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第百話 風真とエンジと……

「てめぇ覚えてないたぁどういう事だごらぁ!」


 バレットが席を立った少し後、店内に何者かの怒号が響き渡った。

 なんだ? と席に残っていたフレア達が目を向けると、やけにツンツンした赤髪の少年と、艶やかな黒髪と大きな胸が印象的な少女の座る席の前で、どこかで見た事があるようなスキンヘッドがテーブルの台を叩きながら喚き散らしていた。


「んなこと言われてもなぁ。さっぱり覚えてないんだよなぁ」

「エンジ様、ほら、この方は予選で……」


 少女がエンジに囁くように告げると彼は目線を上げ、何かを考える仕草を示す。


「あれ? なんかあの人見たことあるような――」


 客達の視線を一斉に浴びる席の男を見ながら、リディアが呟いた。

 何かを思い出そうとしている様子が見て取れる。


 しかしその直後、その答えを風真が示した。


「たく、腕相撲が弱いだけかと思ったらそんな餓鬼にまで因縁つけて情けねぇ奴だぜ」


 風真は敢えて彼らに聞こえるように言う。


「な、何だと! 誰だ一体! て……あぁあぁあ!」


 スキンヘッドが風真の方へ顔を向け、そして驚きの声を発した。


「くそ! なんて日だ!」


 そしてスキンヘッドが悔しそうに歯噛みする。


「あぁ! 兄ちゃんさっきの!」

と今度はエンジが風真をみやり思い出したように語気を強めた。

 だが当然、風真は彼の事を知らないため少々困惑した顔になる。


 だが、少年は風真の反応も席で怒鳴るスキンヘッドにもお構いなしに、席を立ち風真達の元へ駆け寄った。


「あ、エンジ様!」


 言って少女も立ち上がり後を追う。


「兄ちゃん腕相撲で見たぜ! 俺わくわくしてしょうがな無いんだよ! 大会に出るんだろ? な? な?」

「何この子、風真の知り合いなの?」

「お、俺はこんなやつ知らねぇよ!」


 エンジの質問にやはり戸惑いを隠せない風真。リディアも何で彼が風真の事を知ってるのか? と眉根を寄せる。


「ご、ごめんなさい。エンジ様さきほどの貴方様の腕相撲の様子をみて随分興奮されたようで……」


 エンジの後ろから少女が声を発し頭を下げた。するとフレアが口笛を一度吹き。


「いやぁ可愛らしいお嬢さんだねぇ。よかったら一緒に食事どうかな?」

と節操の無いことを口にした。


「も、もうフレアさん!」

 

 その様子にリディアが両手を振り上げると、あは、ごめんごめん、とおちゃらけたあと。


「でも君の事は知ってるよ。風真ちゃんと同じく試合に出場するエンジちゃんだよね」


 するとエンジの逆立った赤髪がぴくりと揺れた。


「兄ちゃん、俺の事知ってるのか?」


 その問いかけに、勿論さぁ一応関係者だからね、と返しフレアが笑顔を見せる。


「エンジ様。この方はマグノリア四本柱の――」


 少女が耳打ちすると、エンジの目が見広げられる。


「あの、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私、今大会に参加させて頂きますエンジ・ホムラルの【婚約者】であるチヨン・カグラーゼと申します――」


 チヨンは婚約者の部分を特に強調しながら自己紹介をしてきた。

 するとリディアが、こ、婚約者ぁあ!? と素っ頓狂な声を上げ、驚きの表情をみせる。


 はい、と満面の笑みを浮かべるチヨンと、よ、よせよ恥ずかしいじゃねぇか、と照れるエンジ。すると――。


「おいお前ら俺の事を無視してんじゃねぇよ!」


 突如、怒りの篭った声が彼らの話に割って入る。

 その声に全員が顔を向けると、そこには件のスキンヘッドが立っていた。そしていつのまにか横には彼の相棒の小男も立っている。


 だが、怒りを露わにしているスキンヘッドと比べると小男の表情は浮かない。


「おい。もうやめとこうぜ? おれら別にただ飯を食いにきただけだろう?」


「うるせぇ! これが黙ってられるかよ!」


 小男を怒鳴りつけ、スキンヘッドはエンジと風真を交互にみやる。


「おい。お前こいつに何かしたのか?」

 

 風真はエンジにそう問いかけるが。


「いや、そもそも誰かもわからないんだけどさぁ」

「だからエンジ様。予選でエンジ様があっさり倒した男ですよ」


 チヨンはどうやらスキンヘッドの事を覚えているようだが、エンジはさっぱり記憶にないといった具合である。


「しかしねぇ。予選で負けたんだったら今更文句を言っても仕方ないんじゃないかなぁ」

とこれはフレアの言葉。


 するとスキンヘッドがフレアに尖った視線を送り言う。


「おい! あんた話だと大会の関係者なんだろ?」

「うん。まぁ一応はね」

「だったらもう一度俺の実力を見てくれ! 今度はこんなちびっこいやろうに負けはしねぇよ! 一撃で打ちのめしてやる!」

 

 突然のスキンヘッドの申し立てにフレアも苦笑いである。


「おい、いい加減にしてくれ! 喧嘩なら他所でやってくれよ!」


 カウンターの中の店主がいよいよ肝に据えた表情で怒鳴りだす。


「ちっ。だったらてめぇちょっと表にでろ!」


 そしてスキンヘッドがエンジにそう告げる。


 だがエンジは眉を落とし、

「えぇ面倒くさいし嫌だ。あんた弱そうだし」

と率直な意見を述べる。どうやらエンジは予選で一度戦ったということもすっぽり記憶から消え去ってしまっているようだ。


「おいおい。確かにこいつが弱いのは確かだが、ここまで言ってるんだ相手してやればいいだろうが」


 風真はエンジに向かってそう言うが、彼の表情を見るにあまり乗り気ではない。


「て、てめぇらふざけんな!」


 そんなふたりのやり取りにスキンヘッドの怒りもいよいよ頂点に達したようで、茹でダコのように顔を真っ赤にさせている。


「フレアさん。ちょっとそろそろ何とかした方が――」


 眉を落としリディアが囁くようにフレアに告げるが、まぁねぇ確かに困ったことになったねぇ、と彼も戯けてみせるだけである。


 その態度に、もう! とリディアが拳を上下に振るが、その時、フレアの眼つきが少しだけ変わった。


「貴方もそのへんでやめておいたら如何ですか?」


 手が一つスキンヘッドの肩に伸びた。すると筋肉質の肩がビクリと振るえ、そっとスキンヘッドが後ろを振り向いた。

 その背中側に立つ男を風真とエンジも注視する。

 

 そこにいたのは上下を黒で統一した一人の男であった。髪もやはり同じく黒く、少しウェーブが掛かっている。

 

 年代は三十代後半といったところか。上背は風真と同じぐらい。細身だが弱々しいということはなく、凝縮された筋肉に纏われているのが服の上からでもよく判る。

 

「な、何だてめぇは!」


 スキンヘッドは突然の乱入者に語気を強めた。だが何故かスキンヘッドの表情からは恐れのようなものが感じられた――。


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