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第百二話 白髪の女

「ふふ。あなた格好いいわね」


 そう言って白の女は、彼等の会話に入り込んできた。

 艶のある甘美な声であった。それを聞いたバレットの心臓の鼓動が早まる。

 隣ではリディアが不思議そうな顔をしているが、今のバレットの表情はそれぐらい妙なのであろう。


 そしてバレットは少しずつ顔を巡らせ、視線を声の主へと滑らせていく。

 まず見えたのが差し上げられた腕だ。細くしなやかで、雪のように白い。


 そして次に真白い生地のドレス。所々にはラメが入っておりキラキラと輝いている。

 そして完全に顔を巡らせその視線に映った彼女は、確かに周囲の客がいうように真っ白なウェーブがかった髪を肩まで伸ばした女性。


 大きくてアーモンドのような瞳は確かにキツさが感じられ、ふっくらとした唇からはそこはかとなく妖艶さも滲み出している。


 だが――。


 バレットは肺に溜まった空気を、ふぅうぅ、と大きく吐き出した。そして――人違いか、と小さく呟く。


「もう! バレットってば一体どうしちゃったのよ!」


 隣のリディアが文句を述べる。その調子に漸く気が付いたバレットは彼女をみやり。


「いやいやごめんよ。ちょっと彼女にみとれちまってねぇ~」


 その口ぶりはいつも通りの軽さであった。思っていた人物とは違った事で表情も柔らかくなり、口元には笑みも浮かべる。


「へ、へ~。バレットってばあぁいうのが好みなんだ」


 言ってリディアがぷいっと顔をそむけた。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。


「はっはっはバレットちゃんは素直だねぇ。いやぁ実は僕も見惚れちゃってねぇ。出来ればいろいろと話を聞かせてもらいたいぐらいだよ」


 するとこれまで静観を保っていたフレアが白い姿の彼女をみて、饒舌さを取り戻した。


 そんなフレアに顔を向け、にっこりと魔女の微笑みを浮かべたあと。


「ごめんなさいな。わたしは彼の方が好みなのよ」


 そういってラースに腕を絡ませようとする。かなり積極的な女性だ。


 だがラースはその行為をするりと躱し、

「悪いね。今日はどうもそんな気分じゃないんだ」

と断りをいれた。だがその対応にもどこか女性慣れした感じを匂わせる。


「それでは私はこれで。また会えるのを楽しみにしてますよ」


 そしてラースは皆に向けてそう述べると、颯爽と身を翻し店を後にした。


「あ~あ、つまらないわねぇ。まぁどうせ大会で会えるでしょうけど」


 白で包まれた女は、彼の後ろ姿を眺めながらそんな事をいう。


「て、もしかして貴方も大会参加者なの?」

 

 それに反応し、リディアが目を丸くさせながら尋ねた。


 すると彼女がリディアへと視線を移し、

「貴方もって……お嬢ちゃんもまさか参加しますとか言うんじゃないでしょうね?」

と眼を細める。

 

 そのどこか馬鹿にしたような物言いにムッときたのか少し強めの口調で言葉を返す。


「大会参加者のリディア・メルクールよ! 何か文句があるわけ?」

「メルクール? ……へぇ、貴方がそう。でも意外ね、貴方みたいなミルクの匂いが消えて無さそうなガキンチョがねぇ」


 その言葉に近くで聞いていた風真が、ぷっ、と吹き出した。

 即座にリディアが風真を睨みつけるが、鼻をつまんで見せる風真の所為に、よりリディアの怒りが膨らむ。


「でも、本当に試合になるのかしら? おままごと気分でやってきているならさっさと辞退したほうがいいと思うわよ。無様な醜態を晒しでもしたら折角のメルクールの名前に傷が付いちゃうでしょう?」


 挑発とも侮辱とも取れる言葉の羅列に、リディアの怒りが頂点に達したのかついにテーブルを強く叩きつけ声を荒らげ言を返す。


「黙って聞いてればなんなのよあんた! 初めて会うような人になんでそこまで言われなきゃいけないのよ! 第一ガキンチョって私はこう見えても一七なんだから子供扱いしないでよね!」


「十七歳? あらごめんなさいね。てっきり十二、三歳程度かと思ったわ」


 そう言って、リディアの身体を上から下まで舐め回すように見た後、更に視線をある二点へ向け、馬鹿にしたようにほくそ笑む。


 そして左手で自らの豊かな胸を強調させるように押し上げ、右手を口に添え、オーホッホッホ、と勝ち誇ったような高笑いを決めた。


 リディアは悔しそうにプルプルと肩を震わせる。


「あぁこれは仕方ないねぇ。バストのサイズはちょっと勝てそうにないよ」


 どうやら色気という意味合いでは軍配は白い女に上がったようだ。


「ちょ! フレアさん!」


 リディアが両手を振り上げて抗議する。かなり機嫌を悪くしたようだ。


「ごめんごめん。まぁでもそれ以外のことに関しては今度の試合で勝負を決めるしかないかな。ねっ? スワン・ホワイトさん」


 フレアが女に顔を向け尋ねるように述べる。

 すると名指しされた女の高笑いがやんだ。


「どうしてわかったのかしら?」


「僕はこうみえても大会関係者だからね。それに女性の参加者は二人だけだからリディアちゃんを除けばスワンさんしかいないでしょ?」


「関係者? あぁフレアって貴方がフレア・バーニングね。マグノリア四本柱で『華麗なる焔の貴公子』だったかしら?」


 するとフレアが、いやぁ~、と後頭部を擦り、

「こんな美人さんにまで知られてるなんて僕の知名度も中々のものだねぇ」

と言いながら楽しそうに笑う。


「……そうね。ついでに手が早いとも噂よ」


 付け加えられた手厳しい一言に、あちゃ~、と額を叩く。


「……まぁいいわ。大会で手を合わせることがあれば、名前負けししていないかもわかるしね。まぁ勿論その子が勝ち上がれればの話だけど」


「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」


 何かに対抗するように、リディアが胸の前で腕を組み、勝ち気な口調で言い返した。

 その姿を視界に収めた後、ふふっ、と不敵な笑みを浮かべ、スワンもラースと同じように、身を翻し店を後にした。


「全く! なんなのよあの女!」


 だが、スワンが去った後も、リディアの怒りは収まらないようである。


「ねぇちゃん。大丈夫だ! 女の価値は胸で決まるもんじゃねぇよ!」


 エンジが彼女を励ますように言うと、その横にチヨンが並ぶ。


「そうですわリディア様。女の価値はもっと別なところにありますわよ」


 そう言ってチヨンもニコリと微笑むが、そのたわわな果実の持ち主をみやるリディアは、少々引き攣った笑顔で、あ、ありがとうね、と返すのみである。


「て、てかバレット。そんなにあの人が気になるの?」


 リディアがそう尋ねると、バレットは微笑を浮かべ、

「いやいや、おいらは特定の女性に囚われはしないさぁ。ただちょっと、知り合いに似てた気がしてねぇ」

と言って顎を掻いた。


「そんなこと言ってバレットちゃん。あの大きな胸に見とれてたんじゃないの~?」


 誂うような、フレアの言葉に、

「まぁ間違ってもないけどねぇ」

といつも通りの軽い口調でバレットが返す。


 そんな二人を横目にリディアが自分の胸を押し上げるようにしながら呟いた。


「わ、私だってあそこまでじゃなくてもそれなりには……」


 こうして結局その後は、エンジとチヨンも同席させ、一行は夕食を楽しんだのだった――。





「もうすぐ生誕祭が始まる! うちからも何人か警護に回るものもいると思うが気を引き締めていこう!」

 

 角顔がやたらとでかい声で話すと、周りの者も判ってるって、やら、あいかわらず暑苦しいな、等とやれやれといった感じに答えていた。


 どうやら彼の口調と暑苦しさはいつも変わらないようである。


「さて! それでは仕事に戻るとするか!」


 小休止も終わり、独り言すら暑苦しい彼は、先ずは地下牢へと向かった。

 罪人達の様子をみる為である。ここアースヒルでは久方ぶりの客人である。それだけこのあたりは平和であった。


「よし! 大人しくしているな!」


「てかよぉ。俺らはいつまでここにいりゃいいんだ?」


「あっはっは! 生誕祭が終わるまでは大人しくしてろ! まぁ終わっても王都の牢に移されるだけだがな!」


 地下牢全体に広がるほどの大声で笑い言うと、先日捕まり牢獄に入れられている山賊たちがため息を吐いた。


 それを認め牢屋に入れた罪人の様子は問題無いと判断し、彼は地上に出た。


 そこにふと、一人の青年が近づいてくる。金髪に碧眼というのはこの辺りでは特に珍しいものではないが、ただ町の住人では無いのは確かだ。


「ご苦労さまです」


 そう言って彼が敬礼のポーズを取ってきた。思わずそれに倣って敬礼を返す。


「山賊が囚われているというのはそこの地下ですね? 私、王都に移送するよう命じられやってまいりました。早速ですがご案内頂いてよろしいでしょうか?」


 その言葉に団員は目を丸くさせる。


「いや! 私はそのような話は聞いていないぞ! 大体お前は何者なんだ! 名を名乗れ!」


 表情を切り替え、険しい顔つきで詰問する。


 すると彼は人の良さそうな笑みを浮かべ、

「あれ? おかしいですね。確かにそう命じられているのですが、ほら手紙もこのとおり」

と言って先ず彼は懐から手紙を取り出す。


 団員はその手紙を受取り、怪訝な表情で再び問い詰める。


「お前の名と所属を答えよ!」


「えぇ。そうですね、私の名前は――」


 そう言って彼は髪を掻き揚げ、団員の目をしっかり見つめながら質問に答えた。


「……あ、成る程! そうでしたか! いやいや失礼致しました! 成る程! 予定が変わったのですな! 判りました! さぁ山賊共はこちらです!」


 表情を変えニコニコと彼を歓迎するように地下牢へと向かう。


「納得してもらえたようで良かったです」


 彼は言葉を返しながら、

「あ、ちょっと待って下さい。移送するための手伝いの者も来てますので」

と言って彼は他にも何人かの者を呼び込んだ。


「あん? なんだよ暫くここにいるって話じゃなかったのか?」


 突如牢屋から出るように命じられ、山賊の男は怪訝な顔でそう述べた。


「つべこべ言わずにさっさと出るんだ!」

 

 だが団員が吠えると、ぶつぶつ文句を言いながら山賊たちが檻から出ていく。


「さぁ後はうちの者にまかせておけば良いでしょう」


 金髪の彼は終始にこにこしながら話を進め――。


「もし宜しければ他の団員ともお話をしておきたいのですが……」


 そう言って彼の目を見つめたのであった――。


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