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 少しずつ時間の感覚がおかしくなってきている気がする。日記を書かなくなってどれくらい経ったのか、時の流れは感じていても、それがどことなく分からない。

 そんな事を思いながらも私はへたりと座り込んでいるアイに近づき頭を撫でようとしたが、その感触がいつもと少し違っている事に気づいた。

 いつもより少しだけ、弾力がない。肌の色も、心なしかくすんでいるように見える。どうしたのだろうか。

 と、アイは右手で自らの左肩を掻いた。すると、じゅるりと音をたてて、その肩から何かが剥がれ落ちた。アイは喉を鳴らす。私は地面に落とされたそれを拾い上げ、分かった。

 ーー脱皮。

 鱗ではないものの、アイの肌の構造は、爬虫類のそれに近いのだろうか。

 アイはその場で座ったまま、うじゅるうじゅると古くなった皮を手でつまんで取っていく。手の甲にへばりついた皮は、口ではぎ取ってそのまま食べていた。古い皮の下から、今までよりも一層まばゆい青をした新しい肌が見える。私はその様子を見ていたが、気付くと身体をアイの元に向かわせて、しゃがんでいた。

 アイの足を伸ばさせる。獣と人とが混ざったかのような形状の脚、しかし爪はない。締まったふくらはぎ、太ももの動物的な筋肉のような流れ。

 古い皮を、私の手でゆっくりはいでやる。寄り添って、ずるりずるりと。下から、艶やかな肌。皮が剥がれやすいようにか、アイからは普段より多めに粘液が垂れ落ち、私にかかる。

 ずっと剥ぐ。剥ぐ。優しく、呼吸をするたびに少しだけ身体が動くアイの身体を撫でるように、剥ぐ。どれくらいこれをしているだろう。足から腰、背中に尾。くまなく、取り残しがないように。


 アイは綺麗になった。


 満足げに喉を鳴らしながら私を見つめてくる。粘液を垂らしながらその尾をくねらせつつ、私を見つめてくる。

 最近のアイはいつもこうだ。私ににじり寄って、寄り添ってくれている。

 それが純粋に嬉しい。

 今日もそれに応じようと私は動いたが、その時、アイのもう1つの異変に気付いた。


 肘と膝を突き、少しだけ苦しそうなアイの下腹部が、いつもより膨らんでいた。

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