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 アイは今日も生きている。私は今日も生きている。それだけで十分だった。

 私は彼女のそばに近寄った。手足もすっかり生えて成体になった彼女の様々な所を、もっと知りたいのだ。彼女と共に生きる者として。

「アイ……口を開けてくれ」

 言うと、彼女は私の言葉を理解しているのか、ゆっくりとした動作で腰をかがめ、私の眼前で口を開いた。開いていく上顎と下顎の間、唾液のような、粘液のようなそれが伸びる。

 こんな彼女を怪物だと言えるだろうか。

 ただ愛おしいのだ。

 彼女の口は外見からでも見て分かるようにぎざぎざとしたラインをしている。しかしそれは牙ではなく、皮膚が硬化したもののようだった。それだけでもある程度獲物に食いついたりは可能だが、それだけでは心もとない時もある。

 彼女は私が何も言わずとも、隠されたその牙を私に見せる。

 開いた口の中で音を立てて、つららのように美しく透明な、それでいて細く鋭い牙が、生えていく。普段からここまで凶暴な牙を生やしていては口を閉じるのも困難になる為、いつもはその牙を表面には出さないのだ。

 私はその牙をそっと撫でてみる。

 ああ。

 恐ろしく、美しい。

 私は彼女の開かれた口の中に、そろそろと手のひらを差し込んでみる。彼女の喉の奥からは、涼しい風が吹き、私の手を撫でる。

 そしてもう片方の手で、彼女の下顎を思い切り下から押し上げた。

 私の差し込んだ手が、肉が。まるで豆腐のように、何の抵抗もなく、いとも簡単に貫かれた。


 気が付くと私は笑っていた。気持ちいいくらいに笑い声をあげていた。


 私の身体は既に彼女と同種のそれになりかけている。これぐらいの傷は、問題にならないほどに。

 それよりも私は、これから彼女の実験体を自らが演じられる事に恍惚となっていた。

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