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第十二話 父親

「おい! いい加減にしろっての! ったくよぉ!」


 風真は背中を押すジョニー向けて頭を巡らせ声を荒げた。


「いやいや、また風真の旦那がはぐれたら困ると思ってねぇ」


「だから子供じゃねぇ! って言ってんだろうが!」


 更に身体全体を回し、怪訝な顔つきで熱り立つ風真。


「どうどう――わかったよ旦那。だから落ち着きなって」


 ジョニーはまるで馬でも相手にしてるかのように両手を突き出しその場を収めようとする。


「こっちですよ。カザマさんジョニーさん」


 シェリーの言葉にこれ幸いとジョニーは、

「ほら旦那、はやく行こうぜ。シェリーの家に行けば何か食事にもありつけるだろう? ほらほら」

と言ってシェリーの下へ急ぐ。


「ったく……調子狂うぜ」


 風真は着物の中に片手を突っこみ、数度掻いた後、ぼそりと呟きながらその後に続いた。


 シェリーについていき入ったのは、通りから横にそれた路地だった。

 間隔としては、風真とジョニーが横並びでいるには少し余裕があるが三人だと厳しいぐらいである。


 通路沿いには平屋と二階建ての建物とが混在して建ち並ぶが、メインの通りとは違い、店舗が占めているわけではなく、もしかしたら多くは民家なのかもしれない。


 しかし全く店が見当たらないというわけでは無く、チラホラとは看板のような物が立てかけられている。


 通路沿いの壁際には、等間隔に風真の腰周りより少し幅広で、高さは臍より少し下程度の大きさの木箱が設置されている。


 すると、その壁沿いに並ぶ木箱の蓋が一つ半開きになっていた。

 半開きの蓋と箱の間には、黄色と黒の縞々模様な小動物がガサゴソと何かを漁っている。



 ふと小動物は彼らの気配を察したのか顔をそちらへと向けた。

 振り向いた小動物の正体は一匹の猫である。


「……猫だねぇ」


 ジョニーがまじまじと見つめながら何気なく呟いた。


「えぇ……猫ですねぇ」


 シェリーも、その言葉を復唱するように続けた。声音からは、それがどうかしたのだろうか? というような疑問めいた響きも感じられる。


「いや……ここにも普通に猫はいるんだなぁと思ってねぇ」


「はぁ? 猫ぐらいどこにでもいるだろう。別に珍しくもない」


 風真が片眉だけ吊り上げながら、さも当然といった風に言いのけた。


 するとジョニーは苦笑いを浮かべ、

「いやまぁそりゃそうなんだけどねぇ」

と口にした。


 そして、

「まぁ馬みたいのもいるんだから、猫がいてもおかしくはないか……」

とも二人には聞こえないぐらいの小声で呟いた。


 そんな三人の会話を他所に猫は、ニャァ、と一鳴きし、再度木箱を漁ると果物の残り滓のようなものを口にくわえ逃げるように去っていく。


 どうやら木箱はゴミ入れであり、その中の残飯を漁っていたようだ。


 そして、猫が跳ねるように路地の奥へと去って行くと、猫が逃げていった方向に建つ建物のドアがふと開かれた。


 ドアからはシェリーと同じ緑髪で、獣耳を有す線の細い男性が姿を見せる。


 するとその男性の視線が移動し同時に、

「シェリー!」

と声を張り上げた。


「お父さん」


 シェリーはそう言うと、お父さんと呼んだ男性の方へ駆け寄る。

 すると父親は、その小さな肩を両手で掴み視線を我が子にあわせるように身を屈めた。


「一体どこに行ってたのですか? 勝手に出歩いたりして。本当に心配したんですよ!」


 父親はシェリーの肩を両手で掴みながら真剣な眼差しで口を開き、シェリーを叱咤した。


 肩を掴まれた状態でシェリーは、

「ご……ごめんなさい……」

とか細い声で謝る。

 その姿を見つめていた父親の視点が、ふと移動し、風真とジョニーの姿を瞳に映す。



 二人の存在に気付いた父親はすぐ視点をシェリーに戻し、

「シェリー。この方たちは?」

と問いかけた。


「え、え~と、こちらがジョニーさんでこっちが風真さんで、二人は森で、僕がや、野獣に襲われてる所を助けてくれたんです! それで……」

と例の件は誤魔化すようにシェリーが説明をするも言葉途中で父親が、

「森? 一人であの森へ行ったのですか!? あそこは最近物騒だから近づかない方が良いと言われてるのに」

と語気を強めて咎めるように述べる。


「ほ……本当にごめんなさい! でも僕、どうしてもこれを採ってきたくて……」


 そういってシェリーは腰の布袋から数枚の葉を取り出す。


 その葉をみた父親は表情を少しくぐもらせ口を開くと、

「これは……ニトの葉……そうでしたか……」

と呟くように言った。


 父親は一瞬視線を落とした後立ち上がる。

 そして風真とジョニーに向けて頭を深々と下げると、

「初めまして、私シェリーの父ウィル・コーリンと申します。うちの子が危ないところを助けて頂いたようで……本当にありがとうございます」

と丁重にお礼を述べた。


「いやぁ、おらぁ達はそんな大した事はしてないぜ。寧ろ森で迷ってる所を助けてもらったぐらいでさぁ」


 ジョニーは、眼の前で両手を一生懸命左右に振りつつ、逆に申し訳ないといった感じに言葉を返した。


「まぁ実際お前は大した事やってないしな」


 すると風真が嫌味まじりにぼそりと呟いた。

 その言葉が耳に届いたのか、ジョニーは更に苦笑いを浮かべる。


「あ……あの、それで実は二人とも今凄く困っていて、それでお父さんに会ってもらえば何かわかるかもと思ってここまで一緒にきてもらって……それで……」


 シェリーは一生懸命説明しようとするが、上手く言葉が出てこないのかどこか要領をえない感じである。


 その姿を見て、父はひとまずはといった感じに、

「色々お世話になったのに立ち話も申し訳ないですね。大したおもてなしも出来ませんが宜しければ家にあがっていって下さい」

と、どことなく柔らかい口調で述べ家に招待するのだった。






◇◆◇


 ウィル・コーリンの申し出を素直に受け、二人はコーリン家を訪れていた。


 ウィルの案内で部屋に入ると、まず目の前に木製の長細いカウンターが目に入る。


 カウンターの先に見える空間は正方形で、それほど広い作りではなく、カウンターから見て正面奥に見える壁が縦長の長方形にくり抜かれ、その先で更に別の部屋が続いていた。



 カウンターは、一番端が上に跳ね上がる仕組みとなっており、そこから足を進め壁を抜ける。

 辿り着いた部屋の真ん中には、簡素なテーブルと丸椅子が数脚並べられていた。



 そして部屋の壁際には、沢山の木製の棚が置かれ、中には透明の瓶や鉢植え、また白い紙製の小袋等も並べられていた。


 ウィルに、どうぞ、と促され椅子に座る二人。


「おいシェリー。これどうすればいいんだよ」


 風真は席に座るとずっと抱えっぱなしのぬいぐるみを指差して言った。その表情は少しうんざりとした様子も感じさせる。


「あ、どこか空きスペースにでも置いて頂いて大丈夫です」


 シェリーに言われ立ち上がると、棚と棚との隙間に風真はぬいぐるみを立てかける。


「ぬいぐるみがお好きなんですね」

 

 ウィルが微笑みを浮かべて言った。


「あぁん? 別に好きじゃねぇよこんなもの」


 風真が即答する。

 その応えに怪訝な顔つきを見せるウィル。


 するとシェリーがごまかすように、

「い、嫌だなぁ風真さん。ぬいぐるみ大好きなのに照れちゃってぇ」

と言った。

 

 それに追従するようにジョニーも、

「そうだぜぃ風真の旦那。別に恥ずかしがることなんてないんだぜ。男がぬいぐるみ好きでも別に構わないじゃないかい?」

と告げた。


「あぁん? だから別に俺は好きで……」

 

 風真はそう言いかけるが、ウィルに見えないようにこそりと両手をあわせごめんなさいのポーズを取るシェリーを目にし、

「チッ、ったくよう」

と舌打ちし面倒くさそうに頭を掻きながら席へと戻った。



 二人を席に案内したウィルは、

「何かお飲み物でもご用意しますね」

と和やかに告げ更に部屋の奥の方へと足を進める。


「あぁ、そんなお構いなく」

とジョニーは頭に手を添えながら言うが、

「飲み物より俺、腹へっちまってるんだよなぁ……」

という風真の発言で台無しである。


 さらに追い打ちをかけ風真のお腹からぐぅぅぅぅぅという鳴き声が響く。


「全く、風真の旦那ときたらよぉ」


 苦笑いを浮かべそう告げるジョニーに、

「しょうがねぇだろうが。こっちはここに来る前から何も食ってねぇんだからよ」

と風真が言葉強めに言った。


 すると二人の方へ振り返ったウィルがくすりと笑い、

「わかりました何かすぐ出来るお食事でもご用意致しますね」

と言って奥の部屋へと消えていった。


 どうやらそこが台所となっているようである。


 ウィルが台所に向かいシェリーも後に続こうとするが、その前にと一旦風真の横に付き口を開く。


「あの……オークの事は内緒にして貰えますか?」


 窺い見るような格好でそっと囁いた。

 その声は、横並びに座る風真とジョニーになんとか聞こえるぐらいである。


「はぁ? なんでわざわざそんな嘘をつく必要があるんだよ」


 風真は怪訝そうに答えた。しかし横からジョニーが口を挟み。


「まぁ、旦那もそれぐらいいいじゃないかい? それに嘘を付く必要はないさぁ。ただその事に触れなければいいだけってね」


 物は言いようである。


 顔を眇め、考えあぐねる風真の横で両手を合わせお願いのポーズを取るシェリーを尻目に、

「チッ! めんどくせぃ!」

と頭を掻き毟る風真。


 風真の口からは良いとも悪いとも告げられなかったが、その様子から了解した物と受け取ったのか、シェリーは深々と頭を下げて、

「ありがとうございます風真さん」

と言い残し台所の奥へと消えていった――



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