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第百八話 第一回戦【風真VSエンジ①】

 フレアの開始の響きが場内に響き渡る否や、相対する二人がそれぞれの獲物めがけて前に飛び出す。

 その動きたるやまさに疾風の如くといえるであろう。


 そして風真は近づいてくるエンジから僅かな距離をおいた場所で立ち止まり、風神に手を掛けた。


 エンジに関しては両手で握りしめた規格外の大剣を鞘に収めたまま、やはり規格外の動きで横に回転しながら振り回す。


 風真のもつ風神もかなりのリーチを誇る得物であるが、流石にエンジの持つソレにはかなわない。

 彼の持つソレは既に剣というよりは、巨大な槍に近いともいえる。


 尤も使用方法としては、現状は叩きつける打撃専用の武器ともいえるようだが。


 なにせ鞘に収めたままの状態で、ブンブンと振り回すのである。何故抜かないかは遠目に見ているバレットにも理解できないが、鞘に収まったままでも普通に考えれば十分に脅威である。


 だが竜巻のように回転を続けるその攻撃を、風真は冷静な顔で躱し続けていた。

 しかも髪をかすめるほどのギリギリの線でだ。


「さすが兄ちゃんだ! これまでここまで見切ったのはそうはいなかったのに!」


「だとしたら相手は全然大したことのない雑魚ばっかりだったって事だな」


 迫り来る災害を物ともせず避け続けながら、風真が悪態をつく。

 だがエンジは怒る様子もなく、むしろ楽しそうに、そうかも! だからこの戦いすげぇ楽しい! と笑顔で返した。


 だが風真とていつまでも避けっぱなしとはいかない。

 その狼のような瞳が煌めいた。横殴りに叩きつけてくる暴風を物ともせず、大きく踏み込み風神の牙を向いた。


 そう、風真はエンジの攻撃を躱しつつも、攻撃に転じれるタイミングを図っていたのだ。

 鋭い腰回転と共に空間に一文字の軌跡が描かれた。エンジの身体が巨大な剣ごと真横に飛ぶ。


「チッ――」


 風真が舌打ちし眉を顰める。そして鞘に風神を収めた。そのまま視線をエンジに走らせる。彼の身は横に飛びながら後方に宙返りし武闘台に足をつけるなり身体を前方に弾かせた。

 

 ダメージを受けている様子はない。当然だろう、エンジは風神の軌道に合わせて横に飛んだのだ。

 刀が多少は触れはしたが、例え刃があったとしても掠り傷にもならない程度である。


 大剣を持ったエンジが、猛牛の如く勢いで突っ込んでくる。しかし風真は得意の足捌きで、石の舞台を抉りつつ直進してきたエンジの横に移動した。

 恐らく見ている多くの観客がいつ移動したかも視認出来なかったであろう。


 そしてその位置は風神のベストポジションといえる間合い。

 再び風真が刀を抜いた。エンジの視界から瞬時に消え失せ、刹那に放たれた認識外の一閃だ。躱せるタイミングでもない。


 これはあたる――バレットがそう考えたその瞬間、鋼と鋼のぶつかりあう音が会場に響き渡った。


「ふぅぅうう! あっぶねぇええ!」


 風真の風神は既に鞘に収まっていた。この武器は鞘に収まっているのが基本である。

 そしてエンジはその大剣を武闘台に突き立て、その影に身体を埋めていた。


 エンジは風真の一閃を躱せないと判断したのだろう。そこで頭を切り替え己の大剣を盾とすることにしたようだ。


 エンジほど小柄な体躯であればその手に持つ大剣は堅牢な城壁にも匹敵する。


 このエンジの防御をもって激しい攻防に一旦の区切りが付いた。

 その光景に会場中は完全に言葉を失い静まり返っている。


「――いや! いやいやこれは凄い! 第一試合から凄まじいまでの攻防が繰り広げられました! 会場の皆様も思わず息を呑む展開に、このフレア・バーニングも心が燃え上がりそうな程の興奮を覚えてます!」


 フレアが雰囲気を一変させる言葉を大きな声で言い放った。

 それに連動するように、ウァアアァアアアアア! と武闘台をも振るわせるような歓声が鳴り響く。


「すげぇ! なんだあれ!」

「てかなんであんな小さな身体で、あんなもん振り回せるんだよ!」

「風真ってのもすげぇぞ! 正直オレにも武器をいつ抜いたかさっぱりだったぜ!」


 堰を切ったように観客席から、驚きや興奮や感動の入り混じった声がそこかしこから溢れ始める。


「いやそれにしても風真さんすごいですよ! それにエンジさんもあんな大きな武器をもって軽々と振り回せるなんてすごすぎです!」

 

 シェリーは両目をキラキラさせながら感嘆の声を漏らす。


「ふふっ、皆様ようやくエンジ様の凄さをご理解して頂けたようですね。まぁあの動きについてこれる風真様も中々かとは思いますが」


 右手で口を押さえながら、うふふっ、と笑みを零し、チヨンが述べる。

 その表情はどこか誇らしげですらあった。

 

「それにしても本当に凄かったですね! 正直このフレアにもふたりの動きが捉えきれなかった程です!」


 武闘台の中央で魔道具に声を載せるフレア。

 その様子にバレットは笑みを歪めた。


 流石にソレは嘘だろうと判ったからだ。

 その証拠に今のふたりの攻防を彼はしっかりその眼で追っていたのである。


「エンジ選手に関してはその重さ一〇〇キロを優に超えるであろう巨大な剣を、まるで棒きれでも振り回すように軽々と扱い、風真選手はその独特な形状の刀という武器を、鞘に収めた状態から目にも留まらぬ速さで抜く! いや、どちらの戦い方もこれまで見たことも無いほどの素晴らしいものでございます!」


 フレアが興奮した口調で発すると、再び会場が沸いた。彼は人を楽しませることをよく判ってるな、とバレットも感心する。


「おい、いいからいい加減どけろよ。戦いの邪魔だ!」


 すると、風真がフレアに向かって吐き捨てるように言った。確かに今のフレアの位置は彼らが戦うのに少々邪魔とも言える。


「そうだぜ、俺は早く兄ちゃんとやりたくてウズウズしてんだからさ!」


 二人に責められ苦笑いのフレア。しかし、失礼失礼、と、相変わらずの軽い調子で下がる。


「ふん、全く余計な邪魔が入っちまったが、な!」


 刹那――エンジが低い軌道で跳躍しブンブンっとまる糸巻き機のような回転を見せながら風真に迫る。

 そして回転によって勢いの増した一撃を風真の脳天目掛け振り下ろした。


 だがそれを半身で逸し鋭い視線だけ残しつつ避ける。顔を巡らすエンジと風真の炯眼が交差した。

 ガリガリガリッ! と地面を激しく抉る音。エンジの攻撃は終わっていない。石の地面を削りながらその巨大な鞘収まりの剣が風真の脇を狙った。


 その竜巻のような一撃を――風真は蹴りつけその勢いを活かして後方に跳躍。


「あんちゃん! やっぱスゲーや!」


 喜色満面で今度は先程よりも高い跳躍を見せるエンジ。そして――風真の五歩分ほど先に落下。それをみやった風真が顔を顰める。

 いくら巨大な剣でもそこからは攻撃が届かないからだ。


 しかし落下と同時に振り下ろした剣の衝撃で武闘台が爆散し石礫と白煙が舞い上がる。

 その影響でエンジの姿が一瞬視界から消えた。かと思えば、カカカカカカッンカン! と小気味よい音が鳴り響き、同時に風真に向け高速の石礫が迫る。


「チッ――」


 舌打ちしつつ、風真は雷神を抜き目にも留まらぬ速さで石礫を全て切り飛ばす。


「もらったーーーー!」


 しかしそれとほぼ同時に上空から迫っていたエンジの一撃が振り下ろされた。彼は石礫をその剣で弾くと同時に飛び上がり、正面と上からの同時攻撃を狙っていたのである。


 だが――。

 

「【飛雷】!」


 叫ぶと同時に地面を蹴り上げ風真が飛び上がり雷神で切り上げる。宛ら大地から天にむけて雷が伸び上がるような、そんな様相。


 その一撃が見事カウンターとしてヒットし、エンジの小さな身体が宙を泳いだ。

 

 流石なのはそれでも剣を握る手を決して放さなかったことだろう。

 歯を食いしばりながらなんとかダウンすることなく、地面に着地を決めた。


「……ふぅ、驚いたな~本当、俺こんな強い相手とやるの初めてかも知れないや」


 エンジが風真を見据えながらそう評す。だが、風真は、ふんっ! と鼻を鳴らし。


「正直俺からすればがっかりでしかないけどな。お前じゃ俺の相手にもなりゃしねぇよ」


 そうあっさりと言い放つのだった――。

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