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第一三話 サムライとガンマン地図を見る

「なんだこりゃあ?」


 テーブルの上に並べられた料理のうち、白い楕円形のそれを手に取り風真は疑問の声をあげた。


「おいおい風真の旦那パンを食べた事ないのかい?」


 手にとったパンをまじまじと見つめる風真に、不思議そうな顔でジョニーが言った。


「こんなもん食べたことねぇなぁ」


 そう言いながらパンを丸ごと口に放り込む。


「なんだか……あんまり味しねぇなぁ……」


 もそもそと口を動かしながらそんな事を言う風真に、

「風真の旦那ぁ。せっかく食事まで用意してもらったのに、あんまり贅沢いうもんじゃねぇや」

と言ってパンを一つちぎりジョニーも口に運ぶ。


「おっとこりゃ随分と美味いパンだねぇ。これを食べて文句いっちゃあ罰があたるぜぇ」


「そう言われてもなぁ……やっぱ俺は米の方が庄に合ってるぜ」


 そんな事を言いながらも風真は次から次へとパンを口に運んでいく。放っておくと、全て食べ尽くしてしまいそうな勢いである。

 言っている事と行動が全く伴っていない。


 そしてテーブルの上には、他にも肉入りのシチューやサラダなどが用意されており、風真はそれらの料理にも次から次へと手をつけていく。

 口に含んだ内からどんどん詰め込んでいくので、ほっぺたもまるでリスの如く膨れており、その姿にシェリーがクスリと微笑んだ。


 この様子を見るに、どうやらよっぽど腹を空かせていたようである。


 結果、終わって見れば見事なまでの食べっぷりで、テーブルの上にはパンの一欠片すら残らないほど、見事なまでに平らげられていた。


 食事を堪能した風真は満足げにお腹を摩っている。


「食事美味しかったさぁ。有難うウィルそれにシェリーも」


 それらの食後の片付けも終わり、後から出された紅茶を一口啜るとジョニーが改めて礼を述べた。

 風真と言うと、その紅茶を眺めながら、

「なんだこの紅いのは?」

とまた疑問の声を上げている。


「それは紅茶さぁ。食後の一杯には最適だぜぇ」


 そういわれ、

「茶? これがかぁ?」

等と首を傾げながらも風真が一口啜る。

 味わった後の風真の顔は、なんとも微妙な面持ちだったが、それでも喉が渇いてるのかグビグビと飲み干した。


「しかし、これだけ見事に食べて頂けると用意した甲斐があるというものですね」


 ウィルはそう言いながら皆にあわせるようにゆっくりとした所作でティーカップを口に運ぶ。

 するとジョニーは目の前の親子の様子を見比べながら、再度紅茶に口をつけた。


 改めて見てみると親子の特徴である翠の髪とその獣のような耳に目が行くが――

 その整った顔立ちと、シェリーに似た大きな瞳に、艶やかな翠髪は一見すると女性と見間違えそうな位である。


 ただ、どこか不自然なぐらいな白い肌と華奢な体付きは男性としては少々儚げでもある……

 ジョニーはその姿を何食わぬ顔で観察していた。


 するとウィルがカップを片手に、ところで……、と短く切り、ティーカップをテーブルの上に静かに置く。


 そして一拍おいて、

「おふたりは何かお困りとの事でしたが、何か私にお役に立てることならご協力致しますよ」

と笑顔でふたりに告げた。


 その事もあって、食後の紅茶を頂きながら風真とジョニーはこれまでの顛末をウィルに説明する。

 但しシェリーの願い通り、オークの件だけは触れずにだが。


「ふむ、という事は、おふたりは何時の間にかあの森にいて、それまでは全く別の場所にいたと?」


 ウィルが顎に手を添え、ふたりに視線を向け問いかけた。


「まぁ、そういうこったな。最初は言葉も通じずで参っちまったぜ」


 風真がそう答えながら頭を掻く。


「とにもかくにも、おいら達が今どの国にいるのかもわからないって話だねぇ」


 ジョニーが両手を広げ、やれやれといった表情で風真の後に言葉を続けた。


 するとウィルが、うぅむ、と短く唸った後、立ち上がり、確かこの辺に……と呟きながら戸棚の引き出しを開け中を漁り始めた。


「あぁ、ありましたありました」


 そう言ってウィルは、折りたたまれた黄土色の紙を二つテーブルに置き広げた。

 ウィルが持ってきたのはどうやら地図のようである。見たところ材質は羊皮のようなものであろう。


「私から向かって左側が大陸全土の世界地図。そして右側がこのマグノリア王国の地図になります」


 ウィルがそれぞれの地図を指で示しながら、そうふたりに説明した。


「とりあえずこの地図から、おふた方が元々居た場所を特定できれば、今後の対策も取りやすいかなと思いまして」


 ウィルが用意した地図を、ジョニーと風真は繁々と眺めだす。

 しかし風真は、頭を掻きながら首を捻っている。見当もつかないといった所かもしれない。


 一方ジョニーはと言うと、顎に指を添えながら真剣な眼差しで両方の地図を見比べている。


 ウィルが広げた二つの地図。


 ジョニーはその内の世界地図と説明された物に先ずは目をやった。


 地図を見る限りでは、特に東西南北と地図の中心部分に描かれた五つの大陸が印象的である。

 但し地図の中心地となるそれは、他の四大陸に比べ一際小さく、大陸というよりは島と言ったほうが適しているかもしれない。


 東西南北それぞれに描かれている大陸の内、北側の大陸は西から東に向けて横方向に大きく伸びる形状である。


 そして見た感じは明らかに全大陸で一番広大だった。


 その大陸の中心には黒字で【グランディア】と明記されている。


 西側の大陸は、南から北へと縦方向に伸びる作りだ。

 大陸の真ん中辺り、くびれたような形状となっており、全体の形としては少し瓢箪に近い。


 大陸の中心には赤字で【ディアブロス】と明記されていた。


 東側の大陸は、大きさは西の大陸とそれほど変わらないようである。


 また大陸以外に、北側と西側にそれぞれ島のようなものが存在している。その島の形状は北側がまるで頭のようで、西側は位置的にも手か脚かといった様相である。

 そして大陸の南側は細い尻尾のような形状にも見える事から、全体的には一つの生き物のようにも感じられる形状だ。


 この大陸の中心には緑字で【エレメンタス】と明記されている。


 南側の大陸は東西南北の大陸の中では一番規模が小さい。


 グランディアと同じく横に伸びる形状であるが、そのグランディアと比べると三分の一程度の大きさだろうか。大陸の周辺には小さな島のようなものも点在しているようである。


 この大陸の中心には白字で【ノースラス】と明記されている。


 そして地図の中央に存在する大陸……


 それは全大陸で明らかに一番規模が小さいものの、その形状は最も特徴的とも言え、正しく円としか言い様が無い形である。


 但しその大陸の真ん中には、巨大な穴がぽっかりと空いていた。


 内側が大きく抉られる形となっている為、見た感じは大きな輪っかのようでもある。


 その大陸の真ん中には青字でマグノリアと描かれていた……


 その世界地図を見終えた後は、ジョニーの視線は隣で広げられたマグノリアの地図に移された。


 地図には、端の辺りにマグノリア王国と表記されている。

 地図上の大陸はやはり中心が大きく抉られていた。


 そしてこの地図には、三人が出会った場でもある例の森や、今訪れているダグンダが表記されている。


 地図上で行くとその位置は中心の穴から西側の位置にあたる。


 更にジョニーが地図を目で追うと、穴の北側には王都マテライトという表記がある。


 南側には港街アクオスという表記もあり、名前の通りと考えるなら、海を渡るための船等はこの街に用意されているのかもしれない。


 マグノリア大陸は、地図で見る限りはその多くは平原で占められているようだが、東西の端には外周に沿うように山々が連ねられている形だ。


「どうですか? 何かわかりそうですか?」


 ジョニーが地図をまじまじと眺め続けていると、ウィルがふたりに向けて声を掛けてきた。


「なんだかなぁ。こんなもの見てもさっぱりわからないぜ。もともとこういったまどろっこしいものは嫌いなんだよ俺はよぉ」


 すると風真が、頭を掻きむしりながら面倒くさそうに返答する。


 一方ジョニーは、マグノリア王国の地図を手に取り、目で地図を興味深げに追っているが、暫く眺めた後に首を傾げながら、

「いやぁ、残念だけどこの地図じゃあなんともいえないねぇ」

と苦笑混じりに答えた。


「大体よぉ、この地図のどこに熊本があるんだよ?」


「クマ、モト?」


 ウィルが途切れ途切れに風真の言葉を復唱した。

 聞き覚えのない地名に、どこか戸惑っているようである。


「うんお父さん。そこが風真さんの居た街なんだって。それとジョニーさんはえーとテキ……」


「テキサスさぁシェリー」


 頭を悩ますシェリーに、ジョニーが回答してあげた。

 あぁそうでしたね、とシェリーが笑みを零し耳を軽く揺らす。


「クマモト、テキサス、どれも聞いたことないですが……おかしいですね、地図上の地名ぐらいはある程度理解してるつもりだったのですが」


「いや、それは無理もないさぁ。少なくともおいらが地図を見た分には、おいらの過ごしてきた街のある地名は載ってないし、そもそも大陸の形も全く違う。これは勘だけどねぇ、恐らく風真の旦那も同じだと思うぜ」


 ジョニーははっきりとした口調でそう言い切った。

 すると風真は、確かに聞いたことのねぇ名前ばかりだなぁ、と怪訝そうに零す。


「う~ん、そんな不思議なことが……」


 ウィルは顎に手をやりながら頭を悩ませている様子だった。


「ったくなんだってんだ、本当わけわかんねぇぜ!」


 風真も頭を左手で掻きむしり、右手を着物の中に突っ込みながら首を捻っている。


 すると手を入れた所から、少しだけ風真の胸板が露になった。


「おや? 風真さん、もしかしてそこ怪我なされてますか?」


 ウィルが風真の顕になった位置に目をやり、少々心配そうに問いかける。


「あん? あぁ、そういやぁ随分撃たれちまったからな。まぁほっときゃ勝手に治るだろうよ」


「いや……いけませんよそんな事では。傷口から化膿などされたらどうなさるのですか? 幸いここでは普段薬を売っているので治療も可能です。ちょっと見せて頂けますか?」


「はぁ? いや、別に構わねぇって」


「そういうわけにもいきません。私も薬師として放ってはおけませんから。とにかく先ずはそこに座って、もっとよく傷口を見せてください」


 まるで子供を叱りつけるように口にするウィルに、眉を寄せ面倒そうな表情を浮かべる風真。


 しかしやたらと真剣な表情を浮かべ、更にきつい口調で促してくるその姿に、いよいよ観念を決めたのか、ったく! とぼやきながら着物を捲り、風真はその上半身を彼に晒すのだった――

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