異変2 飲食店
克慈と立ち寄ったのは、ちょっとリッチな飲食店だ。
惠美
「克ちゃん、……お財布に優しい(安い)飲食店にしようよ。此処のお店は見るからに高そうだよ……」
克慈
「俺が出すからいいでしょ」
惠美
「返す側の私の事も考えてよ〜!」
克慈
「ほら、入るよ」
惠美
「……、は〜い……」
拒否権の無い私は、克慈に言われ、渋々と店内に入った。
店員さんに席へ案内される。
道路が見える窓側だ。
テーブルの上には三枚のメニューが置かれている。
メニューを見て選んでいると、店員さんがお絞りと水の入ったコップを置いてくれた。
今時珍しい温かいお絞りの封を切り、手にを取った克慈は、お絞りを広げて顔をふきふきしている。
……克慈は彼女の前でも同じ事をするのだろうか?
……う〜ん、しないかも知れない?
異性と向き合っているのに、躊躇いもせずにお絞りで顔を拭く行為を堂々とする克慈は、やはり私を異性としてではなく妹だと思っているからだろうか?
まぁ、別に私は何も言わないけどね。
残念ながら(?)、私の周りにお絞りで顔を拭く異性は克慈しか居ない。
勿論、同姓にだってお絞りで顔を拭く子は居りませんよ。
お絞りで顔を拭く人が、私には物珍しかったりする。
見ていて面白いから、スルーするんだ。
面白いと感じたり、不快な思いがしないのは、相手が克慈だからだろうか?
克慈がもし、善朋だったら私はどう感じていただろう……。
惠美
「克ちゃん、お絞りさ、もう一袋貰う?」
克慈
「なんで?」
惠美
「だって、お絞りって手拭き用じゃない? 顔拭いたお絞りで手を拭くの?」
克慈
「何時もそうだけど」
惠美
「……顔を拭くのと手を拭くのって分けた方が良くない?」
克慈
「必要ないよ」
惠美
「そうなの?」
どうやら、もう一袋は要らないらしい。
……、手拭き用に出されるお絞りで顔を拭くのって、本当の所はどうなんだろう?
衛生面的に大丈夫なのだろうか?
店員さんに『手拭きお絞りで顔を拭いても衛生面的に大丈夫なんですか』って聞いてみたいけど、何か恥ずかしいや(////)
まあ、いっか、私の顔じゃないんだし。
うん、人の顔だもんね。
気にしない、気にしない。
別に私が言わなくとも、克慈の彼女が何か言うだろう。
既に言われているかも知れない。
……お絞りで顔を拭いた人とキスするのって、どうなんだろう?
克慈の彼女は、克慈がお絞りで顔を拭いても気にしないのだろうか?
気にせずに克慈とキスが出来るのだろうか?
寧ろ、お絞りで顔を拭く克慈の行為を好きだったりして、受け入れているかも知れない。
……心の広い彼女で良かったよね、克慈。
私は……彼女である私の前で、さも当然の如く、当たり前にお絞りで顔を拭く彼氏は━━嫌だなぁ。
私が居ない時に拭くのは構わないけど……。
だって何か女性に対して失礼な行為じゃない?
ふう……、私は心の狭い女なんだっちゃ。
克慈
「惠美、決まった?」
惠美
「うん、何が?」
克慈
「何にするか決めたの?」
惠美
「え、ああっ、メニュー? うん、決まってるよ(////)」
いけない、いけない。
お絞りの顔拭きについて考えてたら忘れてた!
克慈
「何にするの?」
惠美
「う〜んとね……」
克慈
「決めてなかったの?」
惠美
「そんな事ないよ(////)……あっ、これにする! とろろとチーズのオムライスグラタンの梅ソース」
克慈
「惠美は食いしん坊だね」
惠美
「そんな事ないよ! お腹空いてるから━━。克ちゃんは何にするの?」
克慈
「何だと思う?」
惠美
「知らないよ。なぞなぞみたいに言わないで!」
メニューを聞きに来てくれた店員さんに、克慈がメニューを伝えてくれる。
克慈はカレーライスを注文していた。
そう言えば、カレーが好きって言ってたっけ。
福神漬けがあれば幾らでも食べれるとか……。
注文していた料理が運ばれて来た。
克慈のカレーライスは、沢山のキノコが入ったキノコ尽くしのカレーライスらしい。
惠美
「やっぱりさ、お腹が空いた時はご飯がいいね。お米食べてるとホッとする」
克慈
「俺が米派だからでしょ」
惠美
「違うしっ! 然り気無く“俺が”とか言わないでよ。私の家族は元からお米好きなんです〜!」
克慈
「味も分からないのに?」
惠美
「しょうがないじゃん。お母さんの実家のお米しか食べてないもん。売ってるお米を食べる機会ないもん」
克慈
「オムライスのご飯の味、分かる?」
惠美
「……、分かりません〜。ご飯の味は分からないけど、美味しいよ♪」
克慈
「お米の味が分からないなんて、お祖父さんとお祖母さんが聞いたら落胆するだろうね」
惠美
「そんな事ないよ。お母さんもお米の味『分からない』って言ってるもん。お父さんは『美味しい』って言ってるけど、嘘か本当か分からないし」
克慈
「どうして?」
惠美
「だってさ、お母さんの実家から送られて来るからお米代はタダじゃん。タダで食べさせて貰ってるお米に『不味い』なんて言える? そんな事を言っちゃったら、二度とお米を貰えなくなっちゃうかも知れないじゃん? お母さんって、ああ見えて結構厄介な性格してるんだよ。下手な事を言って地雷踏んじゃった時なんて……。考えたくないよ」
克慈
「ふぅん、地雷ね……」
惠美
「そうだよ。お母さんのご機嫌損ねないように生活してるの」
克慈
「大変だね」
惠美
「笑いながら言わないでよ〜」
克慈
「賑やかで羨ましいよ。寂しくないでしょ」
惠美
「……あっ、……うん、そうだよね……。ごめんね……」
そうだった。
克慈はずっと鍵っ子だから、親と接する機会が無いに等しいの。
私の家族みたいにガヤガヤ煩くないんだ。
克慈
「……出来る事なら俺も一緒に暮らしたいくらいだよ」
惠美
「……克ちゃん。……本当にごめんなさい……」
克慈
「いいよ。悳司さんの味方になりたいだけだからね」
惠美
「どういうこと?」
克慈
「女性二人に挟まれてさ、頭を抱えて苦労してるんじゃないかなって思うからかな」
惠美
「お父さんが?」
克慈
「惠美が美加さんと喧嘩してる時、悳司さんはどんな感じで居るか考えてみた事ないの?」
惠美
「……ない、かも……。だってお父さん、テレビ見てるし……。お風呂に入りに行ったり……って、何で家の話になってるの!」
克慈
「惠美は流され易いからね」
惠美
「もう〜っ、家の話は終わり! それより、明日は寺社に何しに行くの? やっぱりお祓い?」
克慈
「お祓いはしないって」
惠美
「じゃあ……あっ、先輩? この前、会えなかった先輩に?」
克慈
「そう言う事でいいよ」
惠美
「むぅ、何その言い方〜。気になるんですけど!」
克慈
「着いてからの楽しみでいいでしょ。帰るよ」
夕食を終えると克慈は真っ直ぐレジに向かい、私の会計も済ませてくれた。
惠美
「あのっ、ありがと(////)」
克慈
「いいよ。俺がそうしたいからしただけ。たまにはいいでしょ? それに給料日に返してくれるんでしょ」
惠美
「そうだけど〜」
優しさが台無しだよ!!!!
店を出て、克慈の車に乗り込む。




