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第一四話 実はシェリーは……

「へぇ、いや流石だねぇ旦那。こりゃ見事に鍛え上げられてるねぇ」


 風真の顕になった上半身を眺めながらジョニーが感嘆の声を上げた。

 見事なまでにくっきりと割れた腹筋に厚い胸板。肩はほどよく盛り上がりしかもそれらの筋肉には全くと言ってよい程無駄がない。

 一体どれだけの鍛錬を積めばこれほどの肉体が出来上がるのか、と思わずジョニーも見入ってしまう。


「おいあんまりジロジロみんなよ気色わりぃ」


 まじまじと身体を見てくるジョニーに対し、思わず風真は眉を顰めた。


「うぅん……しかし風真さん、この傷は一体どこで負ったのですか? こんなに沢山穴をあけてしまって……」


 ウィルはそう言いながら風真の身体を触診している。

 その身には脇腹の左右と肩口、そして背中、それぞれが数箇所ずつ穿かれていた。


「ふむ、旦那、こりゃどうみても銃痕だろ? しかもまだ新しい」


「じゅう……こん?」


 ジョニーの言葉に反応するよう、ウィルは疑問の声を上げた。


「うん? あぁそうかちょっと待ってくれ」


 そう言うとジョニーは腰のガンベルトから一発の銃弾を取りだした。


「これが風真の旦那に撃ち込まれた弾丸さぁ。まぁおいらのはちょっと特殊な形状だが、これと似たようなものがここに抉りこまれてるってわけさぁ」


 ジョニーは風真の身体に刻まれた銃痕を指差しながらそう告げた。


「これと同じものがですか、と言う事はこの弾丸という物が体内に入ってしまっていると?」


「まぁそういう事だねぇ。しかし風真の旦那もよく平気でいられるもんだ。普通こんだけ銃撃をうけたら立ってる事すら困難だぜ? 見たところ急所は外してるようだがそれでもねぇ」


 ジョニーは両手を広げ目を丸くさせている。その姿を尻目に。


「ふん! 身体の出来が違うんだよ。こんなの俺にとっちゃ屁でもないぜ」


 鼻を鳴らしながら風真は自信有り気に言い切った。


「ふむ、とはいえこの弾丸というのをそのままにしておくわけには行かないですよね……」


「確かに出来るだけ早めに取り出した方がいいわなぁ」


 心配気に話すウィルにジョニーがハットに手をやりながら返答した。


 ウィルは弾丸を手に取り見つめながら、

「ジョニーさん。この弾丸の素材は金属になるのでしょうか?」


「うん? あぁ弾丸には何かしら金属の素材は使われてるはずだけどそれがどうかしたのかい?」


 ジョニーの回答を聞くとウィルは少し考えシェリーに呼びかける。


「どうしたのお父さん?」


 ウィルに呼ばれシェリーが近づくと、

「シェリー。ちょっと道具屋に行って借りて来て欲しいものがあるのです。これぐらいの形の……」

とウィルは身振り手振りで説明を始めた。


「うん……うん、わかったよお父さん。ちょっといってくるね」


 そう言うとシェリーは頼まれた物を借りに駆け足で出かけるのであった。


「なぁ俺はいつまでこのままでいればいいんだ?」


 シェリーが家を出るのを認め、上半身を晒したまま風真がウィルに問いかけた。


「あ、とりあえず着て頂いて構いませんよ。シェリーが戻り次第また傷を見せてもらいますが……」


「なんだよ。だったら面倒くせぇからこのままで待っとくか」


 そう言って髪を掻く風真を尻目に苦笑いを浮かべるジョニー。


「しかし、この棚の物は全て薬だったんだなぁ。この植物なんかも薬に?」


 ジョニーは植木の一つを手に取りながらウィルに問いかけた。


「えぇ、その葉っぱは煎じて飲むと熱冷ましの効果があるのですよ」


「ふ~ん。なるほどねぇ……あぁそれでかな? シェリーがあの森に入った理由は。確か何枚か葉っぱを持ち帰っていたしねぇ」


 するとウィルが俯き加減になり、少し寂しそうな表情を浮かべる。


「確かにあの葉は薬となるものですが……あれは私の為でもあるんです……」


 ジョニーは持っていた植木を棚に戻しウィルへと向き直した。風真も視線を彼の顔に向けている。


「実は……心臓に病を抱えてまして、ニトの葉は病の進行を遅らせる効果があるのですよ。以前は専門の業者が森に採りに言ってくれてたのですが……」


 ウィルはそこで一旦話を切り息を付くと、伏し目がちに更に言葉を紡げる。


「その業者の青年が二、三週間程前に森に出て行ったきり戻らなかったのです。それからも街から何人かが探しに行ったのですがその者たちも行方知れずとなってしまいましたね……それから暫くは誰も森に近づかないようにしてるのですよ」


 その時二人の頭に浮かんだのは例のオークの事であった。しかしシェリーとの約束がある為その件を口にする事はせずウィルの話を聞き続ける。


「その事もあって暫くニトの葉も手に入らなかったのです。葉は先週には切れてしまったのですが、この状況で無理も言えないですからね。でもまさか私の為とは言えシェリーがこんな無茶をするなんて……」


 そこまで話を聞いたところで風真が口を挟む。


「まぁ無事だったんだから別にいいじゃねぇか。大体男だったらそれぐらい無茶をするもんだろうが」


 そう言った後、風真は残った紅茶を口に運ぶ。

 するとウィルが目を丸くさせ風真をみやり。


「え? あ……いや、シェリーは女の子なんですが……」


――ブフォ!


 思わず風真の口から赤い液体が吹き出る。


「ゲホッ! お……おんなぁ? あ、あいつ女だったのかよ!」


 風真が咳き込みながら驚きの声を上げた。

 確かにそう言われてみると女の子だとしても不思議ではない容姿ではあるが、自分の事を僕と言っていたり口調などから全く予想していなかったのである。


 しかし、その様子を見ていたジョニーが呆れたように肩を竦め。


「なんだ旦那? わかってなかったのかい?」


「はぁ? お前は気付いてたってのかよ?」


「当然さぁ。おいらは世の女性全てを愛するって心に決めてるからねぇ。老若関わらずおいらに見抜けない娘はいないのさぁ」


 ジョニーは両手を広げた後、空気を抱きしめながら自信満々に言いのけた。


「けっ! 要は只の女ったらしって事じゃねぇか」


 そんなジョニーを尻目に、風真が吐き捨てるように言いのけた。


「しかし、今回はシェリーが無事採りにいけたから良いけど今後どうするかってところだねぇ。その失踪した原因は突き止められないのかい?」


 ジョニーは敢えてその質問をウィルにぶつける。


「原因ですか……街のものはあの森に住むオーク達の仕業だと疑っている人も多いのですが、ただ、王国とオークとの間には友好の誓いが立てられてますからね」


「誓い?」


 ジョニーがその言葉に反応しウィルに問いかける。


「えぇ。現女王のデニム陛下がオークの王と取り交わした誓いで、種族間の争いを起こさない。森の所有権をオーク達に認める。森を荒らさない程度であれば人の立ち入りを認めるという物です」


「なるほどねぇ」


 ジョニーは軽く顎を数回掻きながら相槌をうった。

 あくまで知らない体を装うジョニーだが、風真の表情に明らかな変化。


 するとウィルの洞察力は意外と鋭いらしく、その細かい動きに気付いたように、

「もしかしてオークの事はご存知でしたか?」

と問いかけた。


「あぁ。森でシェリーからちらっと話しを聞いたのさぁ」


 右手を差し出すようにして必要最低限の返答をするジョニー。


「なるほどそうでしたか」


 ウィルはジョニーの説明に特に不審を抱くことはなかったようで、そのまま話を続けた。


「――ですからオーク達の仕業というのも少々考え難いところではあるのです」


 そこまで話を聞き、どこか釈然としない様子の風真だがとくに口を出す気はないらしい。


「どちらにせよこの件に関しては王国側も動き始めています。本日届いた話ですが、近日中にオークの王に申し立てより仔細な森の搜索にも乗り出すそうなので、この件に関してはその結果を待つぐらいしか出来ないのが現状ですね」


「なるほどねぇ、それでその葉の方はその間は大丈夫そうなのかい?」


 ジョニーが心配そうにウィルへ問いかける。


「えぇ、とりあえずはこれだけあれば暫くは持ちますから。あとは少しでも早く事件が解決することを祈るだけですね」


 そこまで話を進めたところで玄関の扉が開いた。


 開いた扉の方に視線を移すとお使いから戻ってきたシェリーが、

「ただいまお父さん。魔導具借りてきたよ」

と言って駆け寄ってくる。


 シェリーが戻ってきたことでジョニーはそれ以上オークの話に触れることは無かった。

 王国というのが動いていること。暫くは葉が切れることも無い事。


 これらの事情から現状これ以上深く踏み込む必要は無いと判断したからだろう。

 風真も特にその件に触れる素振りは見せない。


 森で起きたオークとの事も風真から口にする事はなく、意外と約束事には律儀なのかもしれない。


「はい、お父さんこれ」


 そう言ってシェリーが差し出したのは、片手に収まるぐらいの四角い箱状の物体だった。

 ウィルに手渡された箱の表面には光沢があり、色が銀。サイコロのような六面にはそれぞれの面に多様な記号が刻まれている。


 風真とジョニーは刻まれている記号には見覚えがあった。森でシェリーが描いた印に似ていたからだ。


 ウィルはシェリーからその箱を受けとり、ありがとう、と一言返すと、風真の面前に椅子を寄せ腰をかける。


「風真さん、これから少し魔道具を使用するために集中します。風真さんは出来れば身体をあまり動かさずにじっとしておいて頂けますか?」


 風真は若干眉を顰めてみせるも、

「しょうがねぇなぁ」

と頭を数度掻いたあと膝に手を置き気を沈めた。


  見事なまでに微動だにしない風真に向けて、ウィルは箱状の魔導具を近づけ意識を集中させる。

 すると魔道具が淡い光を放ち、掌の上で細かく振動し始める。



 その様子を風真は凝視するも、身体は一切動かさない。

 すると風真の身に刻まれた銃痕から、プツン――プツン――という糸が切れたような音が発せられ……少しづつ金色の物体が穴の中から迫り上がってくる。


 そして完全に風真の穴から這い出た物体は中空を漂い、吸い込まれるようにして魔道具の表面に貼り付いた。


「こりゃ大したもんだねぇ。身体にめり込んだ銃弾がこんな簡単に取れちまうなんてなぁ」


 するとジョニーは両手を広げ驚きの声をあげた。

 それにウィルは笑顔で返し、次々と風真の身体に刻まれた銃痕に魔道具を近づけ弾丸を取り出していった――


 

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