第百七話 組み合わせ決定
選手紹介が終わると、そこに一つの箱を持ったシンバルが、武舞台の上にやってくる。
どうやら彼もこの大会の手伝いをさせられているようだ。
「さぁ、それではこれより選手の皆様にはこの箱の中から其々一枚づつ紙を引いてもらい。それを元に一回戦の組み合わせを決めたいと思いま~っす!」
フレアの声に再び会場が湧く。もはや何を喋ったとしても喝采が飛び交いそうな雰囲気だ。
「それでは一枚お願い致します」
するとフレアに比べると控えめな声で、シンバルが最初の選手の前に箱を持っていく。
少し離れた位置には脚付きのボードが置かれており、そこには女性の団員の姿も確認できた。
そのボードにはトーナメント表が貼り付けられており、一番下にA~Hまでの文字が並んでいる。
「アグ・ディス選手Cです!」
「はい! アグ・ディス選手はCと。本日二試合目の――」
どうやら箱の中身はトーナメント表の文字と対応しているようである。
こうして、次々と組み合わせが決まっていき――。
「ほら、これでいいのか?」
「はい! 風真 神雷選手はAですね!」
フレアが声を上げ、女性団員がトーナメント表に風真の名前を書き込んだ。
「風真さん、いきなり初戦からなんですね」
「そうだねぇ。とりあえず相手がリディアじゃなきゃいいんだけどねぇ」
まだリディアが紙を引いていないため、その可能性が無いとは言い切れないわけだが。
「私は、Fです」
「リディア・メルクール選手はF! 本日第三試合で~~~~っす!」
バレットは心のなかで胸を撫で下ろした。これであれば、お互い決勝に進出しない限り、当たることはない。
「……Eよ」
「お~~~~っと! これは! なんとスワン・ホワイト選手の引いたのはE! これは初日第三試合にしていきなり、美女! VS 美少女! の対決となります! これはなんとも勿体無いような、楽しみのような!」
「一体何を言ってるんだいあの男は」
エイダが呆れたように呟く。
シェリーも思わず苦笑いであった。とは言え、二人の出会いは最悪であった。それだけに、試合が決まった事でリディアも意識したのか、薄笑いを浮かべる対戦相手に尖った視線を送っている。
「よっしゃぁあ! キタキタ~~! B!」
ふと、エンジの歓喜の声が、空を突き抜けた。
その喜びようにフレアも目を丸くさせるが、気を取り直し。
「はい! エンジ・ホムラル選手はB! 随分喜んでいるようですが、彼は本日第一試合にて風真 神雷選手と対決することになりま~~~~す!」
その声に再び会場が湧いた。
「まさかエンジ様と風真様が初戦からあたる事になるとは思いませんでしたわ。でも風真様には少し気の毒ですわね」
チヨンはにこやかな顔でそんな事を言う。エンジの勝利を信じて疑っていないようだ。
「か、風真さんは強いからそんな簡単に負けたりしないよ!」
するとシェリーがムキになってチヨンに言い返す。が、チヨンも、いいえエンジ様の方が強いです、と一切譲らない。
「全くしょうがない子たちだねぇ」
ため息混じりに呆れてみせるエイダに、バレットも苦笑を浮かべた。
そして、全選手が紙を引き終わり、全ての組み合わせが決定する。それによると――
第一試合
風真 神雷 対 エンジ・ホムラル
第二試合
アグ・ディス 対 ラース・ブライト
第三試合
スワン・ホワイト 対 リディア・メルクール
第四試合
ダイモス・スキヘッド 対 ラル・スケル
以上の組み合わせとなった。
(あの男と風真の旦那が勝ち進めば明日の準決勝であたる事になるんだねぇ)
バレットがそんな事を考えていると、選手たちは一旦武闘台を離れ控室へと戻っていく。
そして準備が整い次第……いよいよ第一試合、風真 対 エンジの対決が始まるのである。
◇◆◇
観客席の興奮も冷め止まぬ最中。一旦武闘台を離れていたフレアが再び姿を現し、例の魔道具で声を張り上げる。
「さぁお待たせいたしました~~! これよりマグノリア武闘大会第一回戦第一試合を行います! それでは選手――入場!」
フレアの声に合わせ、其々の入り口から二人の選手が姿を見せた。
二人共当然バレットのよく知る人物であり、左側からは風真 神雷、右側からはエンジ・ホムラルが中央に設立された武闘台に向かって歩き、そして、石造りの四角形のソレに軽快に飛び乗った。
武闘台は高さが一メートルほど、縦横は其々二十メートル程度の大きさを有している。
かなり大きくも思えるが、遠距離攻撃が主になりがちな魔術師なども参戦してる事を考えれば、妥当な大きさともいえるかもしれない。
「それでは皆様ここで簡単に確認の意味も込めてルールの説明を致します」
「あん? いいだろんなの。ここに来る前に聞いてるしよ」
言下に風真が文句を述べる。顔を眇めてさっさと試合をさせろといった思いなのだろう。
「まぁまぁ第一回戦だしここはね。少しだけ我慢してよぉ。風真ちゃ~ん」
そういってフレアがポンポンと風真の肩を叩く。そのやりとりに会場からクスクスといった小さな笑いが起きた。
「俺も早くあんちゃんとやりたいぜ! やりまくりたいんだぜ!」
「はいエンジちゃん、その表現聞き用によっては卑猥に聞こえるからイエローカードね」
更に会場がどっと湧いた。もちろんイエローカードは冗談であろうが。
「さて! それでは説明です。まず試合はこの武闘台の中のみで行われ、場外に落ちた場合は落ちた選手の負けとなりま~す。また武器に関してはそれぞれ得意の武器を複製したものを使用しております。これらは刃をなくしたもので殺傷能力を著しく落としてあるのが特徴ですね。もちろん試合中に相手を死に至らしめるのはご法度で~す」
フレアの話を風真は耳を穿りながら興味なさげに聞いていた。いや、そもそも聞いてもいないのかもしれないが。
「とはいえ武闘台の周りには王宮魔術師による結界も貼られてあり、あまりにダメージが大きいと判断した場合は自動で対象者をガードするようになってま~す。ですからそんな危険はないと思っていいですけどね」
人差し指を立て、ウィンクを決めながら快活に説明を続ける。
「勿論その場合は魔術によるガードが発動した時点で対象者は負けとなります。またギブアップの宣言も負けとみなし、ダウン後十秒以内に立ち上がれない場合も負けとなります」
そこまでいってくるりと華麗にターンを決め、以上だけど何か質問あるかな? と試合をする二人に確認する。
「ねぇよ。いいからさっさと始めろや」
「ひひっ。う~んいよいよだ~~! 楽しみだなぁ」
ふたりの返答にフレアは大きく頷き。
「わかりました! それではふたりとも武闘台の決められた位置に――はい! ついてますね!」
二人は武闘台の中心線にそった相対する位置に立ち、向き合った。お互いの間は十メートル程度離れている。
そして武闘台の中央に近い位置にフレアが立ち、それでは第一試合! 開始してくださ~~い! と会場全体に響き渡るほどに声を張りあげた――。




