粉々になってしまったが)の縁に手をやり、肩で息を切らしている。



「あ、ナムルさん! どうしたんですか? そんなに慌てて?」


 リディアは緋色の瞳を大きく広げ、ナムルと呼んだ男に語りかける。

 するとナムルは少し腰を落とした状態のまま、顔を上げ視線をリディアに合わせる。


 彼はその小さな肩を上下させながら、

「いや、それが……今朝方エイダさんを乗せて馬車を西の山道に向かわせたんだけど、その馬車がエイダさんを乗せずに戻ってきてしまったんだよ」

と早口で一気にリディアに向けて告げる。

 

 それを聞いたリディアは目を丸くさせ、ナムルへと問いかける。


「え? じゃあお婆ちゃんはまだ洞窟から戻って来ていないんですか?」


「あぁ、独角馬は賢いし、本来はこういった場合、相手が戻るまで待っているんだけどね。ただ、余りに帰りが遅い場合は戻ってくるように躾けているんだよ。何かトラブルがあった時のためにね。だから、エイダはまだ洞窟に向かったっきりだと思う……」


 そう彼女に伝えた後、ナムルはその大きな鼻を掻きながら一拍おいて、

「いや、でもエイダさんに限ってこんな事になるなんて、今までこんな事は一度も無かったからね……それで一応リディアちゃんには知らせておかなきゃと思って駆けつけたんだけど」

と弱ったと言わんばかりの表情で話を続けた。


「そう、ですか、ごめんなさい。なんかエイダお婆ちゃんが迷惑かけちゃって……」


 そう謝りながらも、リディアの表情に陰りが見えた。心中穏やかで無いといった感じである。


「いやいや! そんな謝らないでよ。エイダさんにはいつも街の皆もお世話になってるし、とにかく暗くなる前にこれから皆に声を掛けて探しにいってくるからさ」


 両手を広げ説明するナムルを見ながら、リディアは俯き気味に少し考えた後口を開き、

「いえ、街の皆に迷惑かけるわけにもいかないし、お婆ちゃんは私が探してきます」

と表情を引き締め、そう述べた。


「えぇ!? リディアちゃんがかい? いやしかし、いくらなんでも女の子一人じゃ無茶だよ」


 リディアの発言に困惑した表情を浮かべるナムル。しかしリディアの決心は変わらないようで、

「大丈夫ですよ。私にはこの魔術がありますから」

と自信ありげな笑みを浮かべ控えめな胸を叩いた。


 その言葉に、後ろで聞いていたシェリーやジョニー、そしてナムルまでもが目を丸くさせる。


「い、いや、でも、ねぇ……」


 どことなく口籠ったような喋り方のナムルの表情は、戸惑いを隠しきれていない。恐らくはリディアの魔術の事を彼も良く知っているのだろう。


「う~ん、やっぱりリディアちゃん一人で行かせるわけには行かないよ。エイダさんだけでなくリディアちゃんにまで何かあったら大変だからね」


 言いながら困ったように頭を掻くナムル。


「だったらオイラとこの風真の旦那もリディアと一緒についていくぜ。それだったらどうかな?」


 すると後ろでふたりの会話を聞いていたジョニーがそう声を掛けた。


「うん? そういえばあんたらは?」


 見慣れない面々に疑問の表情を浮かべ問い掛けるナムル。

 するとジョニーは、ナムルに自分の事と風真の事を軽く紹介し、簡単に事情を話した後、

「そういうわけだから、オイラ達もエイダ婆さんに何かあったら相談もできないし、ボディガードも兼ねてリディアと一緒に探しに行くさぁ」

と告げる。


「……いや、しかしねぇ」


 初めてあった得体の知れないふたりに対し、不安そうな表情を覗かせるナムル。


「なぁに心配は無用さ。オイラはともかくとして、この風真の旦那の腕は保証するぜ。実際たいしたもんさぁ」


 ジョニーが風真の肩を叩きながらそう述べた。


「ってか、俺はまだ行くとはいってねぇぞ」


 そう不満気な言葉を述べる風真に、軽く手を上げながらジョニーが言う。


「いいじゃねぇか旦那。乗り掛かった船だぜ。それにどちらにせよエイダには会わないといけないだろう?」


「ちっ……たくよう」


 ジョニーの言葉に、頭を掻き毟りながら舌打ち気味に呟く風真。


 しかしジョニーは、その姿から彼が快諾したと判断し、

「ま、そういうわけだから、ここはオイラ達に任せて貰えるかい?」

とナムルに向けて言った。


 しかし、ナムルはやはり納得しかねるのか、顎に指を添え応えあぐねている様子である。


「あ……あのナムルさん、二人とも頼りになるのは間違いないです。僕も森で助けてもらいましたから……だから信用して貰えますか?」


 ナムルに向かって横からシェリーがフォローするように言葉を告げた。


「いや……しかしねぇ……」


「あの、私抜きで勝手に話を進めないで欲しいんだけど」


 すると、横からリディアが腕を組み、不威厳な様子で口を挟む。


「リディアはオイラ達が一緒に行く事に反対なのかい?」


 リディアの様子を窺いながら、ジョニーが問い掛ける。


「別に嫌ってわけじゃないけど……まぁシェリーが嘘を付くとも思わないしね。どうしてもっていうなら一緒に付いてきてもいいわよ」


 何故か上から目線なリディア。


「はは、それじゃあお願いしようかなぁ」


 そして、苦笑混じりに頬を掻きながら答えるジョニー。


「そういうわけだから、私はこの二人とお婆ちゃんを探しにいってくるわ。それなら問題ないでしょう?」


 リディアは腰に手をあて、半ば強引に話を纏めようとする。


「え? 僕は?」

と横からシェリーが目を丸くさせて聞いてくるが、

「シェリーは駄目。それこそ何があるかわからないんだから」

とリディアが返した。


「えぇ、そんなぁ。僕もお婆ちゃんの事心配なのに……」

とシェリーが不満を漏らすが。


「ここはしょうがないなシェリー」


 ハットに手を添えながらジョニーがそう言った。

 何か危険があるかもしれないというなら、まだ幼い彼女を連れていくわけにもいかないだろう。

 すると、そんなやりとりを見ていたナムルが、はぁ~、と溜息を一つ吐き出し。


「全くしょうがないな。リディアも言い出したら聞かないしなぁ。でも山道の入口までは私も一緒に行くよ。今度ばかりは責任もって馬車を待機させておかないといけないしね」


 そう観念したように言った。


 こうして風真、ジョニー、リディアの三人はナムルに馬車を用意してもらい、シェリーに見送られながら、エイダ捜索のため、ダグンダを後にするのだった――

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