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今日はアイの身体検査。少しだけ緊張する。さて、マスクをつけ、ゴム手袋をつけ、不慮の事故に気をつける。
透明な液体に満たされたガラス管の前に立つ。アイは、緩やかに泳ぎながら私の方をじっと見ている。アイの身体には見た所エラと思われる器官は見当たらないが、ガラス管の液体は肺呼吸の生物でも酸素の取り込みができるようになっている。
ガラス管の横に置かれた装置のボタンをいくつか押してみる。すると、液体が少しずつ排出され、水位が下がり始める。アイはぴくりと反応したが、特に暴れ出す事もなく、落ち着いた様子だ。
ガラス管の中が空になった所で、ガラス管の下部の一部がスライドし、開く。私がガラス管の中に手を伸ばすと、アイは私を浸食するかのようにゆっくりと絡みつくように体を登っていく。白衣越しに這い寄る感触を感じながら、背中を冷や汗が伝う。大丈夫だ、襲ってこないはず、と言い聞かせる。そんな私をよそに、アイは気ままに私の肩に居座る。私は肩の力を抜けず、こわばらせたまま体重計まで歩く。そしてアイを乗せると、体重計は約15キロを示した。
5日で3キロ増、成長ペースが早い。私はアイの体長も測ることにした。……30センチ伸びて90センチ。予想以上だ。アイが成熟するまで、そう時間はかからないだろう。そして私の願いが叶うまでも。私はアイを抱きかかえた。
その時だ。
アイの尖った口が、私の首筋に突き刺さった。血を、吸われていく痺れに似た感覚。引き離そうとしたが、体の力が抜け、意識が遠のくのが先だった。
そして私は今日記を書いている。丸2日近く意識を失っていたようだが、特に異常はない。私の首筋の傷も……異常なほど正常だ。まるで跡がない。夢かとも思ったが、血痕が残っていた辺り、そうではないらしい。私が目覚めた時、アイは平然と私の周りを這っていた。怪我もない。だがしかしいつ事故が起きるか分からない。今度から更に気を付けよう。 明日からまた、餌やりと観察だ。まだこの生活サイクルに慣れていない、早く慣れなければ。