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崩壊:10

 彼女は皮膚を焼かれながら命の灯火を消していく優の上半身を大きな口でくわえた。そのまま、自らの口内へ優を――餌を、呑み込んでいく。細くはない首が、更に更に膨らんでいく。

 あっけない。真にあっけなかった。

 私が何をしようとしまいと、こういう結末が待っていたのだろうか。一瞬でも優を殺すまいと思っていたのが間違いで、私と彼女の怪我の原因だったのだろうか。彼女を守るよりも優を守ろうと、一瞬でも思ってしまったのは間違いだったのだろうか。

 彼女が餌を喰らう。呑み込む。自らの身体の一部とする。それだけ。

 なのに、どうしてこうも心が揺れる? 初めて彼女が痛手を負ったからか? 私が痛手を負ったからか?

 どうして、こうも心が揺れる?


 優が死ぬからか?


 何の感情なのか分からない。感動とは感じて動くとは言うが、それが喜びなのか悲しみなのかは分からないのだ。

 彼女が優の上半身をほぼ全て呑み込んだ。三枝 優、彼の体が。彼女を痛めつけた忌々しいその体が。私と対立した、私と言葉を交わした、私と昔生活を共にしていた、私の、私の。

 数少ない友人が、彼女に喰われている。

「あっ……」

 私はよたよたと、身体を無理やり動かして彼女の元へと行き、その喰われつつある優の身体を掴んだ。

「ダメだ、ダメだよアイ……」

 彼女は餌を取られるのかと思ったのか、唸りながら顎に力を入れた。あまり心地よくない音と共に優の下半身がどさりと私の足元に落ち、血溜まりを作っていく。

「うわああああああ!!」

 ぐおおおおおおん――

 私と彼女は叫ぶ。歓喜に、絶望に、生きる希望に、死への不安に、栄光に、絶望に。

 そして訪れる静寂。


 かすかに外から聞こえる、ぱたぱたとした音。

 今日は雨のようだ。

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