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第一五話 ウィルの提案

「これで全部ですね」


 身体に刻まれた銃痕全てから弾丸を取り出すと、ウィルは棚から薬入りの瓶を取り出し、消毒用の綿に浸して傷口に塗布する。


 すると風真は薬を使用した治療を見たくないのか、そっぽを向き顔を顰めていた。


「どうしたんだい旦那? そんな怯えた犬みたい顔して」


「誰が犬だこら! そもそも俺は気に入らねぇんだよ。この薬ってやつを身体に塗りたくられるのはどうも性にあわねぇ」


 風真の言い分に目を丸くさせた後、くくっ、と押し殺したような笑いを浮かべるジョニー。

 その姿に風真の眉が不機嫌そうに吊り上がった。


「な……何が可笑しいんだよてめぇ!」


「いやいや悪いねぇ。しかし旦那もおかしな人だよなぁ。銃弾を身体に喰らっていても平気な顔をしているのに薬は苦手だなんて」


 そう言ってジョニーは一生懸命笑いを押し殺そうとするが、ついつい声が漏れてしまう。



 その言葉に近くにいるシェリーも両手を口元にあわせ、必死に笑いを堪えているようであった。


「チッ……」


 風真が怪訝な顔と舌打ちで返すと、ウィルが手を止め、

「はい。これで取り敢えずの治療は終わりましたよ。お疲れさまです」

と言って微笑んだ。


「ふぅ。やっと終わったか」


 風真は立ち上がると再び上半身を着物で覆った。


「ただ、これはあくまで簡単な処置ですので、出来ればちゃんとした医療魔術での治療も受けてくださいね」


 ウィルが薬の瓶を棚に戻しつつ風真に向けてそう告げた。


「いりようまじつ?」


 すると風真が疑問の声をあげる。

 ここにきて、またもや耳馴染みのない言葉で、頭にクェスチョンマークが浮かび上がったような間の抜けた表情を見せる。


 するとウィルが身体ごと風真へ向け、

「えぇ。魔術を使った医療技術ですよ。薬よりもより高度な治療を施せますし、その銃痕というのも、それで完全に塞ぐことも可能です」


「へぇ、魔術っていうのは随分便利なものなんだなぁ」


 ウィルの説明にジョニーが思わず感嘆の声をあげた。


「はん! いりようやらまじつやら全くわけがわからないぜ」


 風真は頭を掻き毟りぼやいた。

 すると風真の手が止まり視線がテーブルの上へと注がれる。


「なぁ」


 風真がふと口にし、テーブルの上に置かれた例の魔導具を手に取り更に話を続ける。


「これって俺にも使えたりするのか?」


「はい、魔導具は誰にでも使えるように出来ていますからね。大体の物は特に魔術の知識がなくても使用可能です」


「へぇ。どうやるんだ?」


 風真は密かに気になっていたのか興味津々といった感じで問いかけた。

 見たこともないような玩具を目の当たりにしたような、そんな様相を見せている。


「その道具は金属を引き寄せる力があるんですよ。ですから……」


 そう言ってウィルは辺りを見回す。先程の弾丸は既に処理済みの為、別の何かを探しているのだろう。


「あぁ。これが良さそうですね」


 ウィルは棚にあった銀色の小皿を手に取りテーブルの上に置く。


「その魔導具をこの皿に近づけて意識を集中させてみて下さい。それで先程と同じようにこの皿がそれに引き寄せられるはずです」


 ウィルの説明を受け、

「集中ねぇ……」

と一言呟くと、手に持った魔道具を皿の前に掲げ意識を一点に注ぐ。


「…………」


「…………」


「…………」


 しかし、全員が押し黙り様子を見るも、風真の握る魔導具にはさっぱり変化がみられない。


「発動しないね……お父さん」


「しま、せんね……」


 苛々が募ったように風真が、くそっ! と一言発すると、更に意識を集中させようと瞳を瞑る。

 込められた力で眉間に皺がよっていた……がしかし――


「――どうなってんだこりゃ! さっぱり何もおこらねぇじゃねぇか!」


 いよいよ堪えきれなくなったのか風真が声を荒げた。


「おかしいですね。そんなに難しいものでは無いはずなのですが……」


 すると風真の様子に見かねたのか、

「旦那ぁ。ちょっとおいらにも貸して見てくれよ。こういうのはおらぁ得意なんだぜぇ」

と言ってジョニーが魔導具を受け取ろうと右手を差し出した。


「ふん! 俺が出来ないのにてめぇにできるかってんだ」


 風真は鼻を鳴らし強気に言い放ち、手に持つそれを彼に手渡す。


 受け取った魔導具を、風真がやったようにジョニーも皿に近づけ意識をそれに集中する……が、しかし――


「やっぱり発動しないね……お父さん」


「そうですねぇ……」


 顎に手をやりながら不思議そうに呟くウィル。


 それからジョニーはポーズを変え、持ち方を変え、位置を変えと風真以上に色々試してみるが結果は変わらず。


「はは、なんとも駄目みたいだねぇこりゃぁ」


 苦笑いを浮かべ、バツが悪そうに言葉を発した。


「ふん! だから言ったんだ!」


 再び鼻息混じりに風真が言い放つが、ジョニーが失敗して内心は少しほっとしているようでもある。

 なんとも大人げない。


「ってか、さっき使用して壊れちまったとかじゃねえのか?」


 風真が続けざまにそんな事を口にした。

 するとウィルは指を顎に添え、俯き気味に何かを考えている様子だったが口を開き。


「シェリーちょっと試してみて貰えますか?」


 そう我が子へと告げた。


「うんやってみるね」


 そう応えて、ジョニーから魔導具を受け取ると、皿の前にそれを掲げ集中し始める。


 すると……魔導具が淡い光を放ち、振動を始めテーブルに置いてあった皿をあっさりと引き寄せた。


「うぅん。なんとも簡単そうに見えるんだけどねぇ」


「は……はい。確かにそんなに難しい事では……」


「なんだよ、それじゃあまるで俺が馬鹿みてぇじゃねぇか」


「え? いやそんなぁ……」


 不思議そうに首を捻るジョニー。

 そしていかにも不機嫌そうに口を開く風真。

 二人に挟まれ困り顔のシェリー。


 そんな三人のやり取りを眺めながら、何かを考え込むウィルだったが、ふと思いついたように口を開き、

「これはエイダさんの手を借りた方がいいかもしれませんねぇ」

と真剣な表情で言った。


「えいだ? 誰だそりゃあ?」


 それを聞き、風真が片眉だけ吊り上げ疑問を口にする。


「この街に住む魔術師ですよ。今は街の外れで占い師のような事をしてますが、魔術の腕はこの国でも一、二を争う程の御方です。王国の相談役としても信頼される程なんですよ」


 すると風真が耳に指をつっこみ穿るようにしながら、

「けっ、なぁにが占い師だ。俺はそういうまじないだなんだぁってのが一番嫌いなんだよ」

と怪訝な顔で言い放った。


「まぁそう言わず一度訪ねて見た方がいい。あの方の占いは巷でもよく当たると評判ですし、エイダなら貴方たちの問題を解決に導いてくれると思いますよ」


 ウィルのその提案を受け、ジョニーが右手を軽く上げながら、

「なぁ旦那。せっかくウィルがこう言ってくれてるんだし行ってみないかい? このままここでじっとしていてもしょうが無いだろ?」

と風真に向けて問いかけた。


 風真は頭を掻きながら口を開き。


「ちっ。しゃあねぇなぁ」


 そう渋々ではあるが承諾した。


「それではシェリー、おふたりをエイダの家まで案内してあげて下さい」


「うん、わかったよお父さん」


 獣耳を可愛げにピコピコ揺らしながら快諾するシェリー。

 そして準備を終えシェリーとふたりは一旦ウィルの家を離れ。

 シェリーの案内の下、ふたりはエイダの住むという家へと向かうのだった。



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