崩壊:9
亜依……?
その声で私の意識ははっきりとしたそれに戻った。その私の目は、彼女が優に飛びかかるその瞬間を捉えていた。私に気を取られていたのか、優は反応できずに彼女に押し倒される。両腕は破壊され脚もまだない彼女は、しかし人間よりも大木な身体で優の自由を奪う。私は痛みに感覚を身体の自由と感覚を掻き消されながらそれを見る事しか、できない。
優は死力を尽くして、その銃口を彼女の口に突っ込んだ。指は既に引き金にかかっている。
「は……はは、殺せねえだろおい、口も手も使えなくてよお!」
彼女はその言葉に応えるかのように、喉を膨らませた。
そして、水音と共に優の声は悲鳴に変わった。
びちゃびちゃ。
存在を溶かしていく、
存在を焼いていく、
悲鳴を溶かして、
恐怖を焼いて、
体を溶かし、
命を消し、
命の主、
優を、
優を、
優の、
命、
を。
悲鳴とは、泣き叫ぶとは、こういう事を言うんだ。そう思わされる声だった。
彼女の喉が動き、ごぶりと湿った音を鳴らしながら吐き出したその黄色い液体は、彼女の消化液なのだろう。つんざく悲鳴とつんざく匂い。
優はのしかかられたまま避ける事もできずにそれをまともに浴びた。焼ける肉の音が聞こえてきそうなほどの酸の匂い。
はは、ざまあみろ。
悲鳴が止まない。彼女の消化液でも、瞬時に命を奪ってしまうほどの強酸を持ってはいない。だが、確実に溶かす。塩酸よりも容赦なく。その体を。
苦しんで死ね。
「苦しんで……死にやがれ!!」
はははははは――
私の笑い声だ。無意識に喉からほとばしる。嬉しい。心から嬉しい。嬉しい嬉しい。彼女が勝った。
私達は勝った。
私は、何もできないまま、勝った。




