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アンシリア戦記 外伝  作者: 大和 紅
エイファ・グレイザー編
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第一話 王子と悪魔

アンシリア暦四九ニ年、冬。

南アンシリア大陸の最北東に位置する大国「ウルブレント」の侵略を受け、その南に隣接する小国「ヒュンダス」は滅びた。

国王、王妃、第一王子の三人の王族が殺され、第二王子は戦いの中、谷へ落下し、消息不明。

唯一、第三王子のエイファだけが、二人の従者と共に、他国へ使者として出向いていた為、生き残ることができた。

侵略を受けたとは聞いたが、帰国したエイファの目に飛び込んで来たのは、想像より遥かに凄惨な光景だった。

村は焼かれ、若く健康な男は奴隷として、女は慰みものとして連れさられた。それ以外の国民は悉く殺されていた。


「なんという事だ……、我等が留守の間にこのような……」


エイファの従者である壮年の騎士、ドルフは落胆した表情でそう漏らした。

小高い丘の上に三騎の騎馬が佇み、かつて『村だった』所を見下ろしている。

ドルフは言った。

ヒュンダスに生まれて四十三年、このような悲惨な光景は初めて見たと。


「父上、母上や兄上達は…?」


漠然と景色を見回すエイファの顔に、絶望が色濃く浮かび上がる。

先月二十歳を迎えたばかりの第三王子エイファは、三兄弟の中では最も大人しく、優しい性格をしている。背丈は低くなかったが、体格は華奢で、武術よりも勉学に秀でていた。


「ここに居ても仕方がありません。エイファ王子、まずはヒュンダス城へ向かいましょう」


もう一人の従者、騎士レクトールはそう言って、馬首を城がある東へ巡らした。

レクトールは右手に長槍を持ち、馬に前進を促した。

ヒュンダスでも屈指の勇者である彼は、エイファの近衛騎士として、常に行動を共にしている。有事の際、彼程心強い存在はいない。


一行は、変わり果てたヒュンダスの景色を目に焼き付けながら、城を目指した。

道中、村人だけではなく、騎士団に所属する騎士や兵士の死体も数多く発見した。そして、ウルブレントの騎士の死体も幾つか発見した。


「……間違いない。ウルブレントが攻め込んできたのです」

「そ、そんな!」


レクトールの言葉に驚愕し、大きな声を発するエイファ。

ウルブレントとヒュンダスは、友好関係にあったとは言えないながらも、戦争を起こすような間柄ではなかった。

ただ、南アンシリアの十大国に数えられるウルブレントに侵略を受けたならば、小国ヒュンダスなど一溜まりもない事は、容易に想像できる。


死者へ祈りを捧げるには、あまりに数が多過ぎる。エイファは一歩、また一歩足を前に進める度、胸に重い楔を打ち込まれるような気がしてならなかった。

そんな時である。

声が聞こえてきた。


「まだ生き残っているヒュンダス人がいるぞ!」

「殺せ!一人残らず殺すんだ!」


言葉に訛りがある。

ウルブレント人特有の訛りである。

姿を現したのは七人の武装したウルブレント騎士団の一個小隊だった。

各々に武器を構え、エイファ達三人を取り囲む。


「貴公ら、何故このヒュンダスを襲うのだ?」


ドルフの問いに応えようもせず、ウルブレントの騎士達は、一斉に襲いかかってきた。

長槍を巧みに操るレクトールが、同時に二人を相手にする。ヒュンダス屈指の勇者である彼の実力は、ウルブレント騎士団にも十分に通用した。

ドルフもまた、帯剣を引き抜いて応戦する。

激しい戦いが繰り広げられた。

騎士としての実力はレクトールやドルフが勝っていた。しかし、数において優位に立つウルブレント騎士団に軍配は上がった。

ドルフは剣が弾き飛ばされ、丸腰になった途端、三方から一斉に剣で突き刺されて絶命した。

ウルブレント騎士二人を屠ったレクトールは、 右腕を負傷し、左手だけで長槍を操り、必死に応戦していた。


「た、助けて!」


その時、二人に守られるようにして退避していたエイファの元に、長剣を手にしたウルブレント騎士が迫ってきた。剣を手にするエイファだが、恐怖に怯え、全身を震わせている。


「王子っ!」


叫び、敵を薙ぎ払ってエイファの元へ駆けるレクトール。

エイファに向かって振り下ろされる刃をその身に受け、長槍でウルブレント騎士の胸を貫く。

双方、その場に崩れ落ちると、もう二度と動くことはなかった。


「レクトール……、ドルフ……!」


頼りになる二人の騎士達はもういない。エイファに死の気配が近づいていた。

四人のウルブレント騎士がエイファを追い詰める。手にした剣を闇雲に振り回すが、空を切るだけだった。

一人の騎士がエイファの剣を弾き飛ばし、続けて一閃する。

左腕を斬りつけられたエイファは、痛みに耐えつつ、踵を返して逃げ出そうとした。

しかし、背を向けた途端、今度は腹部を刺し貫かれてしまった。

前のめりに倒れ込み、吐血する。


「あ…、た、助け……」


ウルブレント騎士達は、薄ら笑いを浮かべながらエイファの死を見届けようとしている。

命乞いなどしても無駄なのに、口からは助けを求める言葉が出てくる。

どの顔も笑っていた。

何故、自分がこんな目に……。

憎い……。

この男達が憎くてたまらない。

でも、自分の力ではどうする事も出来ない。

一思いに止めを刺さず、このまま力尽きるのを見ている男達。

お願いだから、もう楽に……。

目を瞑り、訪れる死を迎え入れようとした時であった。


「グ、グレイザーだっ!」


ウルブレント騎士の一人がそう叫んだ。どうやら、ここに何者かが近づいて来たようだった。

エイファは薄っすらと目を開けたが、視界がぼやけているせいで、その「グレイザー」という者の姿は見えなかった。


ゆっくりと歩み寄るグレイザーと呼ばれる人物は、諸刃の大剣と大型魔獣の頭蓋骨で作られた兜を身につけた大男だった。


ウルブレント騎士達は、剣を構えてグレイザーと向き合う。


「お、おい……、こいつ、本当にあのグレイザーなのかよ?」

「なぁ、そもそもグレイザーって何なんだよ?」


四人のウルブレント騎士達は、剣の切っ先を大男に向けながら会話をしている。

それは、恐怖を和らげる為にあえてそうしているかのようだった。

一人の騎士が言った。


「グレイザーって、ガキの頃に聞いたことあるだろう?魔物の頭蓋をかぶり、巨大な剣で人を斬る殺人鬼の伝説を……」

「あれはただの昔話だろう? そんな悪魔が実在するってのかよ!」


ウルブレントの昔話に登場する悪魔。

大剣で人を斬る殺人鬼。

グレイザーと呼ばれる架空の存在。

しかし、それが今、騎士達の目の前にいる。

獣の皮で作られた服と腰巻き、その上に軽装鎧を身につけたグレイザーは、大剣を構えると、低い声を発した。


「今すぐ去れ」


顔まで魔獣の頭蓋骨で隠れている為、素顔や表情は読み取れない。

だが、言葉が通じる事はわかった。

悪魔などではない。グレイザーは人間だ。そう確信した途端、ウルブレント騎士達の気持ちに余裕ができた。


「へへっ……、何が今すぐ去れだ。一対四でやり合えば、俺らが勝つに決まってるだろう!」

「やるぞ、グレイザー狩りだ!」


一斉に四人の騎士がグレイザーに襲いかかった。

四本の剣が、大男に死を見舞う。

しかし、グレイザーが大剣を一振りすると、ニ人のウルブレント騎士が、文字通り真っ二つにされた。

真横に凪いだグレイザーの大剣が、騎士達の身体を両断したのだ。

それは人の成せる業とは思えぬ程、現実離れした光景だった。

一瞬にして戦慄が奔ったウルブレント騎士達は、斬りかかるのをやめ、思わず後ずさった。


「ひ、一太刀で二人を……、悪魔だ!こいつは本物の悪魔だ!」

「殺人鬼グレイザー!」


足が震え、恐怖に支配されたウルブレント騎士達は、先程のエイファのように、背を向けて逃げ出そうとした。その時、グレイザーの大剣が一人の騎士の首を撥ねた。

転がる仲間の頭部を目にした騎士が、グレイザーの方へ振り返った瞬間、大きな手で喉を掴まれた。

声を出すことは出来ず、次第に息も苦しくなる。


「騎士たるもの、挑んだ戦いを放棄するのもではない。まして、敵前逃亡など論外なり!」


グレイザーの大剣が騎士の腹部を貫いた。

瞬く間に四人を屠ったグレイザーは、死の淵にあるエイファを見た。

既に意識はなく、間も無く訪れる死に飲み込まれるヒュンダスの王子。

この時、エイファの中で変化が起こっていた。それは本人も予想すら出来なかったことであった。

グレイザーは大剣を納め、エイファの元へ歩み寄った。脈を読み、まだ生きている事を確かめると、その場で火を起こしはじめた。


「死を受け入れるな、生きろ!」


助けようとするグレイザーの気持ちに応えるように、エイファはうっすらと目を開いた……。



滅びた小国にて、二人が出会ったのは偶然だったのかもしれない。

しかし、この出会いは後に、南アンシリアの歴史で大きな意味を持つ事になる。

勿論、今の二人には知る由もない事であった。

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