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第百五話 いよいよ開祭

 前夜祭も終わり翌日には朝から生誕祭開祭の挨拶が執り行われた。


 北地区の特設会場にて、開祭式は盛大に行われ、東西南北各地から集った人々で、王都の街は一部通行規制が掛けられる程の盛況ぶりであった。


 各道にもこの日だけ開放されたスペースで、屋台が立ち並び、商売人の客寄せの声が響き渡る。


 この生誕祭には各国の賓客も多く訪れているようであった。その為、見た目にも豪奢な格好をした者たちも多く見受けられる。


 開祭式には女王陛下からの挨拶も行われた。ただあまりにも人の数が多いせいか、バレット達は離れた場所から見ることしか出来ず、その姿を詳しく知ることは叶わなかった。


 ただ、風真に関してはそもそも興味なしといったところであり、終始欠伸をしっぱなしである。

 

 彼にとっては、大会と食べ物以外に特に興味を持てるものがないのであろう。


「全く。くだらねぇ話はいいからさっさと試合やらせて欲しいぜ」


 開催式も終わり、風真は耳を穿りながら愚痴をこぼす。


「全くもう! テミス女王陛下の折角の挨拶の時に、あんな大欠伸してたのあんただけよ! こっちが恥ずかしかったわよ!」


 腕を組みそっぽを向くようにしながら怒鳴るリディア。かなりご立腹のようである。


「チッ。うっせぇなぁ。あんなもん聞きたい奴だけきいときゃいいだろうが」


 目を眇め言い返す風真に、指を上下に振り更に咎めるように言葉を続けるリディア。

 その様子をバレットが苦笑しながら見続ける。


「あ~いたいた。風真ちゃ~ん。リディアちゃ~ん。そろそろ受付始まるから一緒に付いてきてよ~」


 そう呼びかけてきたのはフレアであった。多くの人でごった返す中、その波を掻き分けながら全員でフレアの後を付いて行く。


 受付にはバレットも同伴して構わないそうなので、一緒についていく形となったのだ。


 ついこの間まで広場だった会場へ四人は訪れる。しかしそこもかなりの人だかりではあった。

 そんな中、出来上がったコロシアムの入り口を抜けると、選手受付と書かれた看板の立つカウンターがみえてくる。


「コピーちゃん、ども~」


 軽い感じにフレアが挨拶し、カウンターの中に立つ女の子に近づいていく。


「あ、フレア様! こんなところまでお越しいただいて――」


 コピーと言われた女性は、恭しく頭を下げるが、フレアは、あぁ、そんな事しなくてもいいから~、と右手を左右に振る。


 女性は髪の毛は耳が隠れるぐらいの短さで、その色は黒。丸みを帯びた顔で可愛らしい雰囲気を持った女性であった。


「それでね、この風真ちゃんとリディアちゃんの受付をしてもらいたいんだ~」


 そう言って、フレアが二人に右手を向け、紹介する。


「あ、はい! リディア様と風真様ですね。お話はお聞きしております」

 

 そこまで言って、それでは、とコピーは二人にサインを求めるが、リディアはあっさりそれを行うも、風真は戸惑っている様子だった。


「旦那、どうかしたのかい?」


「どうかも何も、こんなんでどうしろって言うんだよ」


 風真は渡されたペンを持ったまま固まっていた。

 どうやら字を書くという事に慣れていないようである。


「あは。じゃあ風真ちゃんのは僕が代筆しておくよ~。問題ないよね? 間違いないからね」


 言ってスラスラと書き上げる。


「はぁ。まぁフレア様がそう申されるのなら」


 そう言った後、コピーは何かの資料に目を通す。


「リディア様は魔術での戦いですね。ではこれで受付は終了です。風真様は武器をご使用ですね。では一旦こちらで預からせて頂きます」


 バレットは一瞬ギョッとした顔になった。

 風真の事だ、また刀はそう簡単に預けられねぇ! とでも言うのではと心配になったようだが。


「おら。大切に扱えよ」


 しかし、意外にも風真はすんなりと刀を手渡した。


「あら? 随分素直ね。てっきりこれは命だ! 渡せるか! とでも騒ぎ出すかと思ったのに」


 どうやらリディアもバレットと同じ考えを持っていたようだ。これまでの彼の言動を考えればそれも当然と言えるだろう。


「あん? 試合なんだから仕方ねぇだろ。前も試合の時は得物を預けて、代わりに木刀でやることがあったからな」


 どうやら風真も試合となると、素直に物事を受け入れられるようである。


「それでは会場入りは午後からとなりますので……」


 それから簡単な説明を受け、一行は会場を後にした。試合まではまだ時間があるので、軽くでも食事を摂っておくかい? というフレアの言葉に勿論風真は賛同し、一緒に食事を摂ることとなった。


「あんちゃん!」


 人混みでごった返す中、エンジとチヨンが近づいてきた。こんな人混みの中でも風真の姿を見つけられるとは流石だねぇ、とバレットはハットのブリムを押し上げる。


「飯なら俺達も一緒にいっていいかな?」


「あん? 別にいいんじゃねぇか、それぐらい?」


 エンジが問いかけると風真がそう答え、フレアもニコニコしながら。


「勿論構わないよ~食事は大勢で摂った方が楽しいしね。それにチヨンちゃんみたいな美少女が一緒ならこんな楽しい事はないよねぇ」


 チヨンにウィンクしながら、楽しげに語るフレア。


「フレア様ありがとうございます。ですが、私の身も心もエンジ様の物ですので、その辺りはお忘れなく」


 チヨンがにっこりと微笑みつつも釘を刺した。フレアがあちゃ~、と天を仰ぎ、エンジは、な、何言ってるんだよチヨン! と顔を真っ赤にさせ照れだす。


 そして一行は雑談を楽しみつつも、店で食事を摂った。

 こういった時、普通は試合前という事で量を抑えるものだが、風真もエンジもまるで競いあうようにお代わりを続け、信じられない食欲をみせた。その様子を呆れたように眺めるリディアである。


「全くこれから試合だというのに、よくそんなに食べられるわね」


「あん? これから試合だから食うんだろうが」


「全くだよ。姉ちゃんはそんなものでいいのか? 途中バテても知らないぜ?」


 どうやら二人とリディアの感覚にはかなりのズレがあるようだ。

 そして食事も終えすっかりお腹も満たされた様子の二人だったが、暫くの談笑を終え、いよいよ試合会場入りする時間となり店を出ると、急に真剣な顔つきになり。


「あんちゃん。試合の時はお互い本気でやろうぜ!」


「あん? 誰に物いってんだ。んなの当たり前だろ」


 店の外で真剣に見つめ合う二人。


 そして――エンジは踵を返して歩き出す。


「あ、エンジ様! お待ちください!」


 そう呼び掛け、走り寄るチヨン。そしてエンジの後を追いながら、軽く振り返り一揖した。


「何アレ? どうしたの突然」


 その様子に、リディアが不思議そうに眼を丸くさせる。


「ふん、試合が始まれば敵同士だ。こっからは和気藹々としてらんねぇって事だろ。中々判ってんじゃねぇか」


 風真が腕を組んで感心したように言った。試合となれば相手が子供だからとこの男が手加減などといった真似をすることはないであろう。


「でもどうせ会場で会うじゃない」

「……」


 リディアの発言に風真は黙ったまま顔を顰める。


「いやリディア、旦那はそういう事を言ってるわけじゃないと思うのさぁ~」


 バレットが苦笑いするも、リディアはやはり納得してイない様子だった――。


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