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第一六話 現れた魔法少女

 シェリーの後に付き従い、風真とジョニーは路地を抜け広い往来を歩いていた。

 往来には先ほどと比べれば大分数は減った物の、それでもまだ結構な数の人が渡り歩いている。


 風真の腕にはやはり例のぬいぐるみが持たれており、すれ違う人々の何人かからはクスクスと言う笑い声も聞こえた。


「くそ! こんな変な人形いつまで持たせる気なんだよ!」


 歩きながらも風真が誰にともなくぼやいた。

 不機嫌ここに極めリである。


「すみません風真さん、街中だけでも我慢してください」


 シェリーが後ろを振り返り苦笑する。


「まぁいいじゃないか旦那ぁ。それにそのぬいぐるみ、思ったよりも似合ってるぜ」


 ジョニーはフォローのつもりで言ったのかもしれないが、その言葉は寧ろ風真の神経を逆なでしたようだ。


 ジョニーへ顔を向け、眉間に深く鋭い皺を刻み、野獣のようにグルルと睨みつける。


「おぉこわ」


 ジョニーはハットのブリムに手を添えながら、苦笑いを浮かべる。

 そうこうしてる内に、三人の目の前に大きな十字路が現れた。


「この道を右ですね」


 シェリーが指をさしながら十字路を曲がる。

 曲がった先から更にシェリーは真っ直ぐに突き進んでいった。


 シェリーの家から出て既に二十分ぐらいは経っただろうか? どうやらこの街はふたりが思っていた以上に規模が大きいようである。


 そしてジョニーと風真がシェリーと共に更に往来を突き進んでいくと、先程までひしめき合っていた店舗の数が段々と減り、先程までの喧騒もぱったりと収まりを見せていった。


 そしていつの間にか三人の視界に広がるは、街に入る前に目にしていた広漠たる草原。


「うぅん。何時の間にか街の外に出ちまったようだねぇ」


「なんだ、道間違えたのかよったく」


 風真が髪を掻きながらぼやくようにいったが、

「いえ、間違ってませんよ、ほら」

とシェリーが草原に続く道の先を指差した。


 シェリーが指し示した方向を二人がみやると、直線に伸びた道の途中で分岐され、横に伸びる小道が見える。

 二つの道が交差する箇所には簡素な看板が立ち、矢印の上に【メルクール家】とだけ表記されていた。


 ふたりの脳裏に、先程ウィルが言っていた街の外れで、という言葉が思い浮かぶ。

 ウィルの言っていたように確かにこれは明らかに街の外れである。


 緩やかな勾配の続く小道をシェリーの後ろに付いて進んでいくと、道の先に一軒の民家が見えてきた。


「あれがエイダさんの暮らす家ですね」


 シェリーが言うまでもなく、二人もそれがエイダという占い師が住む場所だというのは認識できた。何せ辺りには他に家らしい家がない。


 目の前でぽつんと佇むその家屋は、街の建物の多くが木造なのに対し、白い石材を組み合わせたような作りで、円柱状に伸びる三階建ての建物であった。


「中々丈夫そうな作りの建物だねぇ」


 ジョニーが若干見上げるような格好でそう言った。


「え……えぇ、エイダさんが、木造だとどうせすぐ壊れてしまうから、と建て直したおうちなんですけどね……」


 どことなく含みのあるような言葉をシェリーが言うと、

「建て直した?」

と呟くようにジョニーが復唱する。


 すると突如建物の一階部分から眩い光が溢れ出し、派手な発破音と共に入口のドアが勢い良く開かれた。


「な……なんだぁ?」


 突然の出来事に風真もジョニーも目を丸くさせた。すると開かれたドアからもくもくと白い煙が漏れ出してくる。

 その煙は外まで漂い、ついには三人を包み込むほどにまで広がり――


「うぉ! く……くっさ! なんだこの匂い! く……くっせぇぇぇ!」


 風真が鼻をつまみ目を細めながら大声でそう叫んだ。

 辺りはすっかり白い煙に支配され、ジョニーとシェリーも風真と同じように鼻をつまみ煙を少しでもかき消そうと余った片手を左右に振っている。


「くぉ……くぉのぬぉい……うぃおう?」


 ジョニーが鼻を摘みながらそう呟くと、白い煙の中から、きゃっ! という声と共に一つの影が三人の目に飛びこんできた。


「ケホッ! ケホッ! もう何なのよ! これぇ!」


 三人の面前に飛び込んできた影は、その場に膝をつけ、咳き込みながら一人愚痴めいた言葉を吐き出している。


 すると三人の視界を覆っていた煙が少しずつ薄れていき、その影の姿が顕になっていき。


「リディアお姉ちゃん!」


 完全に視界が開け、かと思えば開口一番に声を発したのはシェリーであった。


 こうして霧散した煙の中から現れたのは一人の少女。


 淡い赤髪を左右で纏め、両肩に掛かるぐらいまで垂らしたツインテールに、小さな顔とくりんとした緋色の大きな瞳が印象的である。


「あれ? シェリーじゃない?」


 すると、リディアと呼ばれていた少女がその大きな瞳を丸くさせながら言った。


「お姉ちゃん……もしかしてまた実験?」


 シェリーが少しぎこちない笑顔で問いかける。

 すると、すっとリディアが立ち上がり、身に纏ったピンクのハーフローブを数度叩き、埃を払い落としながら口を開く。


「そうよ。ちょっとお婆ちゃんを驚かせようと思ってね」


「お婆ちゃんを?」


「うん。ねぇシェリー、ここに温泉があったら素敵だと思わない?」


 リディアはシェリーの前で少し前かがみになり、人差し指を立てそう言った。


「う、うん。確かに凄いかなぁとは思うけど」


 少しぎこちない笑顔を浮かべながらシェリーが応えると、リディアが両手を祈るように組み瞳を輝かせながら、

「そうでしょう! 帰ってきたらお婆ちゃんびっくりするだろうなぁ」

と声を弾ませて言った。


「おいシェリー、このくっさい屁みたいなのはこいつがやったのか? つか、この女がエイダなのかよ?」


 横から割り込むように風真が言葉を発した。顎に手を添えたその表情は少し訝しげである。


「はぁ? 臭いって何よ! ってか……そもそもあんた誰よ!」


 突如横から失礼な言葉を投げかけてきた風真に対し、リディアは声を荒げ力強く右人差し指を突きつけた。

 風真に対し明らかな不信感を抱いている様子である。


「風真の旦那。恐らくこの娘はエイダでは無いと思うぜ」


 するとジョニーがハットに手を添えながら口を挟んで来た。風真は顔を眇め、ジョニーに問い返す。


「あん? なんでお前にそんな事がわかんだよ?」


「うぅん、おいらがウィルに聞いた話から推測するに、恐らくエイダはこんなに若くは無いだろうし、そもそも……」


「そもそも?」


 風真がそう復唱すると、

「シェリーがリディアって名前で呼んでいる」

と両手を軽く広げ肩をすくませながらジョニーが言った。


「あん? そうだったか? なんでぃ。だったらこいつは只の臭い女か」


「誰が臭い女よ! ってか、なんでそんな変なぬいぐるみ抱えてるあんたに、そんな事言われなきゃいけないのよ!」


「うるせぃ! だから俺は好き好んでこんな変なもの抱えてるわけじゃねぇんだよ!」


 散々他所でぬいぐるみの事を言われ続けた鬱憤が溜まってるのか、風真も激しく言い返す。


 その様子にシェリーも獣耳を上下左右に揺り動かしオロオロとしていた。


「まぁまぁお二人さん少し落ち着きなって」


 するとジョニーが二人の間に割って入り宥めの言葉をかけた。


「いや。だから貴方も誰なのよ」


 リディアが眉を顰め尋ねる。風真の発言のおかげで随分と機嫌を損ねてしまっているようである。


「おっと。これは失礼。こんな素敵なレディに挨拶も無しで申し訳ない。おいらはジョニーっていうここの旦那のパートナーさぁ」


 ハットを胸の前へ持っていきジョニーは軽く頭を下げ自己紹介する。

 すると隣から、誰がパートナーだこら! と風真が吠えた。


「ね……ねぇお姉ちゃん。それで魔術の実験は成功したの?」


 すると、初対面からいきなり険悪な雰囲気漂う状況をなんとかしようと、シェリーが話を変えるようにリディアに問いかけた。


「え? あぁ! そうよ! こうしちゃいられない!」


 その言葉に、リディアはハッとしたようにそう口にし、踵を返し建物の中に戻っていってしまった。


「一体なんなんだありゃ?」

  

 風真が一人呟くと、シェリーが二人に振り返り、

「と、とりあえず僕達も中に入りましょうか」

と提案し、三人は扉の開かれたままである室内に脚を運ぶ。


 周囲を石壁で囲まれた部屋の奥で、リディアはぶつぶつと呟きながら、床に描かれた円の中にしきりに記号を記していた。


 部屋内にはテーブル等の家具の類はほとんど見当たらず、唯一本棚だけが壁沿いに並べられているだけである。


 確か、外側からは建物の作りは三階建てのはずであったが、見たところ上へと続く階段も見当たらない。


 シェリーはリディアの行動を入口近くでただ漠然と眺めていた。

 ジョニーもシェリーの横に並び、入口近くでその様子を観察し続けている。


「シェリー。結局エイダって言うのは何処にいるんだよ? あのリディアとか言う女と何か関係あるのか?」


「あ、はい。さっき話していたリディアお姉ちゃんのお祖母ちゃんがエイダさんなんですよ。ただ今は出てしまってるみたいですが……」


「ふぅん……」


 そう一言返すと、風真は気怠そうにリディアの前まで近づいていき口を開く。


「なぁ、エイダっていうのは今何処にいんだ? いつ戻ってくるんだよ?」


 そう問い詰めるが、リディアは返事をすることなく、しきりに作業を続けていた。


「おい! 無視かよ!」


 風真が更にリディアに向け声を張り上げるが、やはり反応は帰ってこない。


 すると、後ろからシェリーが両手を口の前に持っていき、声を通るようにして口を開く。


「風真さん、今のお姉ちゃんに話しかけても無駄ですよ。それに……そこからは出来るだけ離れた方がいいです」


「あん? なんだそりゃ?」


 首だけを捻り疑問気な表情で風真は言葉を返した。

 すると……


「出来た! これで今度こそバッチリ!」


 その小さな顔の前で手を組み、リディアが嬉しそうに言葉を発した。


「出来たって。一体さっきから何を描いてたんだ?」


 言って風真はリディアの作成した陣を見やるが当然理解は出来ない。


「さぁ! いくわよぉ」


 力強く言葉を発すると、リディアが両手を出来上がった円陣目掛け翳し精神を集中し始めた。

 すると床の円陣が青白く光りだし――


 程なくして陣の回りを小さな稲妻のような光が迸り、更に円の中から濛濛と煙があがり始める。


 しかしその煙は先程とは違い何処か灰がかった煙である。同時に最初のよりも更に濃い硫黄臭も辺りに立ち込み始め――


「おいおい、こりゃちょっとまずいんじゃないのかい?」


 ジョニーがハットに手をかけながら呟くと傍でシェリーが、

「風真さぁん。早く離れてくださぁい」

と声を上げる。


 しかしその直後、濛々と立ち込める煙の中、細かい火花が上がり――



 鼓膜を震わせる重低音と同時に爆轟し、強烈な衝撃波が内から外へと吐き出された――


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