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第百三話 とんでもない武器

「シンバルもなんか随分久しぶりに感じるわね~」


 王都に来てから二日目の夜。生誕祭の前夜祭が始まってるとあって、三人は街に繰り出していた。


 事前にフレアから面白いものが見れるからと聞いており、三人は言われていた時間に広場の前に訪れていたのだが、そこで丁度人々を誘導する係としてシンバルが作業していたのである。


「いやぁ、なんかこっちに来てから忙しくて~……」


 シンバルは肩を落としてぼやいた。相当に疲れているようである。


「……なんかちょっとやつれた感じね」


 同情の目でリディアがみやった。


「てか、こんなところで何がみれるってんだ?」


「随分と人も集まってるようだしねぇ。の割に中央には近づけないようだし」


 三人が思い思いの言葉を連ねていると、近くで子供のはしゃぐ声が聞こえてくる。


「わ~い! 巨人だぁ巨人だぁ」


 声のする方へ皆が顔を向けると、そこには、一行が王都に着いたばかりのころ目にした人物が子供達に囲まれていた。


「あれって確かえ~と、ゼム・ロックスさんだったかな?」


 リディアが形の良い顎に人差し指をあて、思い出すように上目で述べる。


「随分と子供に好かれてるみたいだねぇ」


 ゼムの周りには男女関係なく多数の幼子が集まっていた。皆どこか楽しそうである。


「えぇ。ゼム様は面倒見がいいですからねぇ」


 シンバルがそう言った側から、ゼムが子供の一人を肩車した。表情の変化は薄く、何故か喋ることもないが、見た目の厳つさとは裏腹に心優しい人物のようである。


「で、でもずっと疑問だったんだけど、なんであの人いつも上半身裸なの?」


 苦笑気味にリディアが疑問を口にすると、シンバルが応える。


「え~とそれは……」


「変態なんじゃねぇのか?」


 風真が身も蓋もない言い方をした。


「旦那、それはちょいと酷いさぁ。きっと制服のサイズがないとかじゃないのかい?」


「いやそれでも上半身裸はちょっと……まぁ変態って意味では風真のほうがよっぽど変態ぽいけど」


 リディアが薄目で風真をみやり述べると、むっとしたように彼が睨み返す。


「ま、まぁサイズは確かにあの体型ですから中々合わせるの大変なんですが、それでも何着かは作ってもらってるんですよ~」


「だったらなんで裸なの?」


「いや、それが本人が着たがらないんですよね」

 

 シンバルが頬を掻きながら苦笑いを見せる。


「ほら見ろ。やっぱ変態じゃねぇか」


「だからあんたに言われたくないでしょうって」


 リディアが呆れたように言うと、横から皆に声が掛かる。


「いやぁ。やっぱみんな来たんだねぇ~」


 と、呼びかけてきたのはフレアであった。


「て、フレア様! いや、あの、他で確か何か役割があったような……」


「うん。大丈夫大丈夫、任せてきたから」


 フレアのこの適当さにシンバルも苦笑いである。


「てか、この人本当に団長なの?」


「あ~、酷いなぁリディアちゃん。僕だってこうみても色々頑張ってるんだよ。影の功労者だよん」


 その軽い物言いに、誰もが信じられないといった目でみやる。


「あんちゃん!」


 すると、風真の腰あたりからもつい最近聞いたばかりの快活な声が響いた。


「何だ昨日のガキが。おまえも来てたのかよ……て、何だそりゃ!?」


 風真の素っ頓狂な問いかけに、バレットもみやる。

 ツンツンした赤髪が特徴のエンジという少年だが、今日は更に目立つものがズシリと背負われていた。


「それはエンジ様の愛用する武器『炎刀・彩』なのです」


 すると、いつも通りエンジの隣にぴったり寄り添うチヨンが、彼の代わりに回答する。


「凄いわねこれ。こんな大きいの扱えるの?」


 確かにリディアの言うようにエンジが背負うソレはあまりに巨大であった。


 

 柄もその頭の更に上にあり、地面に向かって伸びる朱色に染まった鞘は、地面と完全に接しており、これでは移動するにも引きずるような形となりそうである。

 

「この嬢ちゃんの言うとおりだぜ。どうせそんなものハッタリのハリボテかなんかなんだろ?」


 集まった観客の一人が、好奇の目でエンジの得物をみやり、誂うようにいった。

 見るになかなかの筋肉を誇ってる男だ。それなりに腕っ節にも自信があるのかもしれない。


「だったらおっちゃん、これ持ってみっか?」


 言ってエンジが背中から鞘の付いたままの武器を持ち上げ、地面に突き刺した。

 すると石畳が割れ、鞘の状態だというのに深々とソレがめり込んでいく。


「いやぁエンジちゃんってば容赦がないねぇ。あはは、じゃあシンバルちゃん。後でしっかり直しておいてね」


「えっ! えぇええぇえぇえ!」


 シンバルからしてみれば飛んだとばっちりだが、しかしその所為一つとってもその得物が飛んでもない物である事が判る。


 そして勿論、それを軽々と持ち上げたエンジという少年も……。


「は、はん! よ~し見てろよ!」


 腕っ節の強そうな男は、鞘が地面にめり込んでる時点で目を見張っていたが、偉そうに言った手前、引込みがつかなくなったのだろう。


 大きく深呼吸しその柄を掴み、ぐぎぎ! と歯軋りし引っ張り上げようとするが、全く動く気配がない。


「はぁ、はぁ、だ、駄目だぁああ。すげぇな坊主。こんなものよく持ち歩けるよ。馬鹿にして悪かったなぁ」


 男が謝罪すると、別にいいって、とエンジが指で鼻をこすった。


「面白そうじゃねぇか。こんなとこで待ち続けてるのも退屈だと思ったしな。俺にもちょっとやらせろよ」

 

 どうやら男の様子を見て、風真も興味を持ったようだ。


「勿論いいぜ! でも兄ちゃんでもこれを持つのは無理だと思うよ」


 エンジの挑発めいた発言に、あん? と目を眇め。


「けっ。だったらよく見とけ。こんぐらい楽勝だぜ」


 言って風真が柄を掴み、ふん! と腹の底から声を発し、力を込める。


「無理よあんなの。ほら、全然動かないじゃない」


 リディアがバレットの横でそう呟いた。腕を組み、よくやるわね、と言った表情で眺めている。


「まぁでも旦那の底力もかなりの物だからねぇ」


 バレットはハットのブリムを押し上げながら軽く微笑み、そして風真に視線を戻す。


「ふぅぐぉおおうぉ!」


 奥歯をギリギリと噛み締め、力を込める腕の筋肉は膨張し、彼の必死さが伺えた。


「いやいや無理無理。俺でさえ無理だったんだから……」

と最初にチャレンジした男が苦笑いを浮かべた。が、その時。


「いやいや、やるねぇ風真ちゃん」


 フレアが感嘆の声を上げ、シンバルも目を丸くさせた。


 皆の好奇の視線が集まる中、風真の手に握られた柄が少しずつ上昇していく。その腕力によって地面に突き刺さった鞘もズゴゴッ、という重苦しい音を残しながら完全に地を離れ――。


「うぉりゃあぁあ!」


 風真の覇気が爆発し、一気に朱に染まった鞘が天を突いた。はぁはぁ、と余裕という感じではないが、確かにこの男。この巨大な得物を持ち上げたのである。


「す、すげぇ――」

 

 エンジが目を見開き、思わず握りしめていた拳をプルプルと震わせた。


「すげぇよ兄ちゃん! すげぇ! すげぇ! やっぱ兄ちゃんは俺が思った通りの男だよ! チヨン! 俺はこの兄ちゃんとやりたい! やりまくりたいぃいいい!」


「エンジ様。いらぬ誤解を招くので少し控えて下さいませ」


 チヨンが笑顔で釘をさした。ただその笑顔が逆に怖くもあるのだが――


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