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第一七話 さらばダグンダくん

 突如の出来事にジョニーはハットを左手で押さえ込み、顔を庇うように右腕を目の前に持っていった。


 そしてしばらくすると、爆風が収まり辺りが煙に包まれた。


「おぉい。皆大丈夫かい?」


 ジョニーが誰とでも言うでもなく声を大にして呼びかける。

 煙が随分と濃い為、それぞれの姿が視認できないからだ。


「ごほっ……ぼ……僕は大丈夫ですぅ」


 すると煙の中からシェリーが応じ、ジョニーに近づき元気な姿を見せる。


「おっと。シェリー無事でよかったぜい。だけどあのお嬢ちゃんが心配だねぇ」


「あ、リディアお姉ちゃんは多分大丈夫ですよ。いつもの事ですから」


 『いつもの事』その発言を聞いてジョニーは少し引きつった笑いを浮かべて思った。なるほど、それで建て直したのか、と。


「でも風真さん大丈夫でしょうか? リディアお姉ちゃんの近くにいたし……」


「まぁ旦那なら大丈夫じゃないかい? 殺しても死ななそうだしねぇ」


 両手を軽く広げながら、肩を竦めてジョニーが言った。

 言葉通り心配してる様子が全くない。


「勝手な事言ってんじゃねぇよ!」


 そして、ジョニーの声が聞こえたのか、煙の中から風真の大声が響いた。


「ほらな?」


 再び肩を竦め、ジョニーが囁くようにシェリーに告げると、彼女も微苦笑を浮かべてみせる。


「あれ~? おっかしいなぁ?」


 次第に煙の濃度が薄れてくると、納得いかないといった表情で口を開くリディアの姿が顕になる。


「全く派手な実験だねぇ」


 左手を軽く差し上げ、やれやれといった表情のジョニー。


「風真さん無事でよかったです」


 そして、平気そうな風真の姿を認めシェリーが言った。


「あぁ、まぁ確かに俺は無事だがな。こいつはそうはいかなかったみたいだぜ」


 そういって風真は、床に転がっている物体を指差した。それは無残にも所々が千切れ焦げて黒く変色したぬいぐるみの姿。


「あぁ! ダグンダくんが!」


 その変わり果てた様子に、シェリーが目を丸くさせて叫ぶ。

 その耳は力なく萎れていた。


「やれやれ、やっとこの変なのから解放されるぜ」


 頭を掻きながら風真が安堵の声を漏らす。ちなみに腰にはしっかり刀を帯び直している。



「なぁに? このぬいぐるみがそんなに大事だったの?」


 ダグンダくんの無残な姿に肩を落とすシェリーを見て、リディアが不思議そうに言った。


「別に大事じゃねぇよ。ただ、こいつを隠しとくのに持ってろっていうからよ」


 風真が腰の刀を目で示しながら、リディアに向けて馬鹿正直に言いのけた。

 これでは折角隠し持っていた意味が無い。


「か……風真さぁん」


 思わず困り顔で呼びかけるシェリー。折角風真の為にと、わざわざ街なかでだグンダくんを見つけてきた苦労が全く報われない。


「何? 隠してたってこの剣を?」


「刀だよ」


 そこは譲れないといった感じに風真が口を挟む。


「かたな? 何それ? まぁ別になんでも良いけど。なんでそんなぬいぐるみに隠してたりしたの?」


 するとリディアが当然のように疑問をぶつけてきた。


「え~と実は……」


 そしてシェリーは、もうしょうがないと観念を決めた様子で、リディアにこれまでの事情を話すのだった。






◇◆◇


「ふ~ん。なるほどねぇ」


 シェリーの説明を受け、一応は納得した様子のリディア。

 シェリー、ジョニー、風真と順に視線を移して行きリディアは続けて口を開く。


「つまりこの二人はかなり壮大な迷子って事ね?」


 上手く纏めたといえるのか、アバウトというべきなのか、とにかく大雑把なくくりでリディアは三人へ言葉を返した。


「ま、まぁそういうことですね」


 思わずシェリーが微苦笑を浮かべる。

 ただ、意外と冷静に話を聞いてくれたのはありがたい限りでもある。


「おいおいなんだよそりゃ。俺のどこが迷子だっていうんだ」


 風真は心外だと言わんばかりの口ぶりで目を眇めた。

 どうやらその事をあまり認めたくない様子。


「でも帰るところが判らないんでしょう?」


「う……ま……まぁそうだけどよ」


 リディアに問われ、図星を突かれたが如く口篭ってしまう。

 困った表情を覗かせながらもジョニーを少し睨むような感じでみやる風真。お前も何か言えよ、といわんばかりに目で訴えるが。


「いやいや、リディアちゃんの言う通り、おいらたちは迷子みたいなもんさぁ」


 ジョニーは両手を広げ、肩をすくめながらあっさりとそれを認めた。

 そんな彼を不満気に見てくる風真だが、ジョニーは目を合わせず、リディアとシェリーへ顔を巡らせる。


「ねぇ、私の事はリディアでいいわよ」


 するとリディアがジョニーに向けて、顔を背けながら言った。気を使ったというよりは『リディアちゃん』と呼ばれるのが嫌みたいである。


「リディアお姉ちゃん、あの……風真さんの刀の事なんだけど……」


「あぁ、別に誰かに喋ったりしないわよ。事情は判ったし。でもそのままじゃ持ち歩けないわよね?」


「うん、ダグンダくんも、もう使えそうにないし……」


 言いながらシェリーは少し淋しい表情でダグンダくんの成れの果てを見つめる。


「俺は別にこのままでも構わないけどな」


「だからそのままじゃ持ち歩けないんだって旦那」


 風真の言い分に軽く手を差し上げ、突っ込みぎみに答えるジョニー。


「そうねぇ……あぁ、だったらあれが使えるかも」


 顎に指を添え、少し考えた後思いついたようにリディアは部屋の端に歩みを進める。

 彼女の健康的な美脚を止めると、その先には壁の一部に何やら出っ張っている箇所があった。

 その出っ張りには、よく見ると魔術や魔導具で使われるような印が刻まれている。



 そして、リディアが印に軽く触れると、その箇所がぽわっと青白く発光し、同時に天井にも印が浮かび上がり、かと思えばパタパタという音と共に天井から床に向かって階段が降りてくる。


「じゃあちょっと待っててね」


 二階へと続く階段が出来上がると、そう言ってリディアがその階段を使い上っていった。


「ったく、まるで忍者屋敷だな……」


 リディアが上っていった階段を見つめながら、風真がぼそりと呟く。


 そして、暫くするとリディアが手に何か革製の細長い袋のようなものを握りしめ階段を降りてきた。


「はい、とりあえずこれにその刀とかいうのを入れておけば大丈夫だと思うよ」


 風真の傍まで歩み寄り、リディアは手にしてる袋を彼に手渡す。


「なんだこりゃ?」


「元々は釣竿を入れておくケースよ。お父さんの趣味だったの。それだったら怪しまれないでしょう?」


 確かにこれであれば少なくともダグンダくんよりは目立たないだろう。


「チッ、またこんなもんに頼らないといけないのかよ……」


 不満を口にする風真にリディアが顔を顰めながら、

「しょうがないじゃない。一々文句をいわないの。どっちにしたって剥き出しのそのままじゃ持ち歩けないんだから」

と人差し指を目の前で上下に振りながら幼い子を躾けるように言った。


「はぁ、まぁあの変な人形よりはましか……」


 どうやら不満はまだあるようだが、一息吐き出し、風真は自分に言い聞かせるように口にする。


「残念だねぇ、あのダグンダくんも似合ってたのに」


「てめぇ、たたっ斬るぞ!」


 両手を広げ、目を大きくさせながら、やれやれと残念そうに喋るジョニーに対し、すかさず歯を剥き出し怒鳴り散らす風真。


「何キレてんのよ」


「はぁ? なんだそれ。まだ誰も斬ってないだろうが」


 風真の返しに、リディアは腕を組みながら疑問の表情を向ける。

 ふたりの間にある壁は中々に厚いようだ――

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