亜依
キョウ……?
広がる雨降りの曇り空の下、アイは身体を起こした。キョウを探して辺りを見回すが、見つからない。
喉の痛みを感じる。
アイは尻尾を見つめる。よだれを垂らしたが、キョウの姿を思い出すと目線をそらした。
しゃがみこみ、うずくまる。かたかたと震え、頭をかかえ、首を振る。アイの中で、目覚めてしまった過去の記憶が人ならざる身体を蝕んでいた。獲物を引き裂く、食らう、その行為の全てを、身体が拒否していたのだ。
この身体が、嫌だ。
ばらばらになりそうだった。
どこからかキョウの声が聞こえてきた、気がした。呼びかけてきている。その声に懐かしさを感じた。
なのにそれがたちどころに消えていくのも、アイは感じている。自分じゃない自分が自分を、自分の手で捕らえ、引き裂き、溶かし、消していく。
かすかな記憶、これが消えてしまうと自分は死んでしまう。だとしたらその後に残る自分は一体、何なんだろう。そうなってしまうくらいなら、死んでしまいたい。
自分が分かりたいのに分からない。ただ、肉と本能に生きていけばいいのか。アイは考えれば考えるほど、頭を痛める。
私は、私は、私は?
ぐぉぉぉぉぉぉん――――
叫び声が、雄叫びが島中に響いた。
アイはは引き寄せられるように歩み出す。
その声の元へ。
キョウの元へと。




